福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

下山の作法

2007-05-02 06:31:33 | フィールド

山岳地帯の微生物生態学調査にはいろいろな作法があります(我流ですが)。採取した試料は、素早く、大学に持ち帰って、しかるべき前処理や保存をしたいもの。

私たちの研究の場合、往路よりも帰路の方が遥かに荷物の重量が増します。今回の調査でもそうで、1時間半の山道を自動車の駐車場まで運びます。重くなったザックが肩に食い込みますし、大汗もかきます。やっとの思いで、鳩待峠(はとまちとおげ;群馬県片品村)に到着。息を整え、車で1時間ほどの定宿で、荷物を整理。調査器具等は「着払い」宅急便で研究所に送る。

調査活動と登山で汗だくになった体は、周囲の方に多大な迷惑をおかけすると言うもの。フィールドワークをされている方の中には、それが自慢で、そのまんまの格好で、そして周囲の方が鼻をつまむような体臭のまま、街のなかを移動されています。しかし、私たちは、微生物を扱っていることもあり、また、野外調査の自己満足に陥らず、周囲への気配りも大切であると考えています。

01_81そこで、公共交通機関を利用する前に、必ずお風呂で体の汚れを洗い流し、身綺麗にすることにしています。尾瀬の近くには、温泉があります。今年も、「わたすげのゆ」に立ち寄りました。

ちょうどお昼時に差し掛かろうとした頃に、「わたすげのゆ」に到着。「わたすげのゆ」はアルカリ単純泉で、筋肉痛、疲労回復に効能があるとかで、調査後の身体には最適です。あまりゆっくりもできないのですが、十分に体の汚れを取り、新しい下着に着替え、衣服も整え、すっかり山モードを終了させます。

この「わたすげのゆ」には、みやげ物やと食堂が併設されています。風呂上がり、店員さんが「冷たいものでもどうぞ」と麦茶かスポーツ飲料を出してくれます。と、そのとき、食堂の厨房からは、聞き覚えのある声が聞こえて来ました。あれっ? もしかしてYさんでは? 店員さんに、「もしかして、Yさんは帰省されておられるのですか?」と尋ねると、彼は厨房へ行きYさんを呼んで来てくれたのです。

02_44そして、現れたのがYさん。「先生、おひさしぶりでーす」と。そうです、Yさんは、5年前私が担当していた教養課程の生物学の受講生です。講義の中で、「尾瀬の湿原の形成と生物」に関して紹介したところ、講義後にYさんが私のところにきて、「尾瀬で調査する機会があったら、私の実家によってみてください。温泉もあるし、イワナ料理もおいしいですよ」と。

数年ぶりにYさんにご実家で再会するなんて、奇跡的ですね。Yさんは他学科の学生さんでしたが、卒業後民間企業に就職。ゴールデンウィークを利用して帰省し、家業を手伝っているとのこと。

そして、Yさんおすすめの、イワナ塩焼きをメインにした「おすすめ定食」をいた03_24だくことにいたしました。イワナの塩焼きは、頭も食べることができ、また、塩分を放出した肉体労働後の身体には最適。他に、冷やし椀そば、舞茸ごはん、煮豆、サラダ、そして漬け物。この舞茸ごはんは、格別に美味。すっかり、お腹を満たし、幸福感。

04_9さあ、札幌に戻ろう! Yさんに別れを告げると、お土産に「くるみ餅」を持たせてくれました。Yさんの心遣いに感謝。

車で上毛高原、上越新幹線で東京、山手線で浜松町、モノレールで羽田空港、飛行機で新千歳空港、快速エアポートで札幌駅、徒歩で低温研。低温研の実験室の冷蔵庫、冷凍庫に採取した試料を保管して、ようやく野外調査が終了するのです。とても長い一日でしたが、心身ともに爽快。明日からの探求活動への大きな活力となりました。

<追記>
大学において、在校生と教員との間で、金品のやり取りをしてはなりません。特に、単位にかかわる場合は、なおさらです。今回は、卒業し、立派に社会人になっておられる方でしたので、ご好意をお受けすることといたしました。


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