電話が大の苦手の私だったけど、再就職に選んだ仕事は
消費生活センターの相談員。採用面接のとき「どうも電話は
苦手なんです…」とついホントのことを言ったら、面接官だ
った相談部長に「やる気ないんですか」とつっこまれてしま
った。
「あります、あります」と慌ててアピールして何とか合格。
そして気がついたら16年間も相談員をやっていた。結局の
ところ、面白い仕事だったんだろうなあ。
受話器を取る瞬間まで、何が飛び出して来るか分からないと
いうハプニング性は体に悪そうだったし、問題を解決するた
めに費やすエネルギーは半端じゃなかったけど、ミステリー
を解きほぐすような知的ワクワク感は捨て難かった。
少なくとも世の中のために役立っているかもしれないと思え
る、ささやかなやり甲斐があったからこそ、続けてこられた
のだと思う。
それにしても、消費者相談の事例集には到底載っからないで
あろう「とんでも相談」が、ずいぶんとありましたっけ。
とれなくなってしまったとおっしゃる50代後半の男性Zさん。「この
綿棒は欠陥商品ではないでしょうかね」と話す口調はとても穏やか。
「これから耳鼻科へ行って取ってもらおうと思うんです。
治療費をメーカーに請求したいんだけれど」
「どういう使い方をなさったのか伺う必要がありますね。
綿棒の残りはありますか。綿球がはずれ易い構造にな
っていることがはっきりすればメーカーに申し出るこ
とが出来ると思いますよ」
「いやあ、もう残ってないんです。実はメーカー名も分
からなくて」
よくよく話を聞いてみると、購入したのは約2ヶ月前のことで、しかも
買った店も覚えていないという。うーん、手がかりがなさ過ぎる。苦情
を申し出る相手が分からないのでは、どうしようもないんです。
「そうですか、じゃあ仕方ないですね。実は綿が耳に入
ってしまったのは1ヶ月くらい前のことなんですよ。
最近になって耳が痛くなって来たもんだから」
驚いて一瞬絶句する私。相談なんかしてる場合じゃないです、Zさん。
耳の中で綿が腐ってますよ。今すぐ、即刻、直ちに耳鼻科へ行って下さ
い! と叫んだのでした。もう、心臓に悪いです~。
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「消費者相談あれこれ」のカテゴリ、ようやくZさんにたどり着きました。
この辺で打ち止めに致します。おもしろいとおっしゃって読んで下さった
皆様ありがとうございました。
ブログ日記は続きますので、これからもどうぞよろしく。
現地の半日観光バスに乗った。清水寺、高台寺、八坂神社などを見学した
あと祇園会館の祇園踊り鑑賞もついているという盛りだくさんのコース。
そして、特にY子さんが楽しみにしていたのは、夕食の京料理弁当だった
のだがーー
「京都らしいお料理なんかほとんど入っていなくて、その辺の
幕の内弁当の方がよっぽどマシなくらい。広告には豪華京料
理弁当って書いてあってイメージ写真も載ってたんですよ!」
こんな粗末なお弁当しか出ないと分かっていたら絶対申し込まなかったの
だから、払ったお金を全額返して欲しいというのが、Y子さんの主張。
「えーと、それはどうでしょうか。観光スポットの見学は楽し
まれたんですよね。お弁当も期待通りではなかったにせよ、
食べられないものが出たわけではないので…」
何とも歯切れの悪い受け答えだ。いったい、この半日観光のお値段はいく
らだったのだろう、とY子さんに尋ねた。
何と何と『1980円』がそのお値段。1980円ねぇ、バス代と拝観料
と祇園踊りも込みでこの値段は超破格値としか言いようがない。バス会社
は「豪華京料理弁当」だなんてよくもしゃあしゃあと広告したものだ。そ
れにお客さんの方も、この値段でいったいどんな豪華料理を期待するって
いうのだろう。
とはいえ広告に問題がないわけではないので、消費生活センターから公正
取引委員会に申し出をし、業者に対する警告を発してもらうこととなりま
した。
実はこれ、15年前のご相談。広告を信じてその結果が苦情になるという、
考えようによっては人の心が素直な時代だったのかもしれない。今は、う
まい話は信じるなというのが常識ですものねぇ。
ために、内容に関して分類項目をいくつか設定している。契約に関する相
談、安全性や品質に関する相談、表示や広告に関する相談…という具合に。
