風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

坂の上には空がある

2023年06月08日 | 「新エッセイ集2023」



山があり谷があった 山は削られ街になった 新しい処には 古い山のかたちも残ったので 新しい街は坂が多い 僕は坂の途中に住んでいる 坂の上には 駅とスーパーがある 住民の多くは そこが一日の始まりであり 終わるところでもある 坂の下には 古い地名と集落がある 古い神社と田んぼがあり 畦道は古代の風景に続いている 古い村の呼称は 茅淳県陶邑という 難しい漢字を読み解くと ちぬのあがたすえむら 陶邑のすえむらとは 陶器を焼いた村のことらしい かつて須恵器を焼いた 窯跡があちこちに有り 近くには陶器山という山があり 陶器川という川もある 陶器の石段を上って 縄文のドングリをひろい 弥生人の風を深呼吸する 新しい一日は 古い一日から始まることもある 過ぎた日のいつか 父と近くの山で赤土を掘った 金木犀の庭をつぶし 父は土をこねて 小さなかまどを作った 強くて恐ろしい父は 泥まみれの弥生人だった 薪をうまく燃せない僕は 泣きながら穴倉をとび出して 父との共同作業は終わった いまではもう かまどの家も父もない 古い日々は どんどん新しくなる 新しい一日は ゆっくり始めたい いつも急(せ)かされて生きてきた 急(せ)いて急きまへんとは せっかち浪速人の口ぐせだ 急(せ)きまへんと言いながら ほんまは急(せ)かしてるやん なんでそんなに急(せ)かすねん 急げばミスも起きるやん まちごうたら直さなあかん 直せば直すほどに 急いだことが無駄になるやん ぎょうさん無駄足したもんや そんな古い夢はほかしたい 坂をのぼるたんびに また新しい一日は始まる 坂の上には空がある どんだけ急いだかて 空までは行かれへん






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