うさぎの耳

大学卒業→社会人→看護学校→6年目ナース
読書の記録と日々の出来事。

『クリスタル・ヴァリーに降りそそぐ灰』今村 友紀

2012年02月04日 16時34分48秒 | book
一気読み。

読みだしたら止まらない。というか止められないよね。続きが気になる、気になる。
何回「面白い」って読みながらつぶやいたか。妹にうざがられた。


著者のインタビューをどっかの雑誌(ダ・ヴィンチだったかな)で読んで興味を持ちました。わりと年齢が近いことも読む動機になりました。同年代の作家さんの小説を好んで読みます。

タイトルと装丁から受ける印象は、静かな感じなんだけど、それとは違い実際に読んでみると、擬音?というか音を表す言葉の多様さがとても効果的でした。人の絶叫、戦闘機の音、建物が崩れる音。
著者独自の擬音なんだけど、字面で見ても迫力あるし、異様な雰囲気を醸し出してました。


お話は、いきなり何者かが攻めてきたのか何なのか突然、爆発音がしたかと思うと、戦闘機が飛んできて銃弾を撃ち込まれる。ライフラインは止まっちゃうし、空は暗くなって、灰が降り注ぐ。変な怪物も襲ってくる。怪物は人を食べるし・・・。

主人公の女子高生・マユミ同様に読んでる私もこの状況を理解出来なくて、どうなるの?この世界はどうなっちゃたの?という思いを抱えながら読み進めることになります。

いきなり訳が分からない受け入れるにはあまりにも大きすぎて残酷な世界。そのさなかにあって必死に怪物から逃げ、食糧を調達し一日一日をなんとか生きる姿は、すごく大変そうで、だから頑張れとかそういう感じでもないんだけど…難しい。その辺りをうまく言語化できない。


さらにこの小説では単にすごい危機的な状況に置かれるだけじゃなくて、少しずつ自分のいる世界が齟齬をきたしてくる。つじつまが合わないことが起きる。
リュック背負って逃げたはずが学生鞄をいつの間にか持ってたり、友達が急に姿を消してしまったり。どうやらいくつものちょっとずつ違う世界が同時に存在していて、そこを行ったり来たりもできるような状況。自分の意志では行き来は出来ないけど。その少しずつ違う世界たちはガラス片や鏡なんかに映りこんでくる。


すっごい危機的な、そして非現実的な世界にいきなり直面する主人公たちの話を読みながら頑張れとかいう応援するような気持ちにならないのはなぜでしょう。もちろん怪物に追いかけられてる場面では、「逃げて。助かって」とは思うんだけど、なんだか非現実的な中にもリアリティがあるって言ったらいいんでしょうか。どこか現実を感じさせる。描写が具体的だから?ペットボトルをたくさん詰め込んだら重たくて鞄持っていけないけど、リュックにうつしたらなんとか背負えるとか、びっくりしておしっこもらしちゃうとか。
だから頑張れって100%の気持ちで応援できないのかな?


それでも生きていかなくてはならないという現実感みたいなのがあって、ラストの場面では、灰や砕けたガラスが降りそそぐどこかファンタジックな景色の中で力強いというか確固たる意志のようなものを感じました。

結局どうしてこんな怪物がいて、爆撃とか戦闘機が飛びまわるようになってしまったのかの説明もなく再び元の平和な世界に戻ることもなく話は終わりました。

読みながら、どこかでこの事態が元には戻らなくとも打開されることを期待しながら読んでいたけど残りのページ数が少なくなるにつれて事態が収束しなくて焦った。このまま終わるの?って。

このままの状態で終わってしまった・・・。と読み終えた直後は思ったけど、却ってそれこそが意味を持つことなのかな?と感じました。

仮に現実にこんな悲惨な状況が起こったらすぐに元には戻らない。この状況を受け入れて生きるしかない。


とにかく一気読み。集中して読めます!!

次回作、期待!!!!