acc-j茨城 山岳会日記

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中ノ岐川・巻倉沢~兎岳~岩魚止沢下降

2023年10月17日 20時19分50秒 | 山行速報(沢)

2023/10/3-4 中ノ岐川・巻倉沢~兎岳~岩魚止沢下降


やっぱり兎岳に行く
そう決めたのは、数日前
山行前夜に催される懇親会に誘われた時のことだった

参加は自由
会議の後、行きませんか?
そう問われて、咄嗟に「ちょっと野暮用があるので」と口をついた
会社人としてはどうかとも思ったが、そう答えていた

兎岳との出逢いは16年前
利根川を遡ったその先に佇む峰、包容とした姿が印象的だった

控えめで、飾り立てて人目を引こうとはしない態度
私は、そんな姿に惹かれたのだ

折角なら沢を繋ぐ山旅がいい
中ノ岐林道から西沢、巻倉沢を詰めて兎岳へ

不安は雪渓の状態だが、この夏に限って言えばおそらく消えているだろう
そこにはどんな景観が広がっているのか
想像して高揚する反面、未知なる旅をためらう自分もいた

そんな時に誘われた前出の懇親会
咄嗟に口をついた言葉に、もう自分は決心していたんだなと自覚した


シルバーラインのタイムトンネルをゆっくりと走り抜け、銀山平
暗闇の樹海ラインを奥只見湖に沿って走り、雨池橋にて一夜を明かす

目覚めると車窓に微かな雨
それでも雲の流れと、森から立ち昇る靄でこれから晴れることはわかった

中ノ岐林道から西沢までのアプローチに自転車を使う
登り基調の林道でザックを背負いながらのクライムサイクリングは辛いので半分以上、押し歩き
この辺りは以前の経験から想定通り

それでもナメの美しい二岐川や林道に水を落とす滝沢、遥か上から流れを落とす上カブレ沢など見所は随所にあって飽きることはない

西ノ沢橋の手前左岸に藪に埋もれた林道がある
しばらくはそれを辿り、岩魚止沢
帰り道に通るであろうこの踏み跡入り口にケルンを積んでおく

そこからさらに西沢左岸の藪を行くと自然と沢に降りる
西沢の水量は多く、想像より冷たかった

雪渓の存在も想定しながら、岸辺を辿る
時に現れるゴルジュ地形も小さく巻いたりへつって行けば困難はない

左に下り上り沢を見て、淡々と進みオキノ巻倉沢との出合
ここは水量の多い巻倉沢へ

地形図ではこの辺りから雪渓に埋もれているのだが、さすがに今年はただの河原だ

ちなみに、地形図の「雪渓」マークは国土地理院では「地図記号:万年雪」というらしい
そして万年雪の記号は、9月頃の雪の少ないときに50メートル×50メートル以上あるものを表示しているそうだ

巻倉沢はしばらく明るい河原が続き、巻倉岳への支流を見送ると次第に両岸は立ってくる
ゴルジュ状を1か所通過するが、困難はない
その後、小滝が続き水流脇を登ったり小さな巻きを繰り返す

中流部はゴーロが続く
たまに現れる小滝も小さく巻いたり、水流脇を行くことができる

左に支流を見ると、滝場が始まる
序盤は水流近くが階段状なので、どれも容易

標高1550mあたりの屈曲点で左に支流を見送ると、2段15m滝
ここは水流奥から取付いて中段で水流を跨ぐ
上段は右岸の岩草ミックスを登り、大岩下で落ち口にトラバースするがちょっと怖い
その後、10m直瀑は右岸巻き、2段10mは水流右を行く

そして巻倉沢最大と思しき、3段30m滝
下段、中段は水流右を行き、上段は右岸スラブを巻き気味に行く
草と岩が外傾しているので、念のため空身+チェーンスパイクで行き、荷揚げ
藪に入ってトラバース、草付き急傾斜を草頼りのクライムダウンで沢床に復帰

この後もいくつか滝は出てくるが、水流脇を登ることができる
次第に開ける源頭が秋の空に映えた

その後はガレが多くなる
そしてガレの間から水が湧き出しておりこれが水源となっていた
水を500ml確保し、この先は沢型を忠実に詰めていく

左に大水上山が見えるころ、小笹から背丈ほどの藪に突入
15分ほど藪を漕ぐと兎岳への登山道に出る

荷物をデポして、大水上山まで往復
奥利根の山々を指呼しながら、春の健闘を思い返す


振り返れば、兎岳
踏み出すごとに近づくそこは彩色の時が近づいていた

「よく来たね」
山標にそう記されていた
よぎるのは、あの時から山を紡いできたことへの労い
自身「よく来たな」とも思う

兎岳を後に稜線を荒沢岳方面へ向かう
道中、日が傾き風が変わった
さきほどまで爽やかだった風が急に冷たくなる

今日の宿りは、巻倉山の先の平坦地の予定
少し下れば、岩魚止沢の源頭で水も確保できる場所
彩色の中、寒さに呼応するように歩も足早になる

水を確保し、ツエルトを張り終える
今宵の友は真野鶴の純米吟醸
あとは、山上の宴で友と語り合うだけ

と、そこまでは良かった

夜半からの雨
暗闇でシュラフカバーに包まりながらも、下山を憂慮していた

朝、事態はそれ以上に身の回りを侵食していた
防水性の低いツエルト内部は雨水で水浸し、空だったはずのコッヘルには布地を伝って雨水が並並と溜まっていた
濡れたライターにコンロ、火をつけるにほとほと苦労した

朝食準備をする間にも衣服は濡れ、寒さに震えながら岩魚止沢を下降して西沢へ向かう
増水が心配であったが、水場の水量も昨日とあまり変わりはないので問題ないだろう
淡々と下っていくが、ほどほどに滝が続く

途中の大滝25m+15mは左岸を巻き下り
これらを含めて、終始クライムダウンか両岸の藪を使って巻き下りでこなす
懸垂下降は要しなかったがチェーンスパイクがあると心強い

下流部(1310m)で右俣を合わせると穏やかになって下降も捗る
最後のゴルジュ状をこなすと沢は一層穏やかとなって、見覚えのある目印に出合う

腹ごしらえをして昨日辿った西沢沿いの藪化した林道を行く
そのころには雨も途切れ途切れとなって、時折太陽も顔を出す

中ノ岐林道に出れば、あとは自転車での滑走
雨池橋まで40分ほどでたどり着くという、痛快なデプローチ
車輪は偉大だ

風切る疾走感
流れていく緑と灰色の岩峰、渓谷美
行く手に真っ赤な雨池橋と奥只見湖

今日も無事に下山できそうだ
そうして思い浮かぶのは、家で待つ妻の姿

控えめで、飾り立てて人目を引こうとはしない態度
私は、そんな姿に惹かれたのだ
あのころからだったのかもしれない
落ち着いた深みのある安らぎを好むようになったのは

奥利根と奥只見の間
中ノ岐川・巻倉沢を遡り、兎岳へ

開けた源頭が秋の空に映える
刻々と彩色の時が近づいていた


sak


 

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