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ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ナディアの誓い

2019-01-30 23:40:43 | な行

 

「バハールの涙」と2本立てで観てほしい!

 

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「ナディアの誓い」72点★★★★

 

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ISに性奴隷にされた体験を世界に証言し、

2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏を追ったドキュメンタリー。

 

原題は「ON HER SHOULDERS」。

彼女の肩にかかるもの――ってことで

ホントにその通りだと思った。

 

 

映画としては

「わたしはマララ」のように、わかりやすい構成ではないんです。

 

それは2014年まで、イラク北部の小さな村で

平和に暮らしていた普通の少女が

世界に向かって立つ人間にならざるを得なくなった、その道のり、そのままかもしれない。

だから

映画も訥々とし、特にすごく説明的でもない。

彼女の経験への配慮もあるでしょう。

なので「何が起こったのか」をより知るために

「バハールの涙」はとても有効だと思うのだ。

 

それでも映画には、素顔の彼女が写るシーンも多く

笑顔で買い物をしていたりするのを観るだけで

なんだかホッとうれしくなってしまう。

 

 

各国をまわり、つらい経験を語る彼女は言うんです。

「みんな『どうやってレイプされたのか』を聞くけれど

いまも、同じ立場にある女性たちがいる。

その人たちがどうしているのか、どうすればいいのか、を話題にしてほしい」

 

 

「自分は強くない、活動家ではない」と繰り返しながら、

しかし、何かを変えるために、また歩き出す。

彼女の意志の強さ、使命感に打たれます。

同時に

それでも動かぬ世界に胸がきしむ思いがする。

自分が「何もできない」ことの恥ずかしさ、つらさも感じる。

 

この勇気に報いるために、なにができるだろうか。

 

★2/1(金)からアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

「ナディアの誓い」公式サイト

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ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ

2018-10-17 23:52:51 | な行

 

189分!

でも、寝なかったぞ!(笑)

 

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「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」73点★★★★

 

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巨匠フレデリック・ワイズマン監督が

ニューヨークのクイーンズ区北西に位置する

“ジャソンハイツ”の街を映したドキュメンタリ-。

 

189分!の長尺とあって、やはり身構えるんですが、

うん、これはちょっとした旅行に行く気分で臨むのがいいと思う。

 

ジャクソンハイツをフラリと訪ねて

一週間ほど滞在した気分になれるんです。

 

 

ジャクソンハイツは世界中からの移民が暮らし、

167もの言語が飛び交う「多様性」の街。

 

ワイズマン監督はおなじみ「観察映画」の手法で

街のモスク、教会からレストラン、集会所、コインランドリーと

さまざまな場所を「観察」していく。

 

その静かな視線のなかに、

異なる宗教を持つ人々、不法滞在者、セクシャル・マイノリティなどなど

そこに暮らす人々の横顔が、立ち現れてくる。

 

やっぱり「人間」を見つめるのって、

おもしろくて飽きないんですよねえ。

 

そして同じ道、同じ角、同じ店を見ているうちに

我々も、この街に滞在したような気分になれるのが楽しい。

 

旅先の土地のスーパーが次第に馴染みになる楽しさ。

日がな一日、ぶらりと街を歩き、店を冷やかし、

普通なら入るのに躊躇しそうなタトゥー屋や夜のクラブにも潜入できちゃう。

 

でも、この個性的な街でも

昔ながらの個人商店が徐々に消え

大企業(例えばGAPのような)に取って代わられる“再開発”が進められている。

 

それは「現代アメリカ」の姿を映すと同時に

 

東京都内のさまざまな沿線駅に

ルミネができ、スタバがあり、便利でキレイだけど

なんか、どこも画一的――というような状況と

まあそっくりだよなあと思うわけです。

 

街を見ることが、いまを考えることにつながる。

そんな映画体験でした。

 

★10/20(土)からシアター・イメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ」公式サイト

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日日是好日

2018-10-08 23:55:16 | な行

 

樹木希林氏は、もはや日本の美のひとつだ。

 

「日日是好日」71点★★★★

 

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典子(黒木華)は

打ち込める「何か」がなかなか見つからない大学生。

 

ある日、

同い年の従姉妹・美智子(多部未華子)に誘われて

近所の武田先生(樹木希林)のもとに、お茶を習いに行くことに。

 

多くのきまりや作法に戸惑い、

失敗ばかりの典子だったが、

少しずつ、お茶の世界にハマっていく――。

 

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大森立嗣監督。

ここまで振り切れた「お点前」映画だとは!と驚いた。

その潔さに、カーン!と鹿威しも鳴るってもんです。

 

ヒロイン(黒木華)が師匠(樹木希林)にお茶を習う。

春、初夏、梅雨、秋、雪の冬、

美しい庭のあるお茶室に通い、お点前をする。

 

四季の移ろいのなか、

掛け軸が変わり、茶器が変わり、お茶菓子が変わり、

師匠の着物が変化する。

 

そんな日々をひとつひとつ重ねていくことの、

豊かで、たおやかなことよ。

 

その流れゆく時間のなかで

ヒロインは就職、仕事、恋など、さまざまな岐路に立ち

そのときに

お茶が、師匠が、さりげなく道しるべとなったりする。という映画です。

 

 

小学生時代、近所の老婦人のもとに通い、

お茶を習った日々を思い出したなあ。

あれは裏千家だったけどね。

 

