大木昌の雑記帳

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少子化の本当の問題(1)ー縮小する人口と「老化」する社会ー

2023-03-18 10:14:55 | 社会
少子化の本当の問題(1)―縮小する人口と「老化」する社会―

厚生労働省は2023年2月28日、人口統計の速報値を公表しました。それによれば、
2022年の出生数が過去最少の79万9728人で、統計を取り始めた1899年以降初
めて80万人を割ったことが明らかになりました。

しかも80万人割れは2030年と想定されていたから、想定より8年ほど早かったこ
とになります。

一方で死者数は過去最多の158万2033人。死者数から出生数を引いた「自然減」は16年
連続で、減少幅は過去最大の78万2305人でした。ここには、少子高齢化による日本全
体の人口減がはっきりと表れています。

出生数減少の経緯をもう少し詳しく見ると、22年は前年より4万3169人(5・1%)減
で、これは新型コロナウイルスの感染拡大により出産を先送りする「産み控え」などが
影響したとみられる可能性はあります。

しかし、出生数は新型コロナ禍以前から7年連続の減少しており、必ずしもコロナ禍のた
めだとは言えません。

しかも出生数は70年第後半から一貫して減少しており、出生数の減少を長期の趨勢と
して考えるべきでしょう(表1参照)。

表1 日本の出生数の推移(1947年~2022年)

出所『毎日新聞』電子版(2023/2/28 14:29 最終更新 3/1 07:47)(注1)参照

岸田文雄首相は厚労省の公表の日、首相官邸で記者団の質問に答え、「出生数が80万
人を切り、危機的な状況だと認識している。少子化トレンドを反転させるために、今
の時代に求められる政策を具体化することが重要だ」と述べました(注1)。しかし
後に述べるように、事態は首相が考えるほど単純ではありません。

他の先進国におけるコロナ禍の影響を含めた少子化や人口動態を見ると、日本はやや
別の状況にあります。

すなわち、新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中でも、先進国
の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇し、反転しました。

経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国のうち、直近のデータが取得可能な
23カ国の21年の合計特殊出生率(この場合、ある期間(1年間)における各年齢
(15~49歳の女性の出生率を合計したもの)を調べると、19カ国が20年を上
回っていたのです。

ただし、反転の背後には国家間の差も鮮明に現れました。男女が平等に子育てをする
環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れ
を変えられていないのです。

21年の出生率に反映されるのは20年春から21年初にかけて妊娠した結果です。
まだワクチンが本格普及する前で健康不安も大きく、雇用や収入が不安定だった時期
でも北欧などでは産むと決めた人が増えたことを意味しています(表2))。

表2 各国の出生率の変化:欧米上昇 日本減少

出典:『日経新聞』電子版(2022年7月31日 2:00)(注2)参照 

なお、日本では出生数に先行する婚姻数も長期低下傾向にあります。1970年の婚
姻数は102万組でしたが、その後若干の増減を繰り返しながらも、2020年には
52万5000組みとほぼ半減しています(注3)。

これでは、人口減少は止まることはありません。では、こうした日本の少子化の現状
は、将来的にどのような展開をするのでしょうか?

国立社会保障・人口問題研究所は日本の総人口1億人割れを2053年と推計していま
すが、それはかなりの早まることを予想しています。

こうした事態を受けて岸田政権は子育て支援策の強化を打ち出しましたが、これまで
の出生数減によって子供を産める年齢の女性数が激減していくという「不都合な未来」
は変えようがありません。

つまり、すでに子供を生める年齢の女性が激減してしまっているという実態に対して、
そうした女性を後から増やすことは不可能なのです。

厚生労働省によれば、21年に誕生した子供の母親の年齢の85.8%が25~39歳です。
総務省の人口推計(同年10月1日現在)でこの年齢の女性数を確認すると943万6千人で
した。

これに対し25年後にこの年齢となる現在「0~14歳」は710万5千人で24.7%も少
ないことが分かっています。短期間にここまで「少母化」が進んだのでは、出生率が多
少上昇しても出生数そのものは減り続けます。

