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本好き人の365日

桜桃忌に太宰を読む

2014-06-19 19:54:57 | 本と日常

6月19日は文豪、太宰治を偲ぶ「桜桃忌」です。

 

太宰が山崎富栄とともに玉川上水にて入水自殺をはかったのが、昭和23年6月13日。

その6日後、奇しくも太宰の誕生日である6月19日に遺体が見つかりました。

お墓は東京三鷹の禅林寺にあります。

 

この昭和23年という年は、太平洋戦争が終って3年、日本はまだGHQの占領下でした。12月には、巣鴨拘置所で東条英機の死刑が執行されています。

 

昭和21年に発表された、太宰治の作品に『冬の花火』という戯曲があります。

「桜桃忌」にちなんで、今夜はこれを読みました。

津軽地方のあるという設定で、冒頭、主人公の数枝がこんな台詞をつぶやきます。

 

 

 (両手の爪を見ながら、ひとりごとのように)負けた、負けたと言うけれども、あたしは、そうじゃないと思うわ。ほろんだのよ。滅亡しちゃったのよ。日本の国のから隅まで占領されて、あたしたちは、ひとり残らず捕虜なのに、それをまあ、恥かしいとも思わずに、田舎の人たちったら、馬鹿だわねえ、いままでどおりの生活がいつまでも続くとでも思っているのかしら、相変らず、よそのひとの悪口ばかり言いながら、寝て起きて食べて、ひとを見たら泥棒と思って、(また低く異様に笑う)まあいったい何のために生きているのでしょう。まったく、不思議だわ。 

 

 

軍人の夫は生死もわからず、幼い娘を抱え、今は別の男の影もチラつく数枝は、生きることのつらさと哀しみに翻弄され、どこかやけっぱち気味。

父親に「真人間になれ」と怒鳴られても、キッと歯を食いしばり、世間や時代の風にさらされながら、虚勢を張って生きている感じの女性です。

太宰治の作品って、あまり戦争を扱わないので新鮮でした。

 

今ドラマが話題で、太宰より16歳年上の村岡花子さんの訳した『赤毛のアン』とか、『パレアナ』のほうが私は好きかな?(笑)

ドラマは花子がマーク・トウェインの『王子と乞食』の翻訳に取りかかるところまできていますね。

これからいよいよ翻訳家としての村岡花子が描かれることになるんでしょう。

楽しみです♪

 

太宰治の『冬の花火』は、現在「青空文庫」で無料で公開されています。

私が気に入ったのは数枝の(つまりは太宰の)こんな台詞です。

 

 

 あたしは今の日本の、政治家にも思想家にも芸術家にも誰にもたよる気が致しません。いまは誰でも自分たちの一日一日の暮しの事で一ぱいなのでしょう? そんならそうと正直に言えばいいのに、まあ、厚かましく国民を指導するのなんのと言って、明るく生きよだの、希望を持てだの、なんの意味も無いからまわりのお説教ばかり並べて、そうしてそれが文化だってさ。呆れるじゃないの。


 どうして日本のひとたちは、こんなに誰もかれも指導者になるのが好きなのでしょう。大戦中もへんな指導者ばかり多くて閉口だったけれど、こんどはまた日本再建とやらの指導者のインフレーションのようですね。おそろしい事だわ。日本はこれからきっと、もっともっと駄目になると思うわ


 

 



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