お茶の師匠を演じる樹木希林さんは、なんと茶道は未経験だったそう。

いやあ、もうこの道ン十年の師匠のような佇まい、さすがだし

 

その所作も、楽しそうに着物を着ている様も

日本の美をスクリーンに留め置くことの

喜びにあふれている感じがする。

 

この映画を試写で観たときは

まさか、希林さんがもういないとは思ってもいなかった。

樹木ロスが癒えない日々だけど

こうして「映画」が遺ることって

やっぱり素敵だなあと思いました。合掌。

 

★10/13(土)から全国で公開。

「日日是好日」公式サイト

 

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泣き虫しょったんの奇跡

2018-09-03 22:56:18 | な行

 

これも実話て(驚)。共感できない人、いますかね。

 

「泣き虫しょったんの奇跡」73点★★★★

 

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しょったんこと、瀬川晶司は

小5のとき「プロ棋士」という職業を知る。

 

そして隣家の同級生・鈴木と将棋道場に通い、

工藤(イッセー尾形)の指導を受け、めきめきと上達。

中3で奨励会の試験に合格した。

 

だが、奨励会には掟がある。

26歳の誕生日までに四段になれなければ、退会となってしまうのだ。

 

22歳で三段に昇段したしょったん(松田龍平)は、

なかなか四段に昇段できず、

現実から目をそらすように遊びまわってしまう。

 

そして、ついに26歳のそのときがやってきた――。

 

 

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プロ棋士へのタイムリミット「26歳の壁」を破れなかった

実在の棋士・瀬川晶司五段の物語。

 

いや~知りませんでした。驚きました。

しかも神奈川県出身、70年生まれ・・・って、もろ同学年じゃん!

 

 

彼は、プロ棋士の年齢制限「26歳の壁」の

死に匹敵するほどのプレッシャーに勝てず、自分に勝てず、

ちょっと斜に構えて、のろのろ過ごしているうちに、チャンスを逃してしまう。

 

将棋をやめ、就職してから、彼は思う。

「なぜ、あのとき、もっと全力でがんばれなかったんだろう・・・・・・!」

 

この気持ちに共感できない人って、いるんだろうか。いないでしょうよ。

高校受験、大学受験、就職試験、資格試験・・・・・・そのときどきの自分を

いやでも振り返ってしまうと思うですよね。

 

そこに後悔がない人なんて、ほんの一握りでしょう。

 

誰もが羽生名人や藤井七段じゃないんです。

人間は弱い。だからこそ、リターンマッチがあったっていい。

そこから奇跡を起こす、しょったんを応援せずにいられない。

 

演じる松田龍平氏ももちろんいいのですが、

少年時代の描写が分厚いのも効いていて、

 

彼はその人柄や、気持ちの良い将棋の指し方、将棋に向き合う姿勢から、

多くの人に助けられ、支えられ、道を切り開くことができたんだなあと思う。

 

その生き様は、超人や天才が見せてくれる驚きや感動とはまた違う、

清々しい勇気を、観る人に与えてくれると思います。

 

★9/7(金)から全国で公開。

「泣き虫しょったんの奇跡」公式サイト

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寝ても覚めても

2018-08-31 23:57:13 | な行

 

東出昌大氏を、カッコイイと思った。

 

「寝ても覚めても」70点★★★★

 

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大阪に暮らす朝子(唐田えりか)は

ある写真展を見た帰り、麦(ばく、東出昌大)という男に出会い

運命的に恋に落ちた。

 

付き合いはじめた二人は、順調に日々を過ごしていく。

だが、ある夏の日、

麦はフラッと出かけたまま、帰ってこなかった――。

 

それから2年。

麦の一件を封印し、東京に出てきた朝子は

あるとき、麦にそっくりな会社員・亮平(東出昌大)に出会ってしまう――。

 

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芥川賞作家・柴崎友香氏の原作を

「ハッピーアワー」の濱口竜介監督が映画化。

 

昔の恋人と同じ顔の人に出会ってしまったら・・・・・・?という

意外に“普遍”な恋愛譚で

 

しかも「劇的ドラマ!」というより

全体、かなーり低空飛行なトーンなんですよ。

そこに、意外性とともに笑ってしまいました(笑)

 

そして、そんな低空トーンに

関西弁が実にふくよかな彩りと

ぷっ、とする笑いをもたらしてくれているんですね。

 

2役を演じ分けた東出氏、なかでも麦(ばく)役は

いままで見たことのないラフなカッコよさでびっくりしましたが

加えて

主演の新人・唐田えりかさんがいい。

黒木華氏に雰囲気が似ているけど

でも実は、あまり“いない“人材で、フレッシュ。

正直、女子に嫌われそうなヒロインを

こう表現できる女優さんは貴重だと思います。

 

映画のテーマは究極、

「自分が飛び込むべきは愛する相手か、自分を愛してくれる相手か?

という感じで

まあ恋愛の根本をついてくる。

 

なので、ヒロインの心や行動に共感できるかはわかりません。

わかりませんが

でも、この

決着といえるのか、いえないのか――ああ~!頭かきむしり!な展開は

リアルともいえる。

 

こうやって、どうにも収まりのつかない日々は

きっとこの先も、続いてゆくのだ――と、

なんだかフッと納得してしまうのでした。

 

★9/1(土)からテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国で公開。

「寝ても覚めても」公式サイト

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