私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

「吾輩は猫である」と挿絵⑥

2009-08-21 09:35:31 | Weblog
 「吾輩は猫である」初版本は、上・中・下の3巻あります。
 その上巻には4枚、中巻には3枚、下巻には3枚の、全部で10枚の挿絵がありました。これらはすべて中村不折先生の絵です。この10枚の挿絵の中に猫が描かれているのは4枚です。
 これらの絵は「ホトトギス」の中に掲載された時の「吾輩は猫である」の挿絵とはその趣を全く異にしている、物語を補うための、それこそ「挿絵」そのものです。
 百聞は一見に如かずです。まあ、これを見てください。

    

 どの場面の挿絵だと思われますか。

 そうです。珍野苦沙弥先生の家に、ある夜泥棒が入ります。そのシーンです。

 その様子は、次のようです。
 
 「・・・・陰子の足音は寝室の前に来てぴたりと已む。吾輩は息を凝らして、この次は何をするだろうと一生懸命になる。後で考えたが鼠を捕る時は、こんな気分になれば訳はない・・・・・・・・・行李の影から飛び出そうと決心した時、寝室の障子がスーと明いて待ち兼ねた陰士がついに眼前にあらわれた。」

 とあります。これは、将にその一瞬を写し撮った臨場感のあふれ出た絵です。つい「うまい」と声を出さずにはいられないような気分に陥ります。
 この時の猫と泥棒陰士の顔を想像してみていただけたらと思います。特に、真っ暗い猫の後ろ姿の中から、どこからともなく緊張感漲る風みたいなものが沸き立ってるのではと思われませんか。特に、前足なんかからも。

 ご退屈でしょうがお付き合いをお願いします。この後の漱石の書き振りも、又、とびきりの称賛に値するものです。

 ちょっと長たらしいのですが、猫氏曰く。
 
 「吾輩は叙述の順序として、不時の珍客なる泥棒陰士其人をこの際諸君に御紹介する栄誉を有する訳であるが、其前一寸卑見を開陳して御高慮を煩はしたい事がある。・・・・・・」
 
 どうです。・・・・・・

 後は機会でもありましたら、是非、ご再読をお勧めしたいものです。