大木昌の雑記帳

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大坂なおみの問題提起―その真意と波紋―

2021-06-06 07:17:35 | スポーツ
大坂なおみの問題提起―その真意と波紋―

すでに多くのメディアが報じているように、大坂なおみは、現在パリで行われているテニス
の四大大会(全米、全豪、全英、全仏オープン。別名グランドスラム)の一つ、全仏オープ
ンの女子シングルスの一回戦(5月30日)で勝利した試合後の記者会見を拒否しました。

実は、この試合に先だつ5月26日、大坂はツイッターで試合後の記者会見を行わないこと
を宣言していたのです。

こ際大坂はツイッターで、試合で負けた選手に対して質問に答えるよう求めるのは、「倒れ
ている人を蹴りつける」行為に相当すると訴えました。

そして、「アスリートのメンタルヘルス(心の健康)への配慮がまったくないと感じること
が多い。記者会見を見たり、臨んだりすると、いつもそう思う」「アスリートの心の健康状
態が無視されていると感じていた。自分を疑うような人の前には出たくない」などとも書い
ています。

「会見場に座ると、これまで何度も質問されてきたことを聞かれたり、不信感を覚える質問
を受けたりする。私に対して不信感を抱えている人たちの前には、もう出ない」と表明した。

このニュースを聞いた時、私は本当にびっくりしました。といういのも、大坂は、これまで
の規則で、試合後の記者会見を拒否すれば、罰金や失格、さらには四大大会への出場停止ま
でありうることを十分に知ったうえで、会見拒否を宣言したからです。

四大大会というのは、テニス界においては最高峰の舞台で、そこに出るだけでも大変なのに、
敢えて会見の拒否宣言を行うことは、最悪、テニス人生を棒に振るかもしれません。

この段階では、大坂はウツ(病)のことは発表していませんでした。

ただ、大坂は以前、黒人が白人警官に殺されたことをきっかけに、「黒人の命も大切だ」
(Black Lives Matter)への共感を示すために、昨年の全米オープンの試合で、6日間、毎回、
理不尽に殺された黒人の名前を書いたマスクを着けて試合に臨んだことが、世界に大きな影
響を与えたことを記憶しているので、今回も、何か、重大なメッセージがあるにちがいない、
とは感じていました。

そして、5月30日の1回戦後、大会前の宣言通り、試合後の記者会見を拒否した。この行動
に対して、4大大会の主催者は合同で罰金と規則を警告し、大会主催者は1万5000ドル(約
165万円)の罰金を科しました。

4大大会の主催者が合同で警告した「大会からの失格」「4大大会の出場停止」は、感情的で
思いつきの圧力ではない。少なくとも4大大会ルールブック(規則集)にのっとっています。

ただ、公平を期すために補足しておくと、26日の記者会見ボイコット発言後、大会主催者
は大坂に再考を求め、健康状態について確認しようとしたが、うまくゆかなかった、と説明
しています。

4大大会規則の核となる要素として、選手は試合結果に関わらずメディア取材に応じる責任
があるということがある。この責任はテニス、ファン、選手自身のためのものだ。

大坂なおみには、今大会中にメディア取材の義務を無視し続ければ、行動規範へのさらなる
違反に問われる可能性があると通告した、とも付け加えています(注1)。

30日の1回戦後、大会前の宣言通り、試合後の記者会見を拒否した。この行動に対して、4大
大会の主催者は合同で罰金と規則を警告し、大会主催者は1万5000ドル(約165万円)の罰金
を科していました。

4大大会の主催者が合同で警告した「大会からの失格」「4大大会の出場停止」は、感情的で
思いつきの圧力ではない。少なくとも4大大会ルールブック(規則集)にのっとっています。

一応、そのルールを確認しておきましょう。

2021年規則集の第3条「選手の会場での違反」のH項に「記者会見」があり、その条文には、
「けがや体の不調でない限り、勝敗に関係なく会見に参加しなくてはならない」とある。そ
して違反した場合、「違反した選手は最大2万ドルの罰金を科される」

大会からの失格は、同条のT項に「失格」とある。そこには「大会レフェリーは、4大大会
監督者とともに、1度の違反や、その違反の段階に合わせて失格を通告できる」とある。つ
まり、悪質とみられた違反は、レフェリーと監督者が失格を宣告する権限を持っている。

