acc-j茨城 山岳会日記

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山でのあれこれ、便りにのせて


ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

二口山塊・大行沢

2003年09月25日 15時04分45秒 | 山行速報(沢)

2003/9下旬 二口山塊・大行沢

秋の葉

二口山塊、名取川・大行沢はいきなりのナメで始まる。 
言葉を失う自然の造形は人々の右脳を刺激する。 
芸術にも似たその奥のゴルジュは優しげな流線形を型造るがなかなかどうして微妙なバランスを要求される。

「流線形のプロムナ-ド」 
そんなフレ-ズがとてもよく似合う 
流れはまるでそれとは想えないほどにゆったりとのったりとしていた 
そして色を変えはじめたばかりの秋の葉がその流れにのってゆったりとのったりとしていた

 

沢歩き

ゴルジュが終わると一転穏やかな流れとなる 
朝日がこぼれる中、ブナの森に囲まれて瑞々しい沢歩きは最高の贅沢 
私は今、それを独り占めしているのだからココロも弾むわけさ

「ザマ-ミロ」 
納得いかないことも、我慢ばかりしていたことも、まあたいしたコトではなかろう 
だいたい、とてつもなく大きく、広いこの星にあって私はなんとクダラナイことばかり考えているのだろうと 少々、ウンザリとする 
普段の自分に悪態ついてみたところで、今なら仕方ないと力なく笑って許せるのです 

 
マイナ- 

沢はやがて滝にへと突き当たる 
なんてことない登りだが、コケのついた足元は決してよくはない 
確保のない身にとってこのくらいが楽しめる範囲ではなかろうか

山にもさまざまな山がある 
沢登はその中でも群を抜いてマイナ-であるように思うのは私だけではないはずだ 
華々しいクライミングや楽しげなハイキング、シビアな雪山を知らない人はいないであろう 
その中にあって沢登を知る人は極端に少数である

かつて山は百名山でブ-ムとなり、今クライミングはお洒落なスポ-ツとして人気を博している 
そんな世情に「沢だってなあ」と反論したくなるのは、私が色々な山旅を重ねたその結果でもあろうか

 

大ナメ

巨石帯、ゴ-ロと渓相は移り変わり、そしてついにあわられるのが大ナメである 
大ナメ沢って言うくらいだもの、それなくしてはどうにもならんってことなのですよ

広くてとめどなく続くが如きこの天国的ナメは、もはやため息すら出てこない 
ト-トツな感激に独りたたずみ、さわさわという沢の音に耳を澄まして、足元の流れにただ見惚れるほかはなかった 
この喜びを独り占めにしてペタペタと歩くたびにどうしてか不安定で複雑な心持になるのは あまりにも思いのままにこの山旅を堪能しているからなのでしょうか

 
無邪気 

巨石帯から岩魚が走リはじめ、たまらず竿を出す 
ここでの釣果が今宵の食卓を彩るのだから気合も入る 
せめて一匹あがれば今夜のディナ-は仕上がる準備 
祈るようになれない手つきで竿を振れば慣れないサカナがかかってくれるものらしい

このオモシロさ 
このゼイタクさ 
そしてこの沢登り 
自ら創る山は生活の楽しさがイッパイ詰まっている 
まるで子供のような無邪気さで、大人のようにそんなことを想うのでした

 

岩魚尽くし

さあ、お楽しみの時間がやってまいりました 
山はともかく、渓においてシャカリキに登り込むのはその魅力も半減というもの 
ゆっくり時間をかけて楽しみながら、味わいながら歩きたいものです

焚き火をはじめたら炊事の準備に取り掛かるのです 
持参の食材に加え十分な岩魚も確保できたので燻焼きにしてお土産にすることにしました 
家族の喜ぶ顔が思い浮かぶようです

今宵のメニュ-は岩魚尽くし 
岩魚鍋、岩魚焼飯、岩魚燻焼、岩魚の刺身・・・。 
骨が柔らかくなるほど煮込んだ鍋や香ばしい焼飯は絶妙な一品 
これほどうまい魚もない 
ただし10月からは禁漁期。思い出す度、また来年が楽しみな次第です 

 
カケス沢 

明けて本日も山日和 
一夜を明かした場所からは大行沢の支流カケス沢へと踏み込みます 
ほとんどの荷物はここにデポして荷はスカスカで軽いのですがこのカケス沢、 出合からは想像もできない場面が待っているはずなのでちょうど良い重さでもあります

朝食は昨夜から一晩煮込んだ岩魚鍋です 
良い出汁に柔らかな身がたまりません 
ラ-メンは結局食べずじまい 
これを食しない泊付き山行など自身始まって以来の快挙です

 
連瀑帯

ナメで始まるカケス沢もやがて小滝が顔を出し、連瀑帯へとその姿を変える 
流れに磨かれた滑らかなスラブは美しくもあり険しくもある 
ときに高巻きを余儀なくされ、水線を離れたとしても草付のトラバ-スはあまりにも悪い 
あまりの悪さにさらに高度を上げ、安定した潅木から懸垂三回でどうにか沢床に戻りついた次第です

相も変わらず空は青かった 
艶やかなる流れは巳をくねらせるようにして釜から釜へと落ちていく

まるいのである。実にまるいのである 
時に私のココロを射抜くがごとくまんまるなのです 
思わずドキッとしてしまったりして 

そしてまあるい釜は芳醇な水をたたえるのです

 
北石橋

連瀑を過ぎ、ようやく人心地 
すると途端に流れは平凡となるが最後のお楽しみが待っているはずだ

眼前にあわられる石橋 
圧倒的景観に思わず声が上がる 
ここまでたどり着いた喜びが自然と声となりそして唸る

君に出逢えてよかった 
そう思うのが精一杯 
甘く切ない片想い 
もはや観念するほかなかった 
それほどに、言葉にならない偶然がそこにある

小さな幸せ

下山はよく踏まれた径をさくさく歩く 
時折樹幹に覗く魅惑の渓はどこから見ても絵になるものだ 
ぱらぱらと陽に輝きながら落ちる水晶のごとき滝粒を見上げると、 まるで自分が飛んでいるような気分のよさでどこまでもどこまでも昇ってゆく

マイッタなあ。実にマイッタ 
本当は「沢だってなあ」なんて説教みたいに宣伝しちゃあイケナイんだよ 
今になって気づいてしまったのだからマイッタ 
「沢?ナニそれ?」といわれたらムフフと笑いながら「さあ?」と答えるのが理想的解答だわ

感動と驚き、悦楽の山岳劇場はそう安々と知られちゃならんのです 
知らぬ振りをしながらほほ笑む小さな幸福は、渓を知る者達にとっての大きなシアワセのはずだから 
 

sak