その中に「接客対応に関する相談」という項目があって、これがけっこう
厄介。たとえば、
おつりを間違えた店員が謝らない。
レシートを要求したらイヤな顔をされた。
頼んだ料理がなかなか来なかった。
もちろん、立派に苦情として成立するものではあるんだけど、通常は消費
者がその場で文句を言って一応決着をつけるというのがほとんどだし、尾
を引くような実害が発生するわけでもない。にもかかわらず、わざわざ消
費生活センターに電話をかけるという手間を惜しまない問題意識旺盛な人
たちがいるのだ。中には、どうしろっていうのーーと言いたくなるような
ものもあるのです。
とあるサーファーショップで、ダイバー用の腕時計を買ったXさん、40
代男性。怒りを抑えられないという様子で訴えて来たその内容はーーーー
「そこのオーナーもサーフィン歴が長いらしくて、雑談になった
んですけどね。それで、どこの出身かという話になって僕が◯◯
と言ったら、オーナーが何といったと思います?」
「『ああ~◯◯ですか、なるほどね』ってすごく馬鹿にしたよう
な言い方をするんですよ。頭に来てこっちからも出身を訊いた
んです。そしたらえっらそうに東京だって。東京がそんなに偉
いんですかね」
いや、別に偉くはないでしょう、と思ったけどうっかりしたことは言えな
い。店主の「失礼な態度」についての非難轟々が延々続くすき間をかいく
ぐって尋ねた。
「何をお望みですか」
「もちろん、◯◯を馬鹿にしたことを謝罪してもらいたい」
「その時、ご自身でも指摘なさいました?」
「いや、その場では言わなかったけど、あとからだんだん腹
が立って来て。消費生活センターからガツンと言ってやっ
てくださいよ」
それは無理です。一方の言い分だけを聞いていきなり相手にガツンとは言
えません。事情を尋ねてみることは出来ますけど、というわけで気が進ま
ないながら、サーファーショップに電話をしてみた。
出て来たオーナー曰く、
「ああ、そんな話も出ましたかねえ。でも、馬鹿にするだ
なんてとんでもないですよ。まったくそんな気持ちはあ
りません。でも、誤解されるようなことがあったのなら
申し訳ないですから、そのお客さんと話してみましょう」
やれやれ、助かった~というのが本音。その後Xさんがセンターに戻って
来ることはなかったから、店のオーナーが上手に対応してくれたのでしょ
う。それにしてもXさんの出身県◯◯は、関東地方にある県のひとつ。彼
の怒りは、日頃の対抗意識に起因するものだったのでしょうか。
半年間継続の契約をすると定価の3割引きになるとのこと。毎月、月初め
の3日に配達してもらい、支払いは商品が届いてからという約束を交わした。
さて、今月も約束の日がやってきたのだが、どうしたわけか、ローヤルゼ
リーが届かない。2日待って業者のところへ問い合わせの電話を入れてみ
た。
「申し訳ありません。本日発送しますので明日にはお届け出来ると思いま
す」という回答を得て待つことにしたが、翌日になっても届かない。結局
期日から遅れること1週間でようやくローヤルゼリーは届いたのであった。
業者は、手違いを認め、お詫びの印にと1本余分に同封して来た。
しかしーーーーW子さんはカンカン。
「最初の2日遅れは許すとしても、そのあとの約束違反は
許せません。今月で終わりにするので、もう送って来な
いで下さい」
と業者に向かって宣告した。業者は何度も謝罪して契約を続けてくれるよ
うにと懇願したが、W子さんの決心は変わらない。業者は諦め、契約終了
となった。ただ、問題はローヤルゼリーのお値段である。
半年継続という条件だからこそ3割引になるのだが、わずか2ヶ月分の購
入では定価通りの価格になると業者は主張。もちろんW子さんは納得しな
い。
「配達期日を守らなかったペナルティです。3割引きの
代金しか払いませんよ」
「センターさん、何とかお客様を説得していただけませんか。契約終了は
受け入れますので、せめて今月分の商品代金は定価で…」と業者の方が泣
きついてくるという事態になってしまった。
確かにねぇ、1週間の配達遅れで何か実害が発生したというわけではない
のだから、業者の謝罪を受け入れて許してあげてもいいんじゃないかなあ
と思う私。
だがしかし、W子さん容赦なし。
「実害がどうこうという問題ではありません。信頼関係が
崩れてしまったんですよ。そういう相手とは金輪際お付
き合いできませんから」
