大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

平昌オリンピック―開会式にみる物語とメッセージ性―

2018-03-04 08:20:46 | 思想・文化
平昌オリンピック―開会式にみる物語とメッセージ性―


2018年の冬季オリンピックの前半は幕を閉じ、これからパラリンピックが始まります。

私はスポーツは大好きですが、なぜかこれまで冬季オリンピックにはあまり関心を持っていませんでした。

しかし、さすがにスピードスケートとフィギュアは好きで、オリンピックでなくても注目していました。

競技については、さんざんメディアで取り上げてきましたので、ここでは私が注目した開会式について書い
てみたいと思います。

というのも、開会式でどのようなメッセージをどのように伝えるかという問題は、開催国のセンスがはっき
り表れるからです。

思い出すのは、1998の長野で行われた冬季オリンピックの開会式です。

この時の総合演出は劇団四季の創設者、浅利慶太氏でしたが、当時も不評でしたし現在でも評判が良くあり
ません。

今回、改めて Youtubeで長野オリンピックの開会式の映像を見てみました。

まず、諏訪神社にまつわる御柱の儀式的が行われ、続いて相撲の力士が入場します。最後に藁で作った帽子
と蓑を見に着けた子どもたちが現れます。

私ががっかりしたのは必ずしも、豪華さを欠いた地味な演出だからだったからではありません。

そうではなくて、それぞれのパフォーマンスの間に何の関連性も物語性もなく、日本とはどのような歴史と
伝統と文化をもっているのか、そして、このオリンピックをさせる理念は何なのか、が少しも表現されてい
なかったからです。

私が開会式に注目するようになったきっかけは2000年のシドニー・オリンピックの時でした。

シドニー・オリンピックの開会式は、まず、この国の先住民であるアボリジニの登場から始まり、そこに最
初はイギリス人が、続いてあらゆる国の人びとが移民としてやってきてきた歴史が描かれました。

もちろん、白人がアボリジニを征服し、オーストラリアの大地を支配してきたことは事実であり、全体とし
てその過程を少しきれい事ごとに描きすぎている印象はありました。

しかし、それでも、アボリジニも含めて多人種、多文化主義、の融和と協調という、オリンピック精神その
ものが明確なメッセージとして伝えられたことでした。

では、今回の平昌オリンピックの開会式はどうだったのでしょうか?

実を言うと、私はこれまでも韓流ドラマ、とりわけ『朱蒙』やその続編である『風の国』その他の歴史ドラ
マを何回も観ています。

私がこれらの韓国の歴史ドラマに惹かれるのは、何よりも物語としての面白さとテンポの良さです。

たとえば1話を見ると、直ぐに2話を、3話を、と見たくなり止まらないのです。

さて、平昌オリンピックの開会式ですが、これは長野オリンピックと比べることには無理があります。

なにより、20年近い年月が経ち、コンピュータ技術と映像技術の進歩は以前とは格段の差があります。

それを考慮しても、今回の開会式は韓国の演出家、脚本家、映像技術者、その他あらゆる関係者の総合的な
力量が見事に結集し、全体として見応えのある物語性があり、メッセージもしっかり伝わってきました。

この物語は5人の子供たちが、山の神の使いである白虎に導かれて過去へ旅をするシーンから始まります。

虎が導いたのは白頭山でした。ここは、現在は北朝鮮の国境内に入っていますが、朝鮮半島に住む人びとに
とって、ここから民族が始まる起源の山、聖地です。

ここから、神話の世界が多数の女性の舞や踊りで表現され、その中から朝鮮の最初の国を創ったタングンが
紹介されます。

これから先は韓国(朝鮮)の伝統、農民の日々の暮らしの中から生まれ受け継がれてきた農楽が、上が白で
下が赤のチマチョゴリを着た300人を超す女性たちによって演じられます。

