Scarving 1979 : Always Look on the Bright Side of Life

1979年生な視点でちょっと明るく世の中を見てみようかと思います。

「犬(dog)」第8回

2004年06月17日 12時00分00秒 | 物語
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2日後

【こないだはごめんね。突然10枚も手紙だしちゃって。驚いたでしょ。でも、あれが僕の気持ちなんだ。あれほど君のこと好きなんだ。わかってくれたかな?なかなか答え出すの難しいと思うけど、返事ください。そうしないと、僕の首は、今のところ、雲の上でジャンボジェットに、こんにちはって感じだけど、もうすぐ大気圏に突入して、燃え尽きちゃって、流れ星になって君の家に降り注ぐよ。って冗談です。本気にしないで下さいね。今回は長くならないようにこの辺でやめておきます。ともかく、早く返事ください。OKでもNOでも、どちらでもいいから、答えを下さい。でも、できればOKと言って欲しいな。大好きだよって言って欲しいな。そしたら、今度の日曜日、いきなり二人でってのもなんだから、お互いに友達何人か連れてさ、映画でも観に行こうよ。それじゃ、返事待ってるよ。それじゃあ、また。SeeYa!】

「ま、こんなもんでいいか」

 返事の催促の手紙を1枚書いた。

 外の月は、小さい。



「いやよ、こないだ言ったでしょ、1回だけだって」

 天川は椅子に座るなりそう返した。

「いいじゃんか。たのむよ」

「やだったら、やだ。も~、そんなに渡したかったら、自分で渡しなよ」

「いや、できないよ、そんなこと。だからさ、ね」

 手紙を天川に差し出した。

「ねえ、お願いだから、もう私を頼らないでくれる?」

 差し出した左手を、押しのけた。

「今回だけで終わりにするからさ」

「だから、絶対、やだって」

「別にいいじゃん、手紙渡すくらいしてくれたって」

「なんなのよ、私は郵便屋じゃないのよ」

「そんな怒んなくてもいいじゃん」

「怒ってないよ。ともかく、どんなことがあっても手紙は渡さないからね」

「もう、わかったよ。じゃ、頼まないよ」

 右手で数学の教科書に挟み込んだ。邪魔するプリントも気にせずに押し込んだ。



「・・・ってさ、滑っちゃたんだ」

「え~、そんなことある~?話つくってない?」

 ブラスの音が響く音楽室。カーテンの隙間からこぼれる、赤の矛先に座っているかおりんと裕子。

「別につくってないよ」

(ほんと、あの時はびびったんだから)

「ほんと~?」

「ほんとだよ~」

(あ~、楽しいな~。こんなに気兼ねなく会話できるなんて)

「ねえ、かおりん」

 黒。影。クラリネットを首から提げた、天川が隙間に入り込んだ。

「え、なに?」

「あんたさ、あいつに、いつ返事するの?」

「え」

(あ、そういやそんなことあったな)

「あいつさ、ずっと、あんたの返事待ってるんだよ。早く返事してあげなよ」

「でもね~」

(僕は当事者じゃないんだから)

「別に嫌いなら嫌いで、断ればいいじゃない。返事しないで逃げようなんてずるいよ」

「ずるいとか言われてもさ」

(勝手に決められないよ)

「ねえ、かおりん、何の話?」

「いや、あのね・・・」

(言っちゃっていいかな?)

「裕子、別にあなたには関係がない話なの。ちょっとどっか行っててくれる?」

 かおりんの言葉を遮るように、天川がドアを左手で指差しながら言った。

「なによ、その言い方。ひどいじゃない。私だけ仲間はずれにしようっていうの?」

「そうよ、その通りよ。これは私たちの問題なの。首突っ込まないでもらえる?」

「ちょっと待ってよ。そりゃいくらなんでも言い過ぎだって」

(天川さん、いきなりどうしたんだ?)

