子どもの世界(3)―夫婦・親子関係―
子どもを取り囲む人間関係の中でも,お父さんとお母さんがとりわけ重要です。
家族子どもたちは,お父さん,お母さん,お父さんとお母さんとの夫婦関係を冷静に,しかし鋭い目でみています。
まず,お母さんに関する詩をみてみましょう。
しあわせ こめはな まさこ
わたしはすぐにおかあさんにあまえます
おかあさんにだきつくと / すごくあたたかくて
あまいかおりがして / とってもきもちよくなります
とくに / おねえちゃんとけんかしたあとのだっこは
けんかにまけてもしやわせなきぶんです
私たちが描く,理想的な母親像が素直に表現されています。お母さんの胸に抱きつくまさこちゃんと,
まさこちゃんを優しく抱きしめるお母さんとの心温まる光景が目に浮かびます。
しかし,母と子はいつも,こうした心温まる関係ばかりではありません。
おかあさん むらかみ なおこ
おかあさんは / いつもかがみをみて
きれいやけど/ あしのうらをみたら
まっくろやねん /あしのうらも
かがみをみいやというてん
女の子は母親を同性の女としてきびしい目で見ています。時には,母親の言葉に逆襲することもあります。
あほう うえの みさ
おかあさんに /「どうしてそんなにあほうなの」っていわれた
みさはあほうなおかあさんから / うまれたから
しょうがないの
あ,痛たっ!言わなきゃよかった。言われたお母さんの何とも言いようのない顔が浮かんできます。みさちゃんは,
“あほう”どころかなかなかの知恵者です。
しょみんのみかた さがやま りょうた
きょうもさんまだった / 「また さんま~」というと
ママは「さんまはしょみんのみかたよ」といった
しょみんのみかたということは
せんせい / やすいということなんですか
しょみんのみかたはもうあきた
りょうたくんは全てをお見通しです。しかし,お母さんにそれを直接に抗議するのではなく,
「しょみんのみかたはもうあきた」と表現するところに,やさしさを感じます。
おかず かわばた まさこ
おかあさんは / よるのごはんのおかずを
わたしになにたべたいのとよくききます
きくだけで / おかあさんはじぶんのすきなおかずを
つくってしまいます
どこの家庭でも日常的に起こっていることですが,おかあさんの身勝手さに,まさこちゃんは,ちょっぴり不満です。
おやのいうこと なかむら ゆきひろ
しんしつのしょうじをやぶりました
おかあさんは / おとしだまやこずかいで
べんしょうしなさいって / むちゃくちゃいいました
これがおやのいうことか
お母さんとしては,ゆきひろ君が障子を破ったのだから,その責任を取りなさい,という教育的な配慮があったのかもしれません。
または,家計の配慮から子どもに弁償させようとしたのかもしれません。子どもにとって,どちらの理由であっても,
「これがおやのいうことか」と反発しています。
どちらの言い分も,理があります。次に,お父さんに関する詩をみてみましょう。
おとうさんのにおい こうき あけみ
わたしはいつもおとうさんとねていました
おとうさんがようじでいっしょに / ねられないときに
おとうさんのまくらをだいてねます / まくらをだいてねると
おとうさんのにおいがして / おとうさんとねているようなきがしました
おとうさんのまくらのにおいは / おしごとのにおいです
あけみちゃんはお父さんが大好きです。だから,お父さんがいないときにはお父さんの枕を抱いて寝ます。
まるで,お父さんが恋人みたいです。
こめはな まさこちゃんがお母さんの「あまいかおり」で幸せを感じているように,あけみちゃんは,お父さんの,
「おしごとのにおい」で安心します。
においに敏感なことは,女の子の特徴でしょうか。男の子にはあまりみられません。それにしても,お父さんのお仕事は何でしょうね。
お父さんに関しても厳しい目で見つめている詩の方が多いようです。
おとうさん ほそかわ ちよこ
ちよこのおみせに女の人がきた
おかあさんはその人びじんというた
おとうさんはそのときおくで / ごはんをたべとったのに
あわてておみせへとんでいった / せんせいといっしょや
お父さんの下心は,ちよこちゃんに読まれています。ついでに,先生までも批判されています。ちよこちゃんは,
男は美人に弱いんだ,と思っています。お父さんの行動に,情状酌量の余地はありません。
家庭の中では,父と息子がお母さんを巡って,「恋のさやあて」のような争いもあります。
おれのおんな おおほり しゅんすけ
