夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

近代俳句を教える (その1)

2015-01-29 23:25:01 | 教育
2学期に1年生の現代文で近代短歌を教えたので、3学期は近代俳句について授業で取り上げている。

先日は、橋本多佳子の俳句二句、

  雪はげし抱かれて息のつまりしこと
  乳母車夏の怒濤によこむきに

を授業で扱ったのだが、そのときの生徒の反応や解釈を見て、俳句を教えるのは楽しいけれど、非常に難しいものでもあることを改めて感じた。

橋本多佳子は、明治32年(1899)~昭和38年(1963)、東京都生まれ。
山口誓子に師事して『馬酔木(あしび)』に参加し、句集『紅絲(こうし)』(昭和26年)で女流俳人の第一人者としての地位を確立したといわれる。

  雪はげし抱かれて息のつまりしこと

は、作者が冬の雪の激しい夜、ひとり部屋の中にいて、昔、恋人に強く抱きしめられた吹雪の夜を回想した句と考えられる。

ただ、生徒の答えでは、作者が家の中にいると答えた者は一人しかいなかった。
冬の雪が激しく降る中、恋人に抱きしめられて緊張し、息苦しい、といった解釈が何人も出た。

ここでは、「息のつまりこと」と過去の助動詞「き」の連体形が使われているから、作者が過去(おそらく若かった頃)のことを回想している表現で、激しい雪に触発されて、恋人の男性から強く抱きしめられた記憶が蘇ったのだろうということを説明した。

  乳母車夏の怒濤によこむきに

は、作者が海辺にいて、激しい高波が打ち寄せる浜辺に、乳母車が横向きに押されてゆくさまを見て、高波に乳母車がさらわれそうな不安感を表現した句と見られる。

生徒の答えでは、
・子どもが荒れ狂う波のようにたくましく生きていくよう願っている。
・乳母車が崖から落ちそうになって、危ない(助けねば)と思っている。
・作者は乳母車の中にいて、夏の怒濤を見ながら人生を振り返っている。
など、珍解答がいくつかあった。

中には、若い母親が赤ちゃんを乳母車に乗せて散歩する様子を見て、独身女性の作者が羨ましい(自分も結婚したい)と思っている句だと解釈する生徒もいた。

私からは、それだと「夏の怒濤」という言葉が生きてこないでしょう。言葉を極度に切り詰めて詠む俳句では、季語に作者の心情が託されることが多い。ただの高波でなく、怒濤と表現しているのは、作者に恐ろしく感じさせるような状況があったはず。浜辺に押し寄せる波に対して横向きに進んでいく乳母車が、さらっていかれそうな不安感を覚えたから、「夏の怒濤」と言ったのだと思いますよ、ということを説明した。

削ぎ落とされた表現で、詞が遠心的な結合をしている俳句から、作者が伝えようとしたイメージ、世界をどのように生徒につかませるかはなかなか難しく、教えながら常に頭を悩ませている。

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