Ruby の会

シニアライフ~能楽・ボランティア・旅行・食べ歩き・演劇などを綴っています

新聞小説「国宝」

2018-06-16 | 

 若い頃から、新聞小説はわりと読む方だ。ここずっと朝日新聞を購読しているが、最近は、沢木耕太郎の「春に散る」、宮部みゆきの「荒神」、荻原浩の「愛しの座敷わらし」、重松清の「エイジ」など印象に残っている。途中でギブアップし、映画化されて観て驚いたのが吉田修一の「悪人」だ。

 その吉田修一の「国宝」を毎日楽しみに読んでいたが、5月末に500回をもって終了した。その結末、最終回に圧倒された。一言で言えば、やくざの息子が歌舞伎役者になる話だ。誰がモデルだろうね?などと、一緒に能楽の太鼓を習っている若い友人と話し合ったりしながら読んでいた。彼女は歌舞伎が大好き、役者さんのことも詳しい。

 舞台は長崎から始まる。長崎は吉田さんの生まれ故郷だそうだ。組抗争で非業の死を遂げた権五郎と言うやくざの親分の息子、喜久雄が、歌舞伎役者として波乱万丈の人生を生き抜くストーリー。
 たぐい稀な美貌の持ち主で、根っから芝居が好きだった喜久雄は、花井半二郎と言う歌舞伎役者の弟子になる。半二郎には喜久雄と同年配の息子、俊介がおり、二人は兄弟のように仲がよく、切磋琢磨し合いながら芸を磨く。が、半二郎が自分の後継者に喜久雄を指名したことで、彼だけでなく周囲の人々の人生が狂って行く。歌舞伎の世界独特のしきたりや人間関係が複雑に描かれる。

 👇は、東芋さんの挿絵です。

 👇は、「源氏物語」。

  👇 口上。

 女形として大成し、人間国宝の指定を受け、最後の舞台で「阿古屋」を演じ終えた後、喜久雄は舞台から降りて、歌舞伎座の中を進み、玄関からさらに銀座の大通りを進んで歩いて行く。車のヘッドライトが舞台の照明のように輝く空間へ向かって…。

 この最終回の光景にぐっと胸に迫るものがあった。読者は皆、思ったことだろう。「この後、喜久雄はどうなったのか?」 

 数日後、作者の「連載を終えて」の記事は、「喜久雄は幸せな人生だったのか」と言う見出しで始まっていた。吉田さんは歌舞伎役者を主人公にした小説を書こうと思い、4代目鴈治郎さんに頼んだそうだ。鴈治郎さんは黒衣の衣装を作ってもらい黒衣の一人として全国の劇場をついて回ったそうだ。最終回を終えた今も、喜久雄のことばかり考えているそう…。そのくらい思い入れのある主人公だったのだろう。
 単行本は9月に刊行予定。


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2 コメント

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Unknown (なは)
2018-06-20 18:13:39
清姫様
新聞小説「国宝」は凄い迫力のあるものでしたね。私は途中で目が悪くなって読めない時もありましたが最後は貴女の仰るように「鬼気迫る」ような感じがしました。
役者が昇華したのか、芸の鬼になったのか、凄まじく思いました。
吉田修一という人は凄まじいものを書かれますね。「悪人」も読まなかったのですが、映画は凄かったです。
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Unknown (清姫)
2018-06-20 19:02:24
なはさん
途中、人間関係がゴチャゴチャと複雑になり、気持ちもよくつかめない頃がありましたね。
歌舞伎独特の世界なのかな~と思いました。
だからなお一層あの結末には呆気にとられました。強烈だったですね。NHKの玉三郎の「阿古屋」の解説、映像もタイムリーでした。
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