ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ヴィオレット-ある作家の肖像-

2015-12-13 21:40:15 | は行
ワシの2010年のベストワン映画

「セラフィーヌの庭」
のマルタン・プロヴォ監督の新作。


「ヴィオレット-ある作家の肖像-」72点★★★★


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1942年、戦時中のフランス。

私生児として生まれ
愛に飢えた女性ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)は

作家のモーリス(オリヴィエ・ピィ)に
「小説を書け」とアドバイスされる。

書くことに目覚めたヴォレットは
パリでボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)の小説に出合い、
彼女に「読んでほしい」と自分の作品を手渡すが――?!


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女性として初めて生と性を赤裸々に描き
ボーヴォワールの後押しで、作家として踏み出した
実在の作家ヴィオレットの物語です。


冒頭、逃げる主人公が捕まり
スーツケースを開くと、そこには――?!という場面からして
「一体何ごとか?!」と思わせたり
まあ
想像の余白だらけなところが“大人”な
フランス映画です。


あまり知られてない女性芸術家の半生という題材といい
自然児でゴツい(失礼!)
エマニュエル・ドゥヴォスの存在感といい
(つけ鼻をつけてるそうです。・・・自然すぎてわからなかった!←重ねて失礼過ぎる・・・


見終わってみると
「セラフィーヌの庭」に共通するところが
とても多かったですねえ。


前半、ヴィオレットが「書くこと」に目覚めるまでは
全体的にすすけた印象で
でも、素朴な自然光の風景が美しい。

そこから舞台がパリに移り
ヴィオレットが
知的で洗練されたボーヴォワールに出会うんですが

この前半から中盤への
盛り上がりに「グッ!」とターボ入る瞬間が
とても気持ちよかった。


そして
ボーヴォワールを演じるサンドリーヌ・キベルランと
ドゥヴォスの対比が抜群。

華奢なボーヴォワールが
凜とした強さをにじませるのに対して、
骨太なヴィオレットの
大きな子どものような弱さが際立つんですねえ。

映画の構成も
年月の流れをその時代に関わる人の名前をつけて章立てされ
なかなか粋です。

あの香水のゲランやジャン・ジュネなど
ヴィオレットに関わる文化人たちも興味深く

誰かが下宿にやってきては
酒と芸術や文学の話を交わして、また繋がっていく。

アーティストが「何者か」になる前の
苦悩に満ちた、しかしみずみずしい時間が
よく切り取られていて

139分とけっこう長いんですが
心地よく見られました。


★12/19(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ヴィオレット-ある作家の肖像-」公式サイト
コメント
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