風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

かぶとむし通信

2010年04月22日 | 詩集「かぶとむし通信」
Natsu2


こんやも窓ガラスを
こつこつと叩くやつがいる
カブトムシだ


息子よ
きょうの収穫はいっぴき


絵葉書はいくども読んだよ
熱帯夜には流氷の夢に包まれたいものだ
あつい川に足首を浸しながら山を越えて
熊の肉と行者ニンニクをかじる
そんな半島の夏は
昆虫も飛べないほど短いのだろう


カブトムシよ
おまえのことは手紙に書いておこう


かたい角と角を闘わせる
そんな遊びと賭けを覚えているか
栄光のしるしは背中にしかなくて
ときには空をつかもうと足掻いたり
短いいのちが重すぎるのか
ぶきように滑空して飛びたったり


息子よ
夏が終ればもう
おまえを息子よなんて呼ぶのも恥ずかしい


私の机の上の
2ひきのカブトムシ
まるい翅にかたく
冷めきらぬ夏の空をとじ込めたまま
季節の距離のさきへと
やがて
通信も途絶えるだろう


(2005)



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