goo blog サービス終了のお知らせ 

ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

長いお別れ

2019-05-29 23:42:34 | な行

「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)監督作。

感情の「カツン、」な瞬間の

すくいあげ方が見事!

 

「長いお別れ」76点★★★★

 

*********************************

 

東京郊外に住む、東(ひがし)一家。

 

母(松原智恵子)は

夫の転勤でアメリカに住む長女(竹内結子)と

都内で一人暮らしをする次女(蒼井優)に電話をかけている。

 

「お父さんの70歳の誕生パーティーをします。

話したいことがあるから、絶対に来てね」――

 

そして、久しぶりに一家が集まったパーティー当日。

娘たちは父(山﨑努)の様子がどこかおかしいことに気づく。

 

そんな娘たちに母は言う。

「お父さんね、認知症だって言われたの」――

 

それぞれに悩みを抱える娘たち、そして母は

父を見守りながら、

日々を過ごしていく――。

 

*********************************

 

「湯を沸かすほどの熱い愛」中野量太監督。

認知症の父を見守る家族の7年を描いた作品で

原作者・中島京子さん自身の体験をもとに書かれているそう。

 

中野監督とは

「FILT」の杉野剛さん対談の取材でお目にかかり

オリジナル脚本にこだわっているという話を聞いていたので

最初は「原作ものなんだ」と意外だった。

 

でも、

うん、この原作を選んだのはわかるなあ!

 

監督の描きたい世界観に、

ピッタリだったんだと思うんです。

 

 

家族は、別れがあっても、つながるもの。

そんなテーマのもとに、「認知症」という題材を扱いつつも

やさしく、あたたかいんですね。

そして悲しみを、ぷっと笑いに変えるマジックが効いている。

 

 

冒頭、蒼井優さん演じる次女が

出し巻き卵にケチャップをかける彼氏に

「コツン、」とひっかかる様子とか、

 

「まずまず、美味しかった」とか言われたときの

感情の「カツン、」な瞬間とか。

 

そんなささやかな、人の心の機微の感触をすくいあげるのが

本当にうまい監督なんですよねえ。

 

蒼井優さんが、プレスのインタビューでこの次女を

「不器用でもない、ちょっと不憫なタイプの女性」と

評していることに

まさに芯を付いてるな!と感動しましたw

 

そのキャラクターを誰より理解し、消化して芝居で、それをこちらに伝える。

海外の役者さんのインタビューを読むと

その鋭さにハッ!とするんですが

蒼井優さんもさすがだった。

 

長女役の竹内結子さんも、

力みに、親しみとヌケ感も併せ持つ長女をうまく演じているし

 

繊細でほんわりしたお母さん役の松原智恵子さんの空気が、

映画を茶巾寿司のように包みこんでいて

本当にステキだった。

 

 

そして、ちょっと頑固なお父さん役・山崎努さんに

どこか自分の父を見る思いもして

蒼井優さんや竹内結子さんのような

こんな娘になれないなあ、と自己嫌悪にも陥るのでした。

 

発売中の「週刊朝日」の連載「もう一つの自分史」で

松原智恵子さんにお話を伺ってきました。

 

監督いわく

「竹内さんと蒼井さんと三姉妹のようだった」そうで

まさに、そんな可憐な印象に感動。

でも、実は・・・・・・?という面も持っているようで

 

ぜひ、映画と併せてご一読くださいませ~。

 

★5/31(金)から全国で公開。

「長いお別れ」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス

2019-05-18 15:11:44 | な行

フレデリック・ワイズマン監督、

今回は3時間25分!(笑)

 

***********************************

 

「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」70点★★★★

 

 ***********************************

 

ドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマン監督の

41作目となる作品。

 

世界中の図書館員の憧れ、という

<知の殿堂>、ニューヨーク公共図書館を追ったもので

上映時間は205分・・・つまり3時間25分!

 

いくら広大で美しい図書館とはいえ

そんなに描くことあるの?と思うけど、

いやいや、

実にさまざまなネタがあることに驚きます。

 

まず

著名人を呼んでの講演会やトークショーあり、

(エルヴィス・コステロやパティ・スミスも登場!)

