遙かなる時を越えて、漆黒の宇宙を駆け抜ける銀色の船体。
超新星の輝きや、ガス状星雲のきらめきを眺めながら、今日も頭脳船、ヘルヴァの歌声が銀河に響く…
♪さあ今回は、数あるSF小説の中でも情緒と音楽のあふれる名作。
アン・マキャフリーの『歌う船』をご紹介します☆
機械の補助なくしては、生命を維持することすらできない奇形に生まれついてしまった本編のヒロイン、「ヘルヴァ」。
しかしその頭脳だけは、将来有望な能力を発揮すると判断されます。
そしてこの時代、こうした子供たちには一つの選択肢が残されていました。
それは機械に接続された耐久チタニウムの殻の中に体を納め、《殻人》、シェル・パーソンとなって生きていくこと。
機械の腕や車輪を動かして遊ぶ《殻人》の子供たち。
普通の人間には見ることのできない世界を機械の目で見、様々なコンピューターを自分の手足のように操る彼等には、文明の進んだ未来社会では様々な活躍の場が用意されています。
こうして、殻人として生きることになり、何回かの手術に耐えたヘルヴァが十六歳の誕生日を迎えたその朝。
宇宙船の制御装置と最終的に連結された彼女は、金属の船体に人間の魂を秘めた船。
<中央諸世界>の偵察船、《頭脳船》ブレイン・シップとして目覚めます。
いくつものカメラを目とし、様々な用途のマニュピレーターを手としてあたえられ、頭脳船と呼ばれる体を手に入れたヘルヴァ。
この日から、《殻人》となってからの費用を返済するための、宇宙船ヘルヴァの新しい冒険の旅が始まるのです。
このヘルヴァがとってもいいんです☆
たとえ殻の中で永遠に近い命を得たといっても、そこは十六歳の女の子。
どんなに高等な計算式を操り、複雑な宇宙船の操縦をこなしていても、宇宙港ではおしゃべりの相手を探し、高飛車な管制官には悪態を付き、筋肉(ブローン)と呼ばれる頭脳船のパートナーに思わず恋してしまう姿はとっても、と~ても人間的♪
自分が《殻人》であることをちっとも負い目に感じていないヘルヴァ。
それどころか不自由な感覚と脆弱な肉体にしばられた普通の人々を気の毒に思っているふしさえあります。
地殻変動のために住民を救出したり。
十万人分の受精卵をとどけたり。
はては異星人のためにシェイクスピアを演じる役者たちを運んだり、とヘルヴァの仕事はまさに様々。
そして相棒としてヘルヴァに乗り込む筋肉(ブローン)と呼ばれる人間達の個性も、こちらもそうとう様々。
頭脳船は基本的に「頭脳」と「筋肉」の二人がペアになって行動するのですが、このかけあい、関係がひとつの見所です☆
いくら恋してもヘルヴァは殻の中。
相手が例えチタニウムの殻に手をふれて、愛の言葉をささやいても、ヘルヴァに出来るのは優しく答えるだけ。
ある意味究極のプラトニック・ラブですね☆
意志が強く、しっかりしていそうなヘルヴァ。
そんな彼女も、危険な任務の途中で悲劇を体験し、その悲しみと別れを克服するために、多くの時間と心の葛藤を必要とします。
放浪する頭脳船。
悲しみに自ら死を望むブローン。
ときに寂しがり屋な面をみせ、殻人としての苦悩を経験しながら成長していくヘルヴァ。
設定やストーリー展開は、SFにうるさい人でも納得の秀作。
かといってガチガチのSF作品というわけでもなくて、SFが苦手という人でも、「こんなSFもあるんだぁ」と思ってもらえたら嬉しいです。
宇宙船の恋物語?
う~ん、なんかすごく誤解されそうな気もするけれど、あたってるかも♪
どうです?
あなたも恋する宇宙船ヘルヴァの歌声を聞いてみたくはないですか?
ちょっと口は悪いけど、魅力だけはめ~いっぱい兼ね備えていると保証しますよ☆
アン・マキャフリー 著
酒匂 真理子 訳
創元推理文庫
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