相談員という仕事柄、呼ばれれば消費生活講座の講師としてどこへでも出張
して行ったものだが、そこでのちょっとした出来事だ。
講師の控え室へ案内されると女性の先客がいた。その背中に向かって「失礼
します。こんにちは」と声をかけながら入室したが返事なし。聞こえなかっ
たのかなあ、と思いながら歩み寄り「本日の講座を担当する者です。よろし
くお願いいたします」ともう一度ご挨拶。
それでも無視されて、温厚な性格を自負する私もちょっとムカつく。
ところが、私が向かい側の椅子に腰を下ろしたとたん、彼女は驚いたように
顔を上げた。耳の聞こえない人だった。同じ日に設定されていた「手話講座」
の講師だったのだ。
ていねいに頭を下げるその人の前で、なぜかアタフタしてしまう私。ついさ
っき「なんて失礼なヤツ」と一瞬でも思ってしまった自分に心の中で赤面。
聴覚を失うというハンディは、黙ってそこにいるだけだったら他人からは伺
い知れないだけに、誤解されたり悪意を持たれたりすることもあるのだろう
なあ。危険なこともたくさんあるに違いない。後ろから近づいて来る車や自
転車の音が聞こえないというのは、想像以上に危ないことなのではないかな。
このことがあってから、私は腹をたてないようにしているのです。たとえ、
狭い道路の真ん中を3人横並びで歩いていて、後ろから自転車のベルをチリ
ンと鳴らされてもびくともしない女子高生たちの剛胆ぶりに出会ってもね。