ピアノコンサートなんかもある。

 

コールセンターに詰める図書館司書たちが

めちゃくちゃ高度な問い合わせに

知識を総動員して、本を探す様子に感嘆するし、

 

デジタル化のために本を撮影する仕事や

返却本のよりわけシステムなど裏側も映る。

 

美しい建築様式、その空間を利用しての

図書館ディナ―パーティ-、なんて催しもあるんですねえ。

 

 

さらに各地域にある「分館」が

紹介されるのもおもしろくて

 

ブロンクス分館では「就職フェア」があったり、

ハーレム地区にある分館ではネット環境を持たない住民のために

モデムの貸し出しが行われていたり。

 

会議では図書館をねぐらにするホームレスにどう対応するか、なんて

問題も話し合われていて

 

へえ~、図書館の仕事ってこんなにあるんだ!と同時に

「図書館」を通じて、ニューヨークのいまが映る、というドキュメンタリーなんです。

 

 

ただ

「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」(18年)

場所も広範囲で、出てくる人々も多様で、動的で、寝なかったんですが

今回は会議のシーンも多く、

さすがに、途中、ちょっと眠くなった(笑)。

 

 

それでも

「BANANA FISH」(by吉田秋生)の聖地だし!

見てよかった。

 

そして、ちょっとくらい寝てもいいですが

「場所柄」くれぐれも、お静かに・・・・・・。

 

★5/18(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ねことじいちゃん

2019-02-22 23:38:22 | な行

ニャンニャンニャンの日、ですから!

 

「ねことじいちゃん」70点★★★★

 

**********************************

 

日本の、とある島に暮らす

大吉(立川志の輔)。

 

2年前に妻(田中裕子)に先立たれてからは

飼い猫のタマ(ベーコン)とふたり、のんびり、ゆったり暮らしている。

 

ある日、島に都会からやってきた美智子(柴咲コウ)が

島にカフェを開いた。

 

はじめは遠巻きにしていた島の人々だったが――?

 

**********************************

 

いまや世界的な「ねこ写真家」である

動物写真家・岩合光昭氏が、同名人気コミックを映画化。

 

あのイワゴーさんが、スター猫を使ってフィクション映画?!と

最初に聞いたときは「どんなになるんだろ」と思ったけど

さすが岩合さん、とにかく猫、猫、猫!(笑)で

愛に溢れた、ほっこり映画でした。

 

全シーンどこかに必ず猫がいる、のうたい文句は本当で

猫の動きを読んだカメラワークはさすが。

 

そしてお話も、

なんでもないけど、あったかく、

ちょっとだけしあわせ、という福々さがよい。

 

主演の立川志の輔師匠をはじめ、キャストのやさしさもあって

人と猫、人と人が関わり合うことの大切さが

ほーんわりと伝わります。

 

主演ネコ、ベーコンの堂々たる演技にも驚きました。

志の輔師匠の胸の上で寝たり、抱っこも大好きなお利口さんだし。

 

ただ、島での外歩きにはあまり慣れていないのか

塀の上を行く足取りの、ちょっとしたおぼつかなさが、また可愛い(笑)

 

決して深刻にならずとも

過疎化する地方、老いと猫、といった社会問題が

ふにゃっ、と含まれているのも

大事だなあと感じるのでした。

 

発売中の「AERA」にて

岩合さん×立川志の輔さん×ベーコンの対談記事を書かせていただいてます。

志の輔さんがとても気に入ってくださったそうで

すごーく嬉しい。

ちなみに、取材中もベーコン、まったく動じず(写真中央)

全員、メロメロでした(笑)

★2/22(金)から全国で公開。

「ねことじいちゃん」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ナポリの隣人

2019-02-09 23:27:49 | な行

 

「家の鍵」のジャンニ・アメリオ監督。

容赦ない。

 

「ナポリの隣人」72点★★★★

 

******************************

 

南イタリア、ナポリ。

老人ロレンツォ(レナート・カルペンティエーリ)は

街中のアパートに独りで暮らしている。

 

妻はすでに亡くなり、

娘(ジョヴァンナ・メッゾジュルノ)や息子との関係も冷え切っていた。

 

そんなある日、ロレンツォは

若い女性ミケーラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)が

アパートの階段に座っているところに出くわす。

 

最近、幼い二人の子と夫と向かいに越してきたというミケーラは

鍵を忘れて、家に入れずにいた。

 

ロレンツォは彼女を家に招き入れ、

向かいとつながっているバルコニーを開けて、彼女を家に入れてやる。

 

そんな縁で、ロレンツォは彼女の家族と

つかの間の交流を始めるのだが――?!

