風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

転生

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Donguri


だれか森の奥で
山桃の実を食べている
指のさきから尻尾のさきまで
赤く染まり
鳥のように生きている
魚のように生きている


ひと粒はひと粒のために
いっぴきはいっぴきのために
熱い唇から唇へ
乳房から乳房へ
ときには地上から地上へ


うち震える葉脈の川に
嵐はあるかしら
飢えはあるかしら
やわらかい果実の子宮に
地球の種は宿っているかしら


もういちど
生まれかわる夜は
だれかとだれか
赤い目をした生きものになる
周回する森の星座になる


そして落ちる


(2006)



ディスタンス

2010年04月22日 | 詩集「森の絵本」
Ki2


虫は
しゃくとり虫は
進もうとする頭部と
残されてしまう尾部とを
しっかりと引き連れて進んでいく


木の生長よりも早く
葉脈の先にたどり着いたあとに
なお宙空に伸びようとしたが


虫は
自らを測りつくしたかどうか
そのまま落ちていった


置き去りにされる虫と
落ちてゆく虫
それは距離ではない
測られているのは虫だったが


虫から虫へ
距離のない距離を落下して
虫はまた
虫にもどる


(2006)