通っている接骨院の入り口で、帰る患者さんとすれ違った。80歳前後
かしらと思われる年恰好のその女性は、すれ違いざま、ご自分が脱いだ
ばかりのスリッパを私の足元に揃えてくださった。
「はい、これ使って」
えっ、あなたが脱いだばかりの まだあったかいスリッパを私に履けと?
そりゃあ、こういう場所のスリッパは共有物だから、誰かが使ったスリッ
パをあとの人が履くことになるというのは承知だけど…
受付のヨウコさんがすかさずフォロー。
「Gさん、スリッパはたくさんあるから大丈夫よ」
Gさんていうのね。彼女は靴箱から黒いウォーキングシューズを取り出し
「これ私の靴かな」とつぶやきつつ、足を入れた。だが、歩き出そうと
して「あ、ちっちゃいわ。私のじゃない」
ヨウコさんが駆けつける。靴箱に何足か納まっている似たような黒い
ペタンコ靴の中から一足を三和土に置き
「Gさんの靴はこれこれ」
「あ、やっぱり? 変だと思ったのよね」
Gさんは、次に傘立ての中を探りながら叫ぶ「私の傘がない!誰か持って
行っちゃった」ヨウコさん、一本の花柄の傘を抜き取ると
「はい、ここにあります」
あら、あったんだ、とニコニコ顔のGさんはご機嫌で帰って行きました。
親切で気のいい受付のヨウコさん曰く
「Gさんを送り出すまで毎回気が気じゃないのよね~」
ひょっとして認知症の入り口に?と心配になったけれど、実は単なる
おっちょこちょいのオバアサンなのかな。もちろん声には出さない
モノローグの私。