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●米中経済戦争のさなか 中国ドイツ経済の連携強化の意味
本日は多忙のため、先ずは以下のコラムを参考引用しておく。川口氏の考えの中に「嫌中意識」が存在することを差し引いて、ドイツ・メルケル首相の動きを捉えておく必要があることを、ひと言加えておく。まぁいずれにせよ、筆者コラムでも述べているが、習近平の「一帯一路」構想は、着々と進んでいるようだ。このような問題、つまり歴史観と云うものは、好きや嫌いで論ずるべきではなく、時代の大局に立って観察したいものである。ただし、情報としては、充分に有益なので参考引用させていただく。
PS:
ドイツが親中にシフトしていることは知っていたが、川口氏のレポートを読む限り、経済協力に関しては同盟と云う表現を使っても良いほどに深くコミットしているのが判る。無論、軍事同盟は結んでいないのだから、日米同盟のようなものではないが、平時においてと前置きすれば、日米同盟以上に効果の上がる経済関係構築に向かっていると云うことだ。中独ロと云う塊が透けて見える。
トランプ米大統領がNATO軍の維持費の負担金問題で、EU側の負担増を強く求め、EU側も当面、その言い分に応じる方向で調整に入っていることは既報である。しかし、必要以上のNATOの防衛費に対して、EU諸国の考えはまちまちで、ロシアの東進侵攻を防衛する意味合いは希薄化しており、疑問も多くあり、米国の対ロ政策の片棒を担がされているだけの軍事同盟がNATOではないのか、と云う評価さえある。最近では、対ロに加え、対中も含まれ、NATO軍事費が膨れ上がっている。
しかし、ロシアの東進侵攻のリスクや、中国のEU侵攻リスクなどは、外交や経済協力の深化によっては回避できる問題であって、EUの中には、ロシアや中国は必ずしも仮想敵国と云う条件に当て嵌まる国家なのかと云う疑問が大きくなっている。それに対して、米国やイスラエルは、その危機を強調して、軍事増強を主張しているためNATOの軍事費は膨らむばかりだ。当面はイランだが、イラン包囲網にも異論が絶えない。このような状況になると、EU側にしてみれば、EU合同軍のようなものを創設して、米国主体ではないNATO軍に代わるべき合同軍の構築を模索する動きが出ている。
こうなると、なぜ米国はEUが離反したくなるような要求を突きつけるのかと云う疑問がある。ひとつの答えは、大統領が米国の宿痾を一身に抱えているトランプであり、彼は経済効率一辺倒に頼らざる得ないと云う説である。もう一つは、米国経済は好況に見えているが、産業の空洞化が国力の低下を招いており、多くの国民の後進国化も深刻で、1%対99%問題が、国家を蝕んでいるのが現実だ。そうなると、米国にとって、頼りになるのは軍事力とドル基軸になるわけだが、ドル基軸のメリットが、いつまで享受出来るものか、疑問符がつけられている。
となると、強大な軍事力を背景とした外交攻勢が主たる手段になる。対中、対EU等に対する関税制裁も、その一環だろうが、カウンター関税制裁で対抗され、経済対立の行方は不透明だ。これらの動きは、秋の中間選挙までのトランプ大統領の人気取りという説もあるが、次々と選挙の洗礼は続くのだから、一過性とは言いがたく、この流れは、米国の大国としての能力が落ちてきたことを示していると言うべきだろう。
米中の、覇権争いが開始されたのはたしかだが、中国には、米国を押しやってまで、世界の覇権国に君臨しようと云う意図は、必ずしも見えていない。あくまで、経済における大国化が主眼であり、一気に米国の覇権を乗っ取れるとは考えていないのが肝である。中国の軍事力が、米国の軍事力に追いつくことは、かなり困難なわけで、先ずは経済部門でトップに立ちたいと云う意図なのではないかと思われる。
“百年河清を俟つ”だけではないとしても、米国の凋落度に応じて、中国の覇権が近づくことはあっても、おそらく、中国はみずから覇権を握りに行こうとはしないだろう。あまり根拠のある答えではないが、体質的に、中国人には世界全体の問題に責任を持つと云う発想はないと思われる。責任を持つ気がないから、総体的な意味の覇権を欲しがってはいないと云うことだ。ドイツや中国、ロシアの考えは、おそらく、世界は「G20」が平均的に力を持ち、影響し合い、牽制し合う“世界均衡”を考えているようにみえる。