結局、泣き寝入り?したのはローヤルゼリー業者のほうだったのでした。
恐るべし、W子さん。
の出来ない痛恨の出来事がある。
換気扇とエアコンを格安でクリーニングします、という電話を真に受
けて業者の訪問を承諾してしまったV子さん、やって来た販売員の強
引な勧めを断りきれずに、ものすごく高い外国製の掃除機を買わされ
てしまった。
高額な掃除機を売るのが目的なのに、それを隠して「換気扇の掃除」
などというエサで家に上がり込む手口は悪質商法以外の何物でもない。
契約してからすぐに後悔したV子さんだったが、どうしたら良いのか
も分からないままいたずらに時が過ぎ消費生活センターに相談した時
には、クーリングオフで無条件解除が出来る8日間を経過してしまっ
ていた。
「換気扇やエアコンのクリーニングがわずか1000円で出
来るはずもないんですけれどね。何か裏があるとはお考え
にならなかったのですか」
「キャンペーン期間中の特別価格だと言われたんです」
「掃除機の購入を勧められた時、断ることはできなかった?」
「私一人のところへ、男の人が2人で来たんですよ。恐くて
とても断れませんでした」
「クーリングオフのことはご存じなかったのでしょうか。せ
めてもう少し早く相談していただけたら簡単に解決できた
んですけどねぇ」
「私が馬鹿だったんです。もういいです。諦めます」
消費生活相談員が決してやってはいけないことのひとつーーーー
被害にあった消費者、さんざん悩んで苦しんでやっと電話を
かけて来た相談者、彼らの失敗を責める言葉を口にしてしま
うこと。
「業者を家に上げてしまったんですか」「契約書にサインしてしまっ
たんですか」この何気ないひとことが相談者をひどく傷つけるという
ことを、新米相談員の私は推し量ることが出来なかった。
もういいです、と言って電話を切ってしまったV子さん。それから1
時間後、彼女の夫が激高した様子で電話をかけて来た。
「被害にあった妻の方が悪いって言うんですか! あんまり
な対応ですよね。もう消費生活センターには頼まないから」
相談を受けるということの難しさ、恐さを知った瞬間でした。
遊園地の入り口で「この券は無効になっているので入場できません」
と断られてしまった。
もちろん偽物ではないし、有効期限が切れているというわけでもない。
遊園地側の説明によるとこんな事情があったという。
何日か前のこと、遊園地窓口で販売された一枚の券について
紛失という理由が認められ、その券の持ち主に新しい入場券
が発行された。
販売窓口係員の目の前で発行直後の券が行方不明になったと
いう状況だったので、再発行がなされたのである。
そのかわり、紛失とされた方の券は、無効扱いになった。
どうやら、U子さんが使おうとした券は遊園地のコンピュータの中で
「無効」となってしまったものだったらしい。推測するに、紛失とみ
なされた券が何者かに拾われ、さらに何者かの手によって金券ショッ
プに持ちこまれ、回り回ってU子さんの手に渡ったということなのだ
ろう。
入場券の裏側に印刷された取り扱い上の規約には「譲渡禁止」の文字
が。転々と流通するのが前提となっている商品券とか小切手などとは
違うので、こいういう特約も許されるんですって。
厳密に言えば、というか普通に規約を守るとすると、この入場券は人
にプレゼントするのも駄目だし、ましてや金券ショップで売買するこ
ともできないはずのものだったってことなのね。
U子さんの被害は、金券ショップからお金が戻って来て回復はしたけ
れど、受けたショックは大きかったに違いない。相談員の私にとって
も「こんなこともあるんだなあ」と驚いたご相談だったのでした。
息子のことでご相談が…と電話をかけて来たのは50代の女性T子さんだ。
23歳になる息子さん宛にクレジット会社から支払いの督促状が届いた
というのだ。
商品は「ダイヤの指輪と真珠のネックレス」、契約したのは約3年前で
息子さんが20歳の頃。販売会社の名前から、アポイントメント商法に
引っかかったのだろう、と直感する。
「ご本人からお話を伺いたいのですが」と言うと、T子さんは口ごもり
ながら
「それが、息子は行方不明なんです。1ヶ月前くらいに
家を出てそれっきり居場所が分からないままなんです」
契約当事者は行方不明、家族はクレジット会社やサラ金からの督促で初
めて事情を知る、というケースは決して珍しいものではない。そして、