農楽は、チャングという太鼓を打ち鳴らしながら踊る民衆芸能で、お祭りや祝いの席で演じられるそうです。

太鼓が奏でる音とチマチョゴリの女性たちの演舞は音楽的にも視覚的にも実に楽しいパフォーマンスでした。

開会式で見せた芸術性は、多くの人に感動を与えたのではないでしょうか

次に、メッセージ性について考えてみます。

選手の入場の際に何度も解説されていましたが、韓国・北朝鮮の選手団の先頭を行進した人は、朝鮮半島全
体を描いた南北統一旗をもって入場したことです。

もちろん、今回は韓国が開催国でしたから、韓国の国旗を掲げても問題はなさそうですが、少数とはいえ北
朝鮮の選手が参加している以上、それはできなかったと思います。

これは、韓国側の配慮であり、南北対話を進めたい文在寅大統領のメッセージでもあります。

考えて見れば、今回のオリンピックで文大統領は北朝鮮に向かってホッケーの合同チームを作ることや、他
の競技に参加することを積極的に呼び掛け、実際にそのようになりました。

このこと自体が、世界のとりわけ、軍事行動も視野に入れているアメリカに対する重要なメッセージでした。

文大統領のメッセージは明らかで、「対話と融和」「統一と平和」です。

日本のメディアの一部には、オリンピックの政治利用だ、と文大統領を批判する声もありましたし、安倍首
相は、この「微笑み外交」に惑わされず、最高度の圧力をかけ続けよう、と繰り返して発言してきています。

日米政府は南北融和には否定的ですが、韓国には韓国の利害があり、万が一にもアメリカが軍事行動に出た
場合、最初に大きな被害を受けるのは、間違いなく韓国です。

私が、もう一つ、強いメッセ―ジ性を感じたのは、開会式の終わりの方で、4人の歌手が歌った、ジョン・
レノンの「イマジン」でした。

迫りくるアメリカの軍事行動という緊迫した状況の中で、「イマジン」の一節は次のように訴えます(以下
は、私の意訳であり、必ずしも直訳ではありません。)

想像してごらん 国境のない世界を          Imagine there's countries
それは難しいことなんかじゃないんだよ        It is not hard to do  
殺す理由もなければ殺される理由もない        Nothing to kill and die for
宗教も存在しない                  And no religion
想像してごらん すべての人が            Imagine all the people
平和の中で生きている世界を             living in peace 



誰が「イマジン」を選局して、この開会式で歌うことを決めたのかは分かりません。しかし、テレビ画面の
向こうで歌っている4人の歌声からは、心の底から平和を望む気持ちが強烈に伝わってきます。

「9・11」の後、アメリカ国民の大部分がイラク・アフガニスタンへの軍事攻撃をすべきだという熱気に
包まれました。当時アメリカでは、ジョン・レノンの「イマジン」を放送で流すべきではない、と言う世論
がわき上がったことを、この4人は十分知っていたと思います。

古代ギリシアでは、たとえ戦争中でもオリンピックが開催されている間は戦争を中断したという。だからこ
そ、この4人は「イマジン」を歌ったのではないでしょうか。

そして、彼らの歌を聞いていた韓国・北朝鮮の人びとはどのように聞いたのでしょうか。

文大統領のメッセージに賛成は反対かは別にして、何のメッセージ性もないことは、オリンピックの主催国
として、これほど情けないことはありません。

さて、2年後の東京オリンピックで日本はどれだけの芸術性とメッセージ性を演出できるのか、楽しみです。
少なくとも、長野オリンピックのような、両方とも欠けた開会式にはして欲しくないと思います。

------------------------------------------------------------------------------------------------------

春の香りと言えば、何といても梅です。                           もう一つ私にとって春の香りといえば、土手に自生する「野びる」です。
  
                                              
                                             ざるの中の、白い球がたくさんある方が、摘んだばかりの「野びる」(野性のニンニク)で、
                                             もう一つの束はラッキョウの子どもです。両方とも味噌をつけて食べると、濃厚な春の香り
                                             がとは味が口いっぱいに広がります。私にとって春には欠かせない自然の贈り物です。






この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« >年齢・年を取ることを恐れる... | トップ | 本の紹介 吉野源三『君たち... »
最新の画像もっと見る

思想・文化」カテゴリの最新記事