おとうさんがぼくに
しゅんすけは / だれとけっこんするんやときいた
ぼくはおかあさんとするねんというた
あんなおばはんのどこがええんや
おとうさんは / わかいのがええわといった
それでもおかあさんがええというたら
おれのおんなにてをだすなといった
あほらしてはなしにならない
エディプスコンプレックスを絵にかいたような父親と息子の母親を巡る恋の真剣勝負です。
「おれのおんなにてをだすな」と言う父親に対して,しゅんすけ君は「あほらしてはなしにならない」とあきれています。
子どもは容赦のない言葉を父に投げつけます。
しかし,こうした会話がオープンに交わされるところに父,息子,母親の仲の良い家庭の雰囲気が伝わってきます。
おとうさん たけだ けん
おとうさんがいばったら / おねえちゃんはいやがります
おかあさんは,「せめていえだけでもいばらせたげてよ」といいました
かいしゃではいばっていないのかなあ
お母さんは,「せめていえだけでも」とお父さんを援護しているのですが,けん君は,お父さんは会社でいばれないから
家でいばっているんだと,彼なり社会の現実をちょっぴり感じています。
子どもたちは,父親と母親の微妙な夫婦関係を,日々注意深く見ています。
でんわ さがやま りょうた
パパから「はやくかえるわ」とでんわがあった
ママはうれしいかおになり / いえのなかをいそいでかたづけた
パパのかおなんかまいにちに見とうに
電話を受けたおかあさんが,「うれしいかおになり」,家の中をいそいそと片づけたところに,お父さんとお母さんの,
そこはかとない愛情が感じられます。
しかし,りょうた君にはそこが見えていません。それでも,ほほえましい夫婦愛を,りょうた君は見事に表現しています。
お父さんとお母さんがどうして結婚したのか,はこどもにとっても大きな関心事です。
けっこん いながき はなこ
おとうさんとおかあさんは / おみあいけっこんです
おとうさんのおばさんが / これぐらいにしておきなさいといったそうです
きっと,お父さんがはなこちゃんに言ったのでしょう。ここまで子どもに言わなくてもよかったのに。はなこちゃんが,
このことを淡々と表現しているところが救いです。
おかあさんは? なかむら あきひろ
おとうさんがしごとからかえると
かならず「おかあさんは?」とききます。
おかあさんににげられるとおもっているのかな
なんと言っていいか,言葉がありません。
よめさん よしむら せいてつ
おかあさんがぼくに
「けっこんするんやったらぶすとするといいよ」というた
「なんでや」ゆうてきいた
「ぶすは3日したらなれるし べっぴんは3日にしたらあきる」ねんて
ほんならうちのおとうさんは もうなれたんや
ほんでもぼくはべっぴんのほうが / やっぱりええわ
子どもは正直で残酷です。せいてつ君,「うちのおとうさんは,もうなれたんや」だけは口に出さないでね。
けんか たぐち みえ
おとうさんとおかあさんが / けんかをしました
おとうさんは / おかあさんがでていくといったので
あわててとめて / じぶんがでていくといいました
それやのにどこへもいかないで / ふたりはねてしまいました
みえちゃんには,こんな夫婦関係は不思議でならないのでしょう。みえこちゃんが大人になって結婚すると,理解できるかもしれません。
けんか くぼ かつよし
くちげんかは / おとうさんがつよく
ぼうりょくげんかは / おかあさんがかちます
口喧嘩はお母さんが強く,暴力喧嘩はお父さんが強いのが普通だけど,かつよし君の家では逆なんですね。
子どもは事実を隠すこともなく披露してしまいます。
そして,淡々と表現しているところに,一層,現実味を感じます。
次は,お母さんのお父さんに対する愛情が,子どもの目からみるとどう見えるかを教えてくれます。
さむい のむら しゅうへい
ぼくが「さむい」といったらおかあさんは
「おそとへいってはしっといで」といいます
おとうさんが「さむい」といったら
ガスストーブとデンキカーペットでぬくもらします
しゅうへい君は不公平だと感じていますが,ここはお母さんの気持ちをさっして,元気に外にでて走ってください。
ここにも,お母さんのお父さんにたいする愛情が,「ぬくもらします」という言葉で十分に伝わってきます。
子どもは,社会とか夫婦関係などについて,何も分かってはいない,と大人は思いがちですが,実際にはかなり冷静な目でみているます。
子どもの詩を読むと,短い言葉で,よくここまで親子や夫婦関係を表現できるものだと感心します。