そういう場合はどうにもこうにも対策の取りようがないというのが正直
なところなのだ。
「まず、しっかり認識していただきたいのは、連帯保証人に
でもなっていない限り、成人した息子さんの借金を親御さ
んが肩代わりする義務はないということです。クレジット
会社に事情を話しておかれればいいと思います」
「でも、放っておいたらどうなるんですか」
「このまま支払いの遅れが続くとクレジット会社が息子さん
に対して法的手段をとる可能性があります。息子さんの信
用情報に傷がつくということも避けられないですね」
悪質商法の罠にかかってしまった人を救うには、まず被害者本人の話を
聞くことが必須事項。それなしでは、業者との交渉も出来ないのだ。
ただでさえ微力な相談員。 無力感に打ちのめされるのはこういう事案
に出会う時なのよねぇ。
T子さんは、50万円ほど残っているクレジットの代金を息子に代わっ
て返済するという道を選んだ。クレジット会社は大助かり。悪質商法の
張本人である販売会社は知らん顔。
聞くと、母親のT子さんに宛てた置き手紙には「支払い頼む」の一言だ
けが書かれていたとか。家出する前に相談して欲しかった。逃げるのは
その後でも遅くないんだからね。
していた会社員のSさんが、車の自損事故を起こしてしまった。当然の
ことながら、保険金は出ない。
いったいなぜSさんは保険料を払わなかったのだろう。いや、払ったこ
とは払ったのだと彼は主張する。
「更新時期になって保険会社から催促は来てましたけどね。
何しろ忙しくてなかなか払い込みが出来なかったんですよ」
「何度目かに、これ以上払い込みがない場合は契約が切れる
という通知が来たので、さすがに焦ってATMから振り込
んだんです。期限の前日だったかな」
ところが、うかつにも彼は、自動車保険のA損保ではなく別に加入して
いたB生命に保険料を振り込んでしまったのだ。不運なことにSさんが
事故を起こしたのは、それから20日ほど後のことだった。
A損保に問い合わせて保険が失効していることを知ったSさんーーー
「保険が失効していることをすぐに教えてくれなかったA損保
が悪いんだから、継続扱いにして保険金を払うべきだと思い
ませんか?」
それはたぶん無理だろうなあ。A損保は、保険会社としてやるべきことを
過不足なくやっている。B生命からの振込間違いの連絡が遅れたことも、
運の悪さに輪をかけちゃったけど、それとて責任をとれと言えるほどの落
ち度ではないしねぇ。第一、A損保から保険証券が届かなかったことを、
Sさんは不審に思わなかったのだろうか。
生保と違って、継続手続きをしない限り1年ごとに契約が終了するという
のが原則の自動車保険。「あなたの保険は失効しましたよ。それでいいん
ですね」と念を押されたりしたら、却って余計なお世話になるんじゃない
の? と私の心の声である。
これは、自己責任の範疇ではないのでしょうか、と申し上げた私に対して
Sさんの捨て台詞。
「おたくたち、税金で仕事してるんでしょ。消費生活センターが
業者の味方をしていいと思ってるの? 税金どろぼうだね」
その昔あるベテラン相談員が、あまりにも理不尽な主張を繰り返す相談者
に対して「あんたが悪い!」と叫んだという伝説的逸話があるのだが、私
もそのセリフ言ってやりたかったよ~。言えなかったけど。
のではないかと店に怪しまれてしまった。金属探知器による身体検査
を求められたのである。
あくまでも任意のはず、と一旦は拒否したRさんだったが、周囲の客
が疑惑の目で見ているのに気づき、身体検査を承諾した。
「こうなったらとことん調べてもらおうと思って俺の方から
警察を呼ぶように言ったんだ。当たり前だけど、結局何も
出なかったよ」
「店は謝罪したのですか」
「マネージャーが一応謝ったけどさ、問題はそこじゃないん
だよね」
かなり気分を悪くして家へ帰ったRさんだったが、本当の災難はその後
やって来たのだった。
Rさん行きつけのその店は彼の家からそう遠くない所にあったから、身
体検査騒動を目撃した客の中にはご近所さんも混じっていた。おかげで、
その日の出来事は近所中に広まった挙げ句、尾ひれがたっぷりついてR
さんの奥さんの耳にも届いてしまったというわけ。
Rさんの奥さんは、夫のパチンコ好きを日頃から苦々しく思っていたの
かもしれない。妊娠中の不安定な精神状態が拍車をかけたのかもしれな
