雲
ながい腕を
まっすぐに伸ばして
陽ざしをさえぎり
さらにずんずん伸ばして
父は
雲のはしっこをつまんでみせた
お父さん
いちどきりでした
あなたの背中で
パンの匂いがする軟らかい雲に
その時ぼくも
たしかに触れたのです
*
崖
崖の下から海がひろがる
寄せてくる波が岩に砕けている
風に押し出されそうになって
踏んばる足に力がはいる
まだ奈落に逆らう力がある
それが生きる力であるかのように
勘違いする余裕もあった
崖は陸地と海を切断し
ときには生と死をきり分ける
追い詰められたひとたちが
そこから海へ向かって消えたという
崖はいつも女をまっさかさまにする…
そんな詩のことばが浮かんでくる
なん十年たっても
まだ一人も海にとどかないという
まっすぐに海までの
測っても測れない距離がある
ときには引き返そうとして
ひとは空に向かって
まっさかさまに落ちる
崖の上にも深い海はある
*
夢の淵
おなじ夢をよくみる
岩場の深い淵に立っている
とても飛び降りられる高さではない
以前にもそんな夢をみた時期があった
どうにでもなれと
思いきって飛び降りてみた
すると崖は
あっけなく消えた
目覚めるために
あしたの詩を書いている
深い淵のように
見えないものがいっぱいある
崖の上に立って投げるのは
言葉ことば言葉
なかなか海までは届かない
夢と現実のはざまで
立ち止まったままでいるから
夢の淵からも
なかなか飛び降りることができない
*
目覚めよと呼ぶ声がきこえる
黄色い魁の
小さな灯がともる
一日がすこし明るくなる
ひんやりと花の奥にひそむ
はるかな香りに
浮き立つ
夢の中から夢が
花の木の下では
凍えながら眠りつづける
ぼくの蒼白な虫たち
ぽつぽつと灯をともし
咲いては落ちる
無明の音を聞いている
すばらしい詩ですね。夢と現実の、はざまの光景を、よく表現なさっており、深い感動を
覚えました。
私もよく夢を見ます。海や森や浜辺や崖の情景が多いです。ーー詩にかいていらっしゃるとおりです。
でも、夢から醒めたときも、独特の爽快さがありますね。
これからも、すばらしい詩を期待しています。
嬉しいコメント、ありがとうございました。
励みになります。
詩を書くことにおいては、夢と現実の境い目はないような気がします。
しばしば夢からすばらしい啓示をうけることもありますね。
あやかさんのブログにも伺いたいのですがリンクができません。
これからもよろしくお願いします。
ただ、最近、すこし、インターネットを検索するようになり、
すばらしいブログを拝見すると、つい何か感想を書き込みたくなります。
また、機会がありましたら、このブログの珠玉の詩を拝読させていただきたいと思います。
☆あやか☆より
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