子どもを取り囲む人間関係の中でも,お父さんとお母さんがとりわけ重要です。
家族子どもたちは,お父さん,お母さん,お父さんとお母さんとの夫婦関係を冷静に,しかし鋭い目でみています。
まず,お母さんに関する詩をみてみましょう。
しあわせ こめはな まさこ
わたしはすぐにおかあさんにあまえます
おかあさんにだきつくと / すごくあたたかくて
あまいかおりがして / とってもきもちよくなります
とくに / おねえちゃんとけんかしたあとのだっこは
けんかにまけてもしやわせなきぶんです
私たちが描く,理想的な母親像が素直に表現されています。お母さんの胸に抱きつくまさこちゃんと,
まさこちゃんを優しく抱きしめるお母さんとの心温まる光景が目に浮かびます。
しかし,母と子はいつも,こうした心温まる関係ばかりではありません。
おかあさん むらかみ なおこ
おかあさんは / いつもかがみをみて
きれいやけど/ あしのうらをみたら
まっくろやねん /あしのうらも
かがみをみいやというてん
女の子は母親を同性の女としてきびしい目で見ています。時には,母親の言葉に逆襲することもあります。
あほう うえの みさ
おかあさんに /「どうしてそんなにあほうなの」っていわれた
みさはあほうなおかあさんから / うまれたから
しょうがないの
あ,痛たっ!言わなきゃよかった。言われたお母さんの何とも言いようのない顔が浮かんできます。みさちゃんは,
“あほう”どころかなかなかの知恵者です。
しょみんのみかた さがやま りょうた
きょうもさんまだった / 「また さんま~」というと
ママは「さんまはしょみんのみかたよ」といった
しょみんのみかたということは
せんせい / やすいということなんですか
しょみんのみかたはもうあきた
りょうたくんは全てをお見通しです。しかし,お母さんにそれを直接に抗議するのではなく,
「しょみんのみかたはもうあきた」と表現するところに,やさしさを感じます。
おかず かわばた まさこ
おかあさんは / よるのごはんのおかずを
わたしになにたべたいのとよくききます
きくだけで / おかあさんはじぶんのすきなおかずを
つくってしまいます
どこの家庭でも日常的に起こっていることですが,おかあさんの身勝手さに,まさこちゃんは,ちょっぴり不満です。
おやのいうこと なかむら ゆきひろ
しんしつのしょうじをやぶりました
おかあさんは / おとしだまやこずかいで
べんしょうしなさいって / むちゃくちゃいいました
これがおやのいうことか
お母さんとしては,ゆきひろ君が障子を破ったのだから,その責任を取りなさい,という教育的な配慮があったのかもしれません。
または,家計の配慮から子どもに弁償させようとしたのかもしれません。子どもにとって,どちらの理由であっても,
「これがおやのいうことか」と反発しています。
どちらの言い分も,理があります。次に,お父さんに関する詩をみてみましょう。
おとうさんのにおい こうき あけみ
わたしはいつもおとうさんとねていました
おとうさんがようじでいっしょに / ねられないときに
おとうさんのまくらをだいてねます / まくらをだいてねると
おとうさんのにおいがして / おとうさんとねているようなきがしました
おとうさんのまくらのにおいは / おしごとのにおいです
あけみちゃんはお父さんが大好きです。だから,お父さんがいないときにはお父さんの枕を抱いて寝ます。
まるで,お父さんが恋人みたいです。
こめはな まさこちゃんがお母さんの「あまいかおり」で幸せを感じているように,あけみちゃんは,お父さんの,
「おしごとのにおい」で安心します。
においに敏感なことは,女の子の特徴でしょうか。男の子にはあまりみられません。それにしても,お父さんのお仕事は何でしょうね。
お父さんに関しても厳しい目で見つめている詩の方が多いようです。
おとうさん ほそかわ ちよこ
ちよこのおみせに女の人がきた
おかあさんはその人びじんというた
おとうさんはそのときおくで / ごはんをたべとったのに
あわてておみせへとんでいった / せんせいといっしょや
お父さんの下心は,ちよこちゃんに読まれています。ついでに,先生までも批判されています。ちよこちゃんは,
男は美人に弱いんだ,と思っています。お父さんの行動に,情状酌量の余地はありません。
家庭の中では,父と息子がお母さんを巡って,「恋のさやあて」のような争いもあります。
おれのおんな おおほり しゅんすけ
おとうさんがぼくに