4大大会の出場停止は、第4条「選手の重大な違反」のA項「悪質な行為」の3による。「12
カ月間に2回以上の違反があり、4大大会に悪影響を与える行為」が悪質な行為となり、この
違反は「最大25万ドル(約2750万円)か獲得賞金の多い方の罰金に加え、最高で4大大会す
べてのプレーを永久に停止する対象となる」と公式に書かれている(注2)。

以上見たように、規則上、大会主催者の対応には規則上、なんら問題はありません。

大坂は第一戦で勝利した後で、第二戦を棄権することも発表しました。これは、大坂が採り
うる最善の行動でした。というのも、第二戦に出て、再び会見を拒否すれば、こんどこそ以
下に示すように規則上、「選手の重大な違反」と「2回以上の違反」となり、「悪質な行為」
と判断されてしまう可能性があるからです。

さまざまな分野のアスリートたちは、たとえば男子テニスの頂点に立つジョコビッチのよう
に当初、大坂なおみの気持ちは理解できる、しかし、プロならば「会見も仕事の一部」とい
うコメントが多かったように思います。

実は、私も最初はそのように思っていました。

また、別のテニス選手は、自分たちが高収入を得ていること、自分たちの活躍を世界に知ら
せてくれるのはメディアのおかげであることを考えれば、試合後の記者会見はやはり義務だ、
というコメントも少なくありませんでした。

しかし31日、「うつ」を告白するツイッターを境に、大坂への批判的なコメントは止み、
共感と、支持のコメントが一斉によせられました。

その告白の中で重要な部分とは
    さらに重要なことは、私はメンタルヘルスを矮小化したり、軽々しくその言葉をつ
    かったりしないということです。実は2018年の全米オープン以降、私は長い間うつ
    を患い、対処するのに本当に苦労してきました。・・・・・
    本当に緊張して、いつも最善の答えができるようにすることは大きなストレスです。
    このためパリでは、すでに不安で傷つきやすい状態になっていたので、自分を守る
    ためにも記者会見を回避した方がよいと思いました。

最後に、しばらくコートから離れること、一時的に試合には出ないことを述べていまます

このツイートを見て四大大会側は翌日、「可能な限りのサポートと援助を提供したい。彼女
は卓越したアスリートで、自身が適切に判断した時の復帰を楽しみにしている」と、大坂の
言動を支持する共同声明を発表しました。

一旦は、「会見も仕事」を強調したジョコビッチも、「彼女に共感する。とても勇気ある行
動だった」とし、うつの告白には「時間をかけて考え、充電する必要があるなら尊重する」
と、大坂を気遣っている。

さらにジョコビッチは、以前と違って、選手とファンとのコミュニケーションは、大坂が実
際にやっているように、SNSそのたの媒体を通じてもできるので、今後はそうした時代の
変化も考えてゆくべきだ、とも語っています(『東京新聞』2021年6月2日)。

ところで、大坂なおみの問題提起は、四大大会の規則集にある「けがや体の不調でない限り、
勝敗に関係なく会見に参加しなくてはならない」、という点です。

ここでは、試合後30分以内の会見についての規定なので、実際には「けがや体の不調」と
いう場合、「身体的な問題がない限り」という意味が想定されています。

しかし、大坂なおみは、身体のことだけでなく、心の健康(メンタルヘルス)も同様に重要
で四大大会の主催者は心の問題を過小評価(矮小化)していることに異議申し立てをしてい
るのです。

おそらく、この規則集は古い体質をそのまま引き継いでいて、アスリートの身体には気を使
うが、心の問題には関心がないようです。

この問題提起によって、大会主催者の考えがどれほど変わるのかは分かりませんが、共同声
明の文面からは、ほのかに大坂なおみの問題提起を受け入れる姿勢が読み取れます。

一人のファンとして私個人としては、あせらず時間をかけて心のリハビリをし、再びコート
に出て、力強いプレーを見せてほしい、と思うばかりです。

(注1)BBC NEWS 2021.5.31  https://www.bbc.com/japanese/57303469
(注2)『日刊スポーツ』5/31(月) 22:39配信 (Yahoo News 経由)
https://news.yahoo.co.jp/articles/51e638bb8b333524704ee41047e4100c7e111406
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障害や批判もはものともせず 猛ダッシュだ!                                      目は血走り 鬼気迫る ”何がなんでも開催するぞ”
  

『東京新聞』(2021年5月12日)                                          『東京新聞』(2021年5月30日)
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