毎年この季節、妹と弟そして私の三人で、母と伯母が埋葬されている
神奈川県にあるお墓を訪れることにしている。だからなのだと思うが、
使わなくなった古い携帯電話の中に母の声が残っていたことを、ふと
思い出した。
引っ張り出してきて充電したら「留守電メモ機能」が辛うじて復活した。
私に電話をかけてきた母の声だけが聞こえる。
「今日、来られない?」
「今どこなの? ああ、それじゃあダメね」
「何時なら大丈夫? 5時くらいに来てほしいんだけど」
「ちょっと相談があって」
私は何て返事をしているのだろう。どこかへ向かって歩いている途中で
「今はだめ」とつっけんどんに答えているのかも知れない。母の落胆
した様子が窺えて少し悲しかった。
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ちなみに、私の声はうんざりする程残ることだろう。何しろパソコンの
中に音訳データが山のようにあるのだから。