こうして、いったん子供を産む女性の数が減少すると、次の世代の女性はさらに減少す
る、という悪循環となります。

上の試算を適用すると、25年後に710万人5000人にまで減少した出産可能な女
性の数は、それ以後も年々減少することが想定されるのです。

こうした人口の減少は、さまざま影響を日本社会にもたらす。これについてジャーナリ
ストとの河合雅司は、もはやここまで来たら日本は「戦略的に縮小」する道を考えるべ
きだ、と提言しています。筆者もこの提言に大賛成です。

どういうことなのでしょうか。まず、人口減少が社会経済に及ぼす影響をみると、国内
マーケットの縮小と勤労世代(20~64歳)の減少が同時に進みます。

しかも、マーケットの縮小は実人口の減少にとどまりません。全体の人口は減少します
が、高齢化率は伸び続けるため、30年代半ばまでに消費者の3人に1人は高齢者となる
からです。

高齢になると多くの人は現役時代のようには収入が得られず節約に走りがちとなり、若
い頃のように消費しなくなる。今後の国内マーケットは一人あたりの消費量が減りなが
ら消費者数も少なくなるという“ダブルの縮小”に見舞われてしまいます。

他方で、自動車や住宅といった「大きな買い物」をし始める30代前半の人口は今後30
年で3割ほど減少し、その結果、倒産や廃業する企業が続出することが考えられます。

すでに“ダブルの縮小”に備える動きは一部で始まっています。たとえばファミリーレス
トランやコンビニエンスストアの24時間営業の見直しや、鉄道会社の終電時間の繰り上
げや運行本数の削減などです。

これらはコロナ禍による一時的な需要減少への対応ではなく、かねて進められてきたこ
とです。

しかし、これらの取り組みはほんの一部であり、大半の企業はいまだに売上高の拡大に
まい進しているのが実情です。しかし、拡大路線を続ければその分だけ行き詰まりは早
くなる、という皮肉な結果が待ち受けています。

若い世代の減少は日本からイノベーションを起こす力も奪います。「新しいこと」とい
うのは往々にして若者の挑戦から誕生します。

しかし、人手が足りなくなると会社組織は失敗に不寛容になりがちです。新しいことへ
の挑戦より目先の利益の確保が優先されるようになればマンネリズムに支配されます。
資源小国にとって技術力の衰退や新しい発想の欠如は致命的です。人口減少の最大の弊
害は日本社会全体が「老化」し、チャレンジ精神を失うことなのです(注4)。

岸田首相の勘違い
岸田首相は、「異次元の少子化対策」として、さまざまな育児支援策を打ち上げていま
す。もちろん、これも少子化対策ですが、あくまでもこれらは育児支援であって、すで
に子供をもった家庭を想定しています。

金銭的な育児支援もいくらかは少子化に貢献はします。しかし、その前になぜ、若者世
代(特に女性)の結婚数が減少し、進んで子供を産もうとしないのか、という根本的な
問題に目を向けていません。

そこには、結婚・出産・育児を積極的に行おうとする環境が整っていなっからです。

この「環境」には金銭的な問題のほかに、男女平等の価値観が定着すること、女性は家
庭で家事と育児に専念すべしという男性の古い価値観が変わること、出産と育児で一時
仕事から離れても後で職場復帰できること、子育ては家庭の自己責任ではなく社会全体
の責任であるという意識が名実ともに定着することなどが含まれます。

要するに、これは人口減少を止めるという問題を越えて、社会の根本的な変革の問題だ
ということを意味しています。これらの問題については、稿を改めて検討したいと思い
ます。

次回以降に、結婚・出産・育児は女性にとって多くの負担とリスクを負うことになる、
という実態を検討したいと思います。

(注1)『毎日新聞』(電子版 2023/2/28 14:29 最終更新 3/1 07:47)https://mainichi.jp/articles/20230228/k00/00m/040/057000c
(注2)『日経新聞』(電子版2022年7月31日 2:00) 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCA1965P0Z10C22A7000000/?n_cid
=NMAIL007_20220731_A&unlock=1
(注3)『東洋経済Online』(2022/02/01 11:00)
https://toyokeizai.net/articles/-/505870?
(注4)『週刊朝日』(2023年3月10日号)
『AERA dot.』https://dot.asahi.com/wa/2023030100062.html?page=1



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