これは、南極宗谷海岸スカルブスネスの池へ向かう登り坂で、立松和平氏の口から思わず出て来た言葉。
NHK総合テレビ『南極50年! 毛利衛 氷の大陸を歩く』(2007年2月12日8:35~9:50)で紹介された一シーンです。南極の湖沼調査の場合、ゴムボートを含め、すべての観測機材を背負って、岩場の山道を徒歩で目的地に向かわなければなりません。大抵1時間くらいかかるのですが、その登り坂で立松氏が吐いた、この言葉は、まさにその通りです。立松氏の荷物はデイバック一つで、身軽ですが、番組でも紹介されていた、湖底堆積物を採取するためのエクマン・バージ式採泥器は、背負うと肩に食い込む程重いのです。さらに、調査後、キャンプ地を戻るときは、採取した試料に加えて、濡れたボートが重さを増します。
私たちの湖沼調査の基本人数は4人。最後のランフホブデでは3人で行いました。こうした調査を毎日繰り返していると、さすがに腰への負担が蓄積し、腰痛に悩まされます。したがって、調査には、医療隊員の原先生と朽網先生から配給されたシップ薬が欠かせません。
湖沼の生物および化学調査は、地形調査や大気調査と違い、試料採取後、すぐに試料の処理を行わなければなりません。そのまま試料を放っておけば、試料の化学成分や生物組成が変化してしまうからです。この写真は、採取した湖沼堆積物コア試料を半割して、その内容を記載しているところです。真剣な眼差しの46次地学隊員の佐藤高晴先生(広島大)、カッコいいですね(写真右手)。あ、うん、の呼吸で佐藤さんが読み上げるデータを筆記する47次生物隊員の高野さんも探究心に満ちていますね。記載作業を終えると直ちに、化学、地磁気、生物分析等の目的に応じて試料を分取、処理して、保存します。試料は細心の注意を払ってクリーンに処理しているんですよ。ちなみに、処理する人たちは3週間も風呂に入っていません。
過去1万年の環境を記録した磁気テープとしての湖沼堆積物。現在、札幌や広島の地で慎重に分析が進んでいます。
このブログは、研究室の雰囲気をお伝えすることが主目的です。これまで、南極や高山湖沼の調査の様子をご紹介して来ました。こうした調査には、強靭な体力が必要であるかの印象を与えるかもしれません。しかし、私自身はそれほど体力がある訳ではなく、運動能力に長けている訳でもありません。要は、自分に合った研究スタイルを構築すれば良いだけのことです。
私たちの研究室は、野外調査ばかりでなく、実験室を中心にしたテーマもあります。キーワードに「微生物」があれば、テーマは自由です。また、体力だけあっても、研究は成り立たないことは、当然のこと。さらに加えるものとして、熱意でしょうか。若い人たちの研究に対する熱意に、我々は弱いのです。
ということで、体力のある方も、ない方も、私たちの研究室は歓迎いたします。
<追記>
NHKの番組で紹介された、昭和基地やその周辺の大陸沿岸の映像を見ていたら、南極にまた行きたくなりました。そう思うのは、私ばかりではないはず。言葉で表現できない魅力が、南極にはあるのでしょうか? 論理的に説明できない不思議な感情・感覚です。
夕べの札幌はぐっと冷え込みました。低温研から自宅へ徒歩で戻る道すがら、久しぶりに頬がピリピリする感覚を味わいました。その私の後ろから、氷河・凍土関連の若手研究者が車でヒューッと追い越して行きました。彼らは、今、18日のイベントに熱心に取り組んでいます。もし、お時間がありましたら、会場に足を運んでください。
18日のイベントについて書いていただきありがとうございます。多くの方に来ていただきたいと思っています。
ところで「氷河の研究は体力勝負ですね」とは言われますが、こちらも自分にあったペースにすればよいと思います。
氷河研究、素晴らしいですね。
18日のイベント、期待しております。昭和基地と回線トラブルなく、会場とうまくつながると良いですね。
普段学生の皆さんと一緒にいると、こちらも若い気になってしまいます。これが命取りになることがあります。若い人と同じように野外調査でがんばってしまうと、ぎっくり腰になることもありますね。
それから、山道で前を歩いている若い人たちとの距離が次第に長くなり、とうとうこちらからは見えなくなることもあります。かなり、ショックです。