緩やかな“ユーラシア大陸覇権”の考えはあるだろうが、英米などが持っていた所謂“覇権”とは意を異にした覇権なのだろう。その意味で、デモクラシーも一定の役割を終える流れかもしれない。核による牽制軍事力が世界に存在する限り、残された覇権は、経済に限定されることは自然のなり行きだ。このような大きな流れの中で、私利私欲と、亡霊のような長州政治を実現させ、明治回帰論に妄執している内閣を抱えた我が国は、なんともはや、手の打ちようもない……。北朝鮮問題で蚊帳の外なのだが、世界の潮流においても蚊帳の外のようだ。
≪米中貿易戦争の裏でドイツと中国が調印した「巨額経済協定」の中身
メルケル首相の表情は何を意味するのか
■中国とドイツの親密度
7月7日、ドイツの大手一流紙「フランクフルター・アルゲマイネ」に、中国の李克強首相が寄稿した。
:文章の中身は、「中国は国際貿易において、自由と公平を重視し、多国間協力体制の強化を支持していること」、「EUの繁栄を望んでいること」。だから、「ドイツ企業は不安を持たず、ドイツやヨーロッパに進出する中国企業に対して、公正でオープンな環境、および、安定した制度上の枠組みを整備して欲しいこと」。中国は「WTO(世界貿易機関)の原則をいつもちゃんと守ってきた」のである。
:実は、中国のこういう望みに、ドイツはこれまでも十分に答えてきた。独中関係は、小さな例外はあっても、すでにここ100年以上、概ね良好だ。
:先日、中国に行った人から聞いたが、北京の国際空港のパスポート審査のところには、「中国人」「外国人」というどの空港にでもある区別以外に、「Air China Easy Way Beijing-Frankfurt」という窓口があるそうだ。そればかりか、北京~フランクフルト間を移動する人専用のチェックインカウンター、荷物のターンテーブルなども整備されているという。中国とドイツの親密度を考えると、さもありなんとも思える。
:李克強首相の寄稿文が掲載された2日後の9日、本人がベルリンにやってきた。中国とドイツは定期的に政府間協議を行っているが、李克強首相は今回で5度目。カウンターパートはいつもメルケル首相だ。
:2016年、中国はドイツにとって最大の貿易相手国となった。以来、メルケル首相は公式の場で、「中国はドイツにとって一番大切な国」とはっきりと言う。
:去年の交易額は、中→独が1000億ユーロ、独→中が860億ユーロ。ドイツのGDPの半分は輸出によるものだから、中国の存在は大きい。ドイツ車も、3台に1台は中国市場向けだ。ドイツ経済は、中国がくしゃみをしたら、風邪どころか肺炎になる。
:だから、現在の米中貿易戦争も他人事ではなく、ドイツ人にとっては我が身に降りかかった災難に等しい。しかも彼らは元々トランプ大統領が大嫌いなので、あの大統領のおかげで中国の景気が冷え込むかもしれないと想像しただけで、頭に血がのぼる。
:このトランプ憎しが後押しになったのか、今回の政府間協議はまさに独中スクラムの大展開となった。22の経済協力協定も調印された。
■ドイツが自給できない意外なモノ
:一番インパクトの大きかったのは、電気自動車用のバッテリー工場だ。旧東独のチューリンゲン州の州都であるエアフルトに、中国最大のバッテリーメーカーCATLが進出することになった。工場の敷地は80ヘクタール。サッカー場にすれば、112面。初期投資額が2億4000万ユーロという。
:実はヨーロッパには、電気自動車のバッテリーを作れる会社がないそうだ。だから、これまでも主に中国から輸入していたが、バッテリーは危険物なので飛行機では運べない。だから輸送に時間と手間がかかった。
:ところが、新工場の建設予定地はアウトーバーンのインターチェンジに近く、どの自動車メーカーにも数時間で運べるとか。BMW社は早くもこの日、2021年の分として、ここで作られたバッテリー15億ユーロ分の発注を出した。
:それにしても、電気自動車をこれから爆発的に伸ばそうと言っているドイツが、バッテリーを自給できないというのは意外だ。しかも、EU中を探しても、バッテリーに関しては、目下のところ中国のライバルはいないという。
:この調子ではますます中国依存が進みそうだが、これがドイツ人の考えるウィン・ウィンの関係なのだろうか? :ちなみに第一テレビは、ニュースでこのバッテリー工場の建設予定地の映像を出した。もちろん、今はただの広大な野原なのだが、そこに金キラの招き猫を置いて、撮っていた。何が言いたいのかはよくわからない。自虐的ユーモア?