い。彼女は、黙って実家へ帰ってしまったのだった。
「消費生活センターにお手伝い出来る事があるでしょうか」
「いやあ、おたくらに何かしてもらおうとは思ってないけ
ど…ただ、どうしたらいいか分からなくってさ。元はと
いえばパチンコ屋が悪いわけだろ? 文句を言いに行っ
たんだけど、埒があかなくってさあ」
そうでしょうねえ。身体検査の求め方に配慮が足りなかったかもしれな
いという問題点は考えられるとしても、奥さんの怒りにまで責任は持て
ないよねぇ。
だんだん人生相談の様相を呈して来たRさんのお話。返す言葉が見つか
らない相談員の私。30分ほどもお話を伺っていたでしょうか。Rさん
が自ら下した結論はーーーー
「ま、自業自得ってとこもあるよね。子どもが産まれたら
何とかなるかもしれないから、それまでは『ごめんごめん』
で頑張るわ」
何とか「自己解決」してくださって、よかったです~。
数日後、中に入っていたデニムパンツをはこうとしたらファスナ
ーが壊れている。
Q子さんは商品を持って店に出向き、修理か交換をしてほしいと
申し出た。ところが店は、福袋なので苦情は一切受け付けないと
言う。そんなものかと一旦は引き下がったが、やっぱり納得のい
かないQ子さんは消費生活センターへ。
「福袋ですから、品物の種類やデザインを選べない
のは承知ですけど、壊れたものが入っていても諦
めないとだめなんですか」
「そんなことはないはずですよ。何か行き違いがあったのかも知
れませんね」とお答えしつつ、消費生活センターからその店に尋
ねてみた。
何と何と、行き違いどころか店側の言い分はかなりぶっ飛んでた。
「福袋って、何でもありなんですよ。たまたま着ら
れるものが入っていたらラッキーと思って頂きた
いですね。それでも1万円の袋には3万円相当の
品が入っているんですからお得だと思いますよ」
「福袋コンセプトとしては間違ってはいないかもし
れませんが、だからといって不良品を混ぜてもい
いということにはならないと思いますが」
「わざと不良品を入れるわけではないですし、基本
的にノークレームでお願いしています」
いくら福袋とはいえ、対価を受け取って販売するのですから、本
来なら店頭に置けないような欠陥商品は許されないんですよ、と
いくら説明してもこの店長さんは分かってくれない。心底自分の
言い分が正しいと思っているらしい。
「だめだ、こりゃ」と諦めて、デニムパンツのメーカーへ申し出
てみた。事情を聞いたメーカーは、即座に代替品をQ子さんに送
ってくれました。
一件落着ではありましたが、最後まで店長さんに分かってもらえ
なかったというのは、残念なことでした。
さっそく応募した。お客である女性の元へ派遣されて、規定の回数
交際をすると、最後に150万円の報酬が支払われるというのがそ
の仕事の中味らしい。
ちょっと聞いただけで十分怪しい話なんだけど、この仕事をするに
あたって保証金100万円を預けなくてはならないというのだから、
もう致命的に信用出来ない詐欺話だ。
だが、Oさんは大乗り気。
「僕、女性を楽しませるという点ではけっこう自信ある
んですよ。ただね、ほんとうに150万円払ってもら
えるかどうかが心配なもんで、似たようなケースで苦
情になった例がないか教えてもらおうと思って」
Oさん、自信満々だぁ。でも私の頭の中では「公序良俗に反する行
為」ということばが飛び交い始めた。慎重に言葉を選びつつOさん
に助言を試みる。
「高額な保証金を要求する求人は、その保証金をとる事
だけが目的である場合が多いんですよ。そもそも『交
際』の中味が法に触れる恐れもあるんじゃないでしょ
うか」
でも、Oさんはてんでめげないのであった。
「ある程度のリスクは覚悟していますから。だめもとで
やってみようと思ってるんです」
ちょっと、ちょっと。だめもとじゃないでしょう。みすみす大金を
失うかもしれないんですよ。しかし聞く耳持たないOさん、結局彼
は、消費生活センターが何を言おうと、この「おいしい仕事」をや
ることに決めていたに違いない。大丈夫ですよという言葉をもらっ
て安心したかったのかもしれない。
果たしてOさんはどうなったのだろうなあ。
ずの小麦粉に、カビのようなものが発生したというもの。
「黒っぽい粉が見えるんです。虫かと思ってよく見たら、
何だかカビみたい。もうびっくり」