しゅんすけは / だれとけっこんするんやときいた
ぼくはおかあさんとするねんというた
あんなおばはんのどこがええんや
おとうさんは / わかいのがええわといった
それでもおかあさんがええというたら
おれのおんなにてをだすなといった
あほらしてはなしにならない
エディプスコンプレックスを絵にかいたような父親と息子の母親を巡る恋の真剣勝負です。
「おれのおんなにてをだすな」と言う父親に対して,しゅんすけ君は「あほらしてはなしにならない」とあきれています。
子どもは容赦のない言葉を父に投げつけます。
しかし,こうした会話がオープンに交わされるところに父,息子,母親の仲の良い家庭の雰囲気が伝わってきます。
おとうさん たけだ けん
おとうさんがいばったら / おねえちゃんはいやがります
おかあさんは,「せめていえだけでもいばらせたげてよ」といいました
かいしゃではいばっていないのかなあ
お母さんは,「せめていえだけでも」とお父さんを援護しているのですが,けん君は,お父さんは会社でいばれないから
家でいばっているんだと,彼なり社会の現実をちょっぴり感じています。
子どもたちは,父親と母親の微妙な夫婦関係を,日々注意深く見ています。
でんわ さがやま りょうた
パパから「はやくかえるわ」とでんわがあった
ママはうれしいかおになり / いえのなかをいそいでかたづけた
パパのかおなんかまいにちに見とうに
電話を受けたおかあさんが,「うれしいかおになり」,家の中をいそいそと片づけたところに,お父さんとお母さんの,
そこはかとない愛情が感じられます。
しかし,りょうた君にはそこが見えていません。それでも,ほほえましい夫婦愛を,りょうた君は見事に表現しています。
お父さんとお母さんがどうして結婚したのか,はこどもにとっても大きな関心事です。
けっこん いながき はなこ
おとうさんとおかあさんは / おみあいけっこんです
おとうさんのおばさんが / これぐらいにしておきなさいといったそうです
きっと,お父さんがはなこちゃんに言ったのでしょう。ここまで子どもに言わなくてもよかったのに。はなこちゃんが,
このことを淡々と表現しているところが救いです。
おかあさんは? なかむら あきひろ
おとうさんがしごとからかえると
かならず「おかあさんは?」とききます。
おかあさんににげられるとおもっているのかな
なんと言っていいか,言葉がありません。
よめさん よしむら せいてつ
おかあさんがぼくに
「けっこんするんやったらぶすとするといいよ」というた
「なんでや」ゆうてきいた
「ぶすは3日したらなれるし べっぴんは3日にしたらあきる」ねんて
ほんならうちのおとうさんは もうなれたんや
ほんでもぼくはべっぴんのほうが / やっぱりええわ
子どもは正直で残酷です。せいてつ君,「うちのおとうさんは,もうなれたんや」だけは口に出さないでね。
けんか たぐち みえ
おとうさんとおかあさんが / けんかをしました
おとうさんは / おかあさんがでていくといったので
あわててとめて / じぶんがでていくといいました
それやのにどこへもいかないで / ふたりはねてしまいました
みえちゃんには,こんな夫婦関係は不思議でならないのでしょう。みえこちゃんが大人になって結婚すると,理解できるかもしれません。
けんか くぼ かつよし
くちげんかは / おとうさんがつよく
ぼうりょくげんかは / おかあさんがかちます
口喧嘩はお母さんが強く,暴力喧嘩はお父さんが強いのが普通だけど,かつよし君の家では逆なんですね。
子どもは事実を隠すこともなく披露してしまいます。
そして,淡々と表現しているところに,一層,現実味を感じます。
次は,お母さんのお父さんに対する愛情が,子どもの目からみるとどう見えるかを教えてくれます。
さむい のむら しゅうへい
ぼくが「さむい」といったらおかあさんは
「おそとへいってはしっといで」といいます
おとうさんが「さむい」といったら
ガスストーブとデンキカーペットでぬくもらします
しゅうへい君は不公平だと感じていますが,ここはお母さんの気持ちをさっして,元気に外にでて走ってください。
ここにも,お母さんのお父さんにたいする愛情が,「ぬくもらします」という言葉で十分に伝わってきます。
子どもは,社会とか夫婦関係などについて,何も分かってはいない,と大人は思いがちですが,実際にはかなり冷静な目でみているます。
子どもの詩を読むと,短い言葉で,よくここまで親子や夫婦関係を表現できるものだと感心します。