風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

花の声が聞きたかった

2016年05月20日 | 「新詩集2016」


  

きょう
タンポポとハルジオンを食べた
すこしだけ耳が伸びて
花の声を聞いた

あしたは
スミレとバラの花を食べる
耳がまたすこし伸びたら
花よりももっと
遠い声が聞けるかもしれない

*

  白い花

小学校の卒業式の日
梶原先生が歌うのをはじめて聞いた
白い花が咲いてた……と歌った
ふだん怒ると顔が真っ赤になったけど
歌ってる顔も真っ赤だった
先生おげんきですか

先生は黒板いっぱいに
心に太陽を持て…とチョークで書いた
クラスのみんなに贈る
それが最後の言葉だと言った
教科書に載っていた
詩人の言葉だった
小さな心が熱い太陽になった

最後の日は
始まりの日でもあっただろう
あれからたくさんの
最後の日と始まりの日を繰り返して
いまがどんな日なのか
たぶん私はもう
あの頃の先生の年齢を超している

木造校舎の長い廊下
工作ノリの匂いがする教室
いまも白い花がいっぱい咲いている
きみたちいつのまに
花になってしまったんだ
梶原先生の太い声が聞こえてくる

*

  さみしい桜

ことしも
その桜は咲いているだろう
スギ花粉でけぶる山ふかくで
さみしく美しく
いつものように

風も吹いているだろう
雲も流れているだろう

乾杯もなく
送ることばもなく
記念撮影もない
日がな一日
古い古い木の椅子に腰かけている
そうして花が散りおわったら
ふたたび賑わいを求めて
百年の山へ帰る

*

  花占い

花びらを
いちまいずつ風に飛ばす

行く
行かない
帰る
帰らない

立ちどまるところは
いつもおなじ

生きる
生きない
死ぬ
死なない

そこにはいつも
美しい花が咲いている

*

  水引草に風が立ち

雑草がはびこった細い道をゆく
小川のそばに水引草が咲いていた
山の麓のさびしい村
若い詩人の夢がいつも帰っていった
その夢のほとりを歩いた

小さなあかい花
見過ごしてしまいそうな花だった
ぼくの夢に出てくることはないだろう

「水引草に風が立ち

道造のことばが風のようによぎる
帰っていったのはどんな夢だったのだろうか
たよりなく夢の果てをさがした

「夢は そのさきには もうゆかない

ぼくの夢はまだ
どこへも帰ってはゆけない
溶岩の匂いを運ぶせせらぎの
浅間山の麓でみじかく眠りながら
きれぎれの夢のはざまに
水引草の栞を挿んだ

*

  シロツメグサ

シロツメグサで
花かんざしと首飾りをつくり
ぼくたちは結婚した

わたしの秘密を
あなたにだけ教えてあげる
と花嫁は言った
唇よりも軟らかい
小さく閉じられた秘密があった

シロツメグサで髪をかざり
あるときは赤ん坊になったりした
ママになったりパパになったり
ネコになったりイヌになったりした
朝だよといえば朝になり
夜だよといえば夜になった
夏だねといえば夏になり
冬だねといえば冬になった
おいしいおいしいと言いながら
シロツメグサのおにぎりばかり食べた
一日はみじかく
一年もみじかかった

いつしか
花かんざしも朽ち
首飾りも朽ち果てて
結婚ということばも忘れてしまった頃
彼女は大きく美しくなって
新しい花嫁になった
シロツメグサがいっぱい咲いていたけれど
ぼくはもう
花かんざしも首飾りも
作らなかった







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4 コメント

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シロツメグサ (serohiki)
2016-05-25 09:15:07
風のyo-yoさんへ
素敵な詩の数々ですね。
シロツメグサの詩、とても心に響きました。
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ありがとうございます (風のyo-yo)
2016-05-25 22:03:17
serohiki_2016さん

コメントありがとうございました。励みになります。
セロ弾きのゴーシュさんは、宮沢賢治がお好きなんですか。
賢治の童話は、私の愛読書でもあります。

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Unknown (serohiki)
2016-05-25 23:10:05
風のyo-yoさんへ
私のブログタイトルのセロ弾きのゴーシュは
さだまさしさんのアルバムに収められている曲から付けました。
未亡人になった女性の歌が今の私にグッときましたので。
宮沢賢治の”雨にも負けず”の詩は私も大好きです。
返信する
大事なCelloを! (風のyo-yo)
2016-05-26 07:31:13
そうでしたか……
私はいつでも涙うかべて
あなたの残した大事なCelloを
一人で守る……でしたね。

さだまさしの歌もいいです。
物語があり、哀愁がありますね。
私は『案山子』なんか大好きです。

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