原料の外皮が残っていたのか? 袋詰めの段階でカビの胞子が紛れ込ん
だのか? それとも粉の中で虫の卵がふ化してしまった? ひょっとし
て袋にピンホールでも開いていたのかなあ。
同時期に出荷された小麦粉にも同じトラブルが起こっていることも考え
られるから、保健所に持って行ってもらうのがいいかもしれない、など
など目まぐるしく頭の中で考える。
「どんなふうに保管していらしたんですか」
「保管ですか? 袋のまま調味料なんかの棚に」
「袋にごく小さな穴が開いていないかどうか確かめて
いただけますか」
「穴、ですか。でも、開封してあるから」
「えっ………」
「半年くらい前に開けたんです。でも、賞味期限まで
まだ8ヶ月以上あるんですよ」
わぁ、開封しちゃってるんだ~。最初にそのことを尋ねなかった私が悪
かった。そうなると話は全然違って来るんです。とP子さんに賞味期限
の定義をご説明する。開けてからの月日が経過しているし密閉容器に入
れてあったわけでもないのだから、P子さんの小麦粉はこの半年間何で
もありの状態だったと言うしかない。
「そうなんですかあ、賞味期限て未開封の状態で有効
なんですね。勉強になりました」
とP子さんは納得して下さいましたが、私の方こそ、自分の聞き取り技
術の未熟さを思い知らされて、とっても勉強になっちゃいました。
「出品情報では"美品"となっていたのに届いたものは傷だらけ」
「欲しくもない商品を間違って落札してしまった」
ネットオークションに関わる相談て、ほとんどがこういうもの。言って
みれば、落札者側からの相談がほとんどなのだ。ところが、Nさんの場
合は出品者という立場での珍しいご相談だった。
中古の映画DVDを出品し、希望価格で落札されたのはよかったのだが、
相手の人からの送信メールをうっかり削除してしまったという。送付先
の住所はもちろんメールアドレスも分からなくなってしまったのだ。
「相手からは、前払い代金がとっくに振り込まれて来て
るんです。もしこのままDVDを送らなかったら、僕
が詐欺をはたらいたみたいになっちゃいます」
すっかり弱り切っているNさんではあったが、さすがネットオーク
ションのベテランだけあって、打つべき手はぜーんぶ打ってる。だ
が、オークションサイトも銀行も警察も助けにはならなかったのだ
そうだ。消費生活センターはもっと役に立たないと思うなあ、と内
心つぶやきつつ、
「商品が送られてこなかったら、そのうち相手の方
から問い合わせメールが届くんじゃないですか」
「そんなぁ~。それじゃ、僕のオークション評価が
『非常に悪い』 になっちゃうじゃないですか。そ
れが困るから相談してるんですよ」
でもね、現実的な解決策はそれしかないと思う。そもそも、メール
をうっかり削除してしまったNさんの落ち度なんだもの。ここで
「役立たず!」という捨てぜりふを覚悟した私でしたが、Nさんは
オトナでした。
「わかりました。元はと言えば僕が悪いんです。相手
からの連絡を待ってみます」
後日、落札者と連絡がとれてDVDを送ることが出来たそうです。
謝りに謝って許してもらえたとのこと。よかったね、Nさん。
「へ? 毒…ですか」
40代前半の女性M子さん、淡々とした口調でものすごいことを言い出した。
「冷蔵庫に入れてあるペットボトルのお茶、外出から帰って飲
むたびに変なんです。その都度捨てるんですけど、また別の
日になると毒が入ってるんですよ」
「お体に異変はありますか」
「不思議なんですけど、体は大丈夫なんです。すぐ吐いちゃい
ますしね。でも、絶対毒だってことは分かってます」
一人暮らしとのことだが、彼女の考えでは近所に住む甥の仕業だと言う。
「合鍵を作られたんだと思って、鍵はもう何回も交換してます。
でも、すぐ新しい合鍵を作られちゃうんです」
警察に通報し、問題のお茶を保健所に持っていったが何もしてくれないと訴える。そうだろうなあ、M子さんが行くべきところは心の病を治してくれる病院なんだと思う。でも、消費生活センターがそんなことを助言するわけにはいかない。
彼女の話を聞き、相づちを打つことしか出来ない時間が無為に流れて行く。
「怪しいのがお茶だけというなら、毎日新しいお茶を買って帰
られてはどうですか」
「だめです。店の人も自販機の係りの人も皆グルなんだもの」
相談員から電話を切るということは絶対しないから、M子さんの果てしない妄想話は延々と続くのです。助けて~。