「なによ、かおりんもかおりんよ。返事してないくせに裕子と楽しそうに話しちゃって。もうちょっとあいつのこと考えて悩みさいよ」

「なんで?」

(なんか中年女のヒステリーやってるよ)

「なんでって、なによ。なんでって。ふざけないでよ、ラブレター送ったあいつの気持ち考えてみなよ」

「え、かおりん、ラブレターもらったの?誰に?」

「裕子、あんたは黙っててって言ったでしょ」

「私はかおりんに聞いてるんです。あなたには聞いていません」

「あ、そうでしたか?でもですね、今、かおりんは、私とお話しているので、あなたにかまってる暇なんて、どこにもないんです」

「いえ、それはあなたの思い込み。かおりん、嫌がってるじゃない」

「そんなことないわよ。かおりんは、私とお話したいの。ね、そうだよね」

「いや、あの」

(どうすりゃいいんだよ)

「ほら、かおりんは、あなたと話したくないって。あなたこそ黙りなさいよね」

「うるさいわね。あんたがいるから、かおりん話さないのよ」

「なによ、人のせいにして。自分が悪いんでしょ。突然、話に割って入って来たくせに」

「あんたこそ、自分に関係ない話に入ってこようとしたじゃない」

「関係ないことないでしょ、私だってかおりんの友達なんだから。何があったか聞いたっていいじゃない」

「よくないわよ。あんたごときに聞かせるようなことじゃないの」

「ごときってなによ、ごときって。あなたは何様なわけ?」

「あ、あの、ちょっと、いい?」

(このままほっといたら、喧嘩になっちゃうよ)

「なによ」

「え、どうしたの、かおりん?」

「いや、あのさ、天川。裕子にも教えようよ」

(こうするしかないって)

「なんで?なんで裕子に教えなきゃならないわけ?」

「だってさ、僕一人じゃ決められないから、裕子の意見も聞いた方がいいかなって思って」

(秘密を共有すれば、より親密な仲になれるし)

「なんで一人じゃ決めらんないのよ」

「あいつに対してさ、恋愛感情ってやつが本当に無いんだ。だから、本当に付き合っていいのかどうかなんて、自分じゃ決めづらいじゃない」

(僕的には、付き合う気なんてまるでないんだけどね)

「じゃ、なんでそれが裕子じゃなきゃいけないわけ?私じゃ駄目なの?」

「え、いや、別に、駄目とかそういうのじゃなくて、たくさんの人の意見聞きたいじゃない。その中で自分の答えが出せるっていうかさ、いろいろ考えられるじゃない」

(本当は裕子と話しがしたいだけなんだけど)

「ま、そりゃそうだけど」

「だからさ、裕子にも教えようよ、ね?」

(お、うまくいったか)

「いや、でも、それはちょっと待って。あいつがさ、他の人に言わないでって言ったんだ。だから、あいつがいいって言ったらにしようよ」

「うん、わかった。じゃ、裕子、それまでの間ちょっと待っててくれる?」

(とりあえずこれで収集ついたな)

「うん、わかったら相談に乗ってあげるよ」

「ありがとう」

(やった、これでまた話す機会が増える)



 数学の教科書から手紙を抜き出すと、机の引き出しに押し込んだ。



「かおりんがね、あんたへの返事考えたいから、裕子って子に相談したいって言ってきたんだけど、いい?」

 翌週の月曜日、「おはよう」「ねむいね」の次に、天川の口から出た言葉はこうだった。

「え、いや、あの、ま、いいよ」

「じゃあ、そう言っとくから」

「あ、それじゃ、返事のこと聞いてくれたんだ」

「ばか、聞くわけないでしょ。かおりんが勝手に言ってきたの。なんで私があんたのために聞かなきゃならないのよ」

「いや、俺のこと心配してくれたのかな?って思ってね」

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第9回

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『想い』

彼 の こ と を

友 の こ と を

想 う 気 持 ち

決 し て

嘘 じ ゃ な い

 



胸 を 張 っ て 言 え る な ら

そ れ で い い と 思 う

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第8回あとがき

[当時]
今回は無茶苦茶ベタなことをやってしまいました。
あんまりこういうのはやりたくないんだけど、
この作品はこういうのも入れなきゃいけないんです。

[現在]
いけないって断言されては、どうにも反論できません。
そもそもこのお話書いたの覚えてないし。。。
少女マンガの王道ラブコメみたいですね。なんか。
と同時に、無駄っぽいものを細かく取り上げる、
やっぱり雰囲気重視の邦画的構造になってますね。ふむ。

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