ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

あなたはまだ帰ってこない

2019-02-23 22:06:17 | あ行

「かくも長き不在」より、ある意味残酷かも。

 

「あなたはまだ帰ってこない」73点★★★★

 

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1944年6月、ナチス占領下のパリ。

ジャーナリストで作家のマルグリット(メラニー・ティエリー)は

夫とともにレジスタンス活動に参加していた。

 

だが、夫がゲシュタポに連れ去られてしまう。

マルグリットは夫の消息を知ろうとパリのナチス本拠地に通うが

情報を得ることができない。

そんな彼女を、仲間のディオニス(バンジャマン・ビオレ)が支え続けていた。

 

ある日、マルグリットは

ゲシュタポの手先ラビエ(ブノワ・マジメル)に声をかけられる。

夫を逮捕したのは自分だ、というラビエは

作家であるマルグリットを知っており、尊敬していた。

そしてラビエは「夫の情報を教える」と言い、彼女をカフェに呼び出すのだが――?!

 

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小説「愛人(ラマン)」や

「かくも長き不在」(1961年)の脚本家としても知られる

マルグリット・デュラスの自伝的小説が原作。

 

文学的な語りの美しさ、妙な静けさを持った戦時下のパリの独特の空気、

そして残酷さが

観終わってもまとわりつく、印象的な作品でした。

 

1945年のパリで政治犯として捕らわれた夫の帰りを待つ

美しき妻マルグリット。

新聞社で働きながら、レジスタンス活動もし、言葉を紡ぎながら、闘っている。

 

そんな彼女は「女の武器」を使ってゲシュタポの手先に取り入り、情報をもらうのか?

常にそばにいてくれる仲間の男との関係は――?

など、いろいろ想像もできるんですが

決して、陳腐なメロドラマや悲劇にはならない。

 

さらに印象的だったのが、当時のパリの状況。

街は妙に静かで、情報もなく、ホロコーストのことも誰もよくわかっていない――

戦争中ではあるんだけれど、どこか不思議に間の抜けた平常のなかで

夫を待ち続けるマルグリッド。

 

果たして夫は帰るのか――? 

ドアベルが鳴るたび、電話がなるたび、時計が時を知らせるたび、ドキッとし

観客は「待ち続ける」時間のうろんさを体験することになる。

 

希望的観測はミリともない、いや、無理だろうと誰もが思っているなか、

話は意外な展開を迎えるんです。

しかし、ここからまた、静かに驚きの展開が待っているのだ――。

同じテーマを扱った名作「かくも長き不在」より

ある意味、残酷かもしれない――。

 

悲劇も喜びもすべてが

現実か、幻か、わからない。

その境界をさまようような、演出も巧みでした。

 

★2/22(金)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「あなたはまだ帰ってこない」公式サイト

コメント
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