:そういえばメルケル首相も記者会見で、「わが国が自分でバッテリーを作れれば、それは悲しいことではないが」と、これまた自嘲的なジョークで、自国がこの技術で出遅れたことを皮肉った。「だから、どうせ中国がヨーロッパに進出するなら、それがドイツであったことは喜ばしい」のだそうだ。
:一方、CATLの誘致に成功したチューリンゲン州の州知事も、同社が東欧に進出しなかったことに感謝したうえ、「中国はいつもテクノロジーを盗むと非難されているが、こうしてテクノロジーを持ってきてくれているではないか」と、中国に成り代わって胸を張った。ドイツ人の思考回路はどうもよくわからない。
:ちなみにドイツでは、リチウムなど重金属を使わず、環境に負荷をかけない新しいバッテリーの開発も細々と進んでいるらしいが、投資が滞り、実用の目処はないという。
■経済関係はますます深まり…
:さて、今回の独中政府間協議において、成功と考えられていることがいくつかある。
:たとえば、中国が外国企業に、合弁ではなく、単独での投資を認めたこと。また、自動車メーカーは、これからは合弁会社の持ち株を、50%を超えて所有することもできるようになること。
:メルケル首相はそれらを、「市場を開くという中国の言葉には、行動が伴っている」と称賛した。ただ、正確に言えば、今後も中国では、国産企業だけに補助金が出るなど、まだ完全に平等な市場になるとは言えないらしい。
:いずれにしても、この日、李克強首相とメルケル首相が見守る中、両国の大臣や企業のボスたちが続々と契約書に向かった。一つサインが終われば、笑顔で握手。カメラのフラッシュが焚かれ、はい、お次。
:調印された主な契約を挙げると、ドイツの総合化学メーカーBASFが、ドイツ、オランダに次ぐ、世界第3規模の工場を、85億~100億ドルかけて広東省に作るという。これまで南京にも工場があったが、その2倍の規模だ。2026年に完成予定。合弁ではなく、単独出資。
:また、ドイツの複合企業シーメンスとState Power Investment(中国の5大電力会社の一つ)が、発電用の超高性能ガスタービンを共同開発することも決まった。
:その他、ドイツの工作機械の大手Voith社と、世界最大の鉄道車両メーカーであるCDDC(中国中車)の協力、ドイツのSAP(世界第4位のソフトウェア会社)とSuning Holdings Group(中国最大のホールディング会社の一つ)の協力、独シーメンスとアリババが産業用のインターネット網の整備で協力。
:自動車産業では、BMWとBrilliance Auto(華晨汽車)の合弁会社であるBBAが生産規模を拡張し、2019年より、2ヵ所の工場でBMW52万台の現地生産を開始するという。そのほか、ダイムラー、フォルクスワーゲン、ボッシュなども、軒並み、生産を拡大する方向で話を進めつつある。
:また、鳥インフルエンザのあと中国への輸出が止まっていた鶏肉も、この度、めでたく解禁。とにかく独中の経済関係はますます深くなる。
:ただ、これは私見だが、今回、李克強首相と並ぶメルケル首相の表情を見ていると、にこやかではあるものの、何か硬直したものがあったような気がする。4年ぐらい前のこの二人は、もっとリラックスした雰囲気を醸し出していた。ところが今回はどこか不自然なのだ。水面下の緊張が見え隠れする。
■ドイツ人の危機感
:さて、その二人が共同記者会見の場で強調したのが、自由貿易の推進。「多国間協定のシステムは大切」「摩擦のない交易を」など、つまり、トランプ大統領に向けてのアピールである。
:「中国とドイツの協力関係は、トランプに対する強いシグナル」というのは、経済紙Handelsblattのオンライン版に載った記事のタイトルだが、どことなく、独中関係をさらに深化させるための大義名分のようにも聞こえる。
:それにしても、この二人がアメリカの「横暴」の前に立ちはだかる自由貿易の守護者とは! 李克強首相に「公平で正義ある国際秩序を維持せよ」と発破をかけられると、いくら何でも、ちょっと片腹痛い。メルケル首相は、いったいどんな気持ちでこの片棒を担いでいるのか?
:ただ、DIHK(ドイツ商工会議所)も、「アメリカが孤立主義を取るなら、ドイツはさらに中国との関係を深めるべき」という意見らしく、いまやドイツでは、中国との協調は国是のようだ。すでに深く関わりすぎて、引き返せないということもあるかもしれない。そのうえ、前進すれば、今のところはまだ儲かる。
:一方、最近のEUでは、中国の進出に対して警戒を強めている国が増えている。EU内に中国の投資を厳しく見張る規則を作ろうという動きもあるのだが、こともあろうにBDI(ドイツ産業連合会)があまり乗り気ではないという。だからこそ中国は、2016年、ドイツのハイテク産業ロボットメーカーであるKUKA社も問題なく買収できたのかもしれない。
:李克強首相は今回、独中関係は新しい段階に入ったと言っている。しかし、このままでは、ドイツ企業はそのうち巨大な中国に飲み込まれてしまうのではないか。中国にしてみれば、ドイツを影響下におけば、EU全体を影響下に置くことができる。あるいは、北アフリカや中東まで、その影響力を広げることも夢ではない。
:今、中国の工場では、KUKAのロボットがせっせとドイツ車を作っている。しかし、ドイツ人には危機感はあまりない。唯一、メルケル首相の表情が、私には少し引っかかっているのだが、非常ベルは今もスイッチが切られたままだ。
≫(現代ビジネス:国際・川口マーン恵美)
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