「時代の美」展(第二部 鎌倉・室町編)については以前紹介したが、今日は後期にだけ出品される展示がどうしても見たくて出かけた。
「第二部 鎌倉・室町編」では、歌仙絵・水墨画・古写本・墨跡を中心に展観されている。
前回も見た作品は極力さらっと見て体力・集中力を温存し、お目当ての後鳥羽院、藤原定家のところで念入りにじっくり観た。
特に、後鳥羽院筆「熊野懐紙(くまのかいし)」(重要文化財)は、本人自筆の貴重な史料なので、時間をかけて鑑賞させてもらった。
これは、若き上皇・後鳥羽院が、正治2年(1200)和歌山の熊野神社に詣でる際に、道中の宿泊地で催した歌会での和歌を懐紙に書いたもの。(下の写真は、展覧会図録による)
展示されていた懐紙には、二首の歌が書かれており、「行路水」の題で、
朝ゆけば日かげ待つ間の氷ゆゑ絶えぬに絶ゆる山川の水
「暮炭竈」題で、
冬くればさびしさとしもなけれどもけぶりをたたぬ小野の夕暮
後鳥羽院はもっと肉厚で量感豊かな文字を書く印象があったのだが、これは細めの字で、やや急いで認めたためか、「詠二首和歌」という字などはかなり歪んでいる。歌のほうの文字も、途中で墨が不足してか、かすれたようになっているのも、旅先の道中での詠歌ということを思わせる。
藤原定家筆の「小倉色紙」には、「百人一首」藤原敦忠の、
逢ひ見てののちの心にくらぶれば昔はものも思はざりけり
という歌が書かれていた。定家の独特な奇癖ある書体を眺めていると、本人はきっと、日記からもうかがわれるような、神経質で我の強い性格だったのだろうなと思う。本人の字を実際に見ることによって、まさに書は人なりということを強く感じた。
この記事は、昨夜は疲れていて、書いている途中で寝てしまった。文中の「今日」は正確には昨日のことです。
〔12/21追記〕
この美術館は、所蔵・展示している品もすばらしいのだが、美術院会員・吉田五十八(いそや)の設計に成る、寝殿造りを模した意匠の建物や、美しい庭も見所のひとつ。訪れた人は、ぜひそうしたところも楽しんでいただければ…。
再度お出かけなられたのですね。(笑)
ちかさださんが、情感を掻き立てられるような、書物や文献など、当時を色濃く打ち出しているものが、数多く存在されていた様でございますね。
拝読しているだけでも、墨跡の質感から、その時の様子まで思い浮かぶようです。
それに直に触れる事によって、本人の気質なども窺い知る事が出来る・・・
かなりの収穫だったのではないでしょうか?(笑)