電車はすいていた。向かいのシートには爆睡中の男性がひとり
座っているだけ。よほど疲れているのだろうか、前のめりに舟を
漕ぎながら、座席から転げ落ちそうになっている。つい興味津々で
凝視してしまう私。
やがて上野駅に到着。ぐっすり寝込んでいたはずの男性がハッと
目を覚まし、はじかれたように立ち上がった。足もとに置いてあった
3,4個の荷物を大急ぎでまとめ、慌ててドアの方へ。
そのとき彼の座っていたシートの足元の床に彼の野球帽が転がって
いるのを私は見た。とっさに駆け寄りすくいあげたキャップを、
放るようにして男性に手渡す。ドアはまさに閉まる寸前だ。ほんの
2,3秒の出来事だった。
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そして、私がここで書きたかったメインテーマは、実はこのことでは
ない。自分の席に戻って気がついた。私が座っていた側のシートは
満席だったのだが、何と全員がスマートフォンを手にうつむきっぱなし
ではないか。
私の電光石火の早業に気がついた人はおそらくゼロだったに違いない。
瞬時に判断、風のごとく動き、居眠りおじさんのキャップを救った私の
行為をダーレも見てくれていなかったというのが まことに残念だなあ、
という話なのです。 おそまつ。