 

******************************

 

「家の鍵」(04年)や

カミュの「最初の人間」(11年)など

人間を描いてきたイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督の新作です。

 

偏屈じいさんの向かいに越してきた若い家族。

まあ普通なら

お隣との交流を通じて、じいさんにちょっとした変化が――?とかにいきそうなものですが

いや、ここには、安易な心の通じ合いなどないのです(キッパリ)。

 

 

じいさんも、若い家族も、じいさんの本当の家族も

誰もが心を真に明かすことはなく

触れ合いそうで、触れ合えない。

 

そんななか、「えっ?!」という事件が起きる。

 

 

クールなまでに容赦ない描き方なんですが

まあ、それが実際だよな、と思わずにいられない。

 

実際、ニュースでまさにいま

「いいお父さん」に見えていた人が子どもを殺しているのが現実ですから。

 

人と人とは、安易に通じ合えない。

人の心は簡単にはわからない。人と人は簡単には通じ合えない。

 

そのもどかしさ、コミュニケーション不全は、

まさに現実を生きる人間の息遣いそのもので

そのリアルが、

心にしみじみと深い波紋を残すんです。

 

そして、こんな世でも最後に、ごくごく薄く残るものが

「希望」だと信じたい。

と、思うのもまた、人間なんだろうな、と。

監督はすべてをわかっているようです。

 

★2/9(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ナポリの隣人」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

眠る村

2019-02-02 19:27:13 | な行

怖い。この村が。人間の心が。

 

****************************

 

「眠る村」70点★★★★

 

****************************

 

1961年、村の懇親会で

ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」。

その真相を追うドキュメンタリーです。

 

事件の名前と、概要は聞いたことがあったけど

詳しくはまったく知らなかったので

非常に興味深く見ました。

 

 

事件が起こって6日後、村の男性・奥西勝(当時35歳)が逮捕される。

奥西という人は、村に妻と愛人がいたそうで

「その三角関係を清算するためにやった」と

一度は自白をするんですね。実際、奥さんと愛人は事件で亡くなってる。

 

でも公判で「自白は強要されたものだ」と訴え、

一審では無罪となるも、二審では死刑判決。

最高裁は上告を棄却し、1972年に死刑が確定した。

その後も奥西氏は毎日、毎日を「今日が執行の日か」とおびえながら

獄中で無罪を訴え続けたんです。

 

で、2015年に獄中で肺炎で亡くなった。享年89。

 

さあ、真相はどうなのだろう?と

制作者である東海テレビが検証していくんですが

ここまで推理小説顔負けのミステリーだとは知らなかった。

 

まず驚いたのは

ぶどう酒っていうから赤色かと思ってたら

白ワインなんですよ!

それすら、間違ってたワシだけど、

なんだか検証を見ていると

それに似たような、嘘っぽい証拠や証言がボロボロ出てくる。

 

最初こそ「愛人と本妻ねえ・・・・・・」とか、若干色眼鏡で見ていたけど

(実際、コノ方、ちょっとした甘めの男前)

村人は割と性的にオープンで、こうしたことはよくあったらしく

三人の関係も「みんなが知ってたさ」と証言されるんです。

「じゃあなんで、殺す必要があったのか?」って疑問が出てくる。

 

さらに

「毒となった農薬」「その混入方法」「村人の証言」――

なんだか、よってたかって、奥西氏を犯人にしようとしてないか?

さすがのワシでも気づいてきますわな。

 

 

そして、だんだんわかってくる。

「“生け贄”が必要だったんだ」――ってこと。

村人は村の平穏のために、検察は手柄のために

彼を人身御供とすることにしたのではないか?と。

 

人間の心は、げに、怖い――。

50年以上経ったいまも、この事件を究明しようとする動きが止まない理由は

そこにある気がします。

 

それに100%彼が無実かだって、わからない。

彼じゃないならば、一体誰が、犯人なのか?

何のために?

 

結局、真相はいまも藪の中。

哀しきミステリーは、どこまでも黒く、だからこそ人を惹きつけるのかもしれません。

 

★2/2(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「眠る村」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする