大木昌の雑記帳

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トランプ大統領の断末魔―カルト集団化したトランプ支持者―

2021-01-11 11:44:45 | 国際問題
トランプ大統領の断末魔―カルト集団化したトランプ支持者―

2020年1月6日(日本時間7日)、トランプ支持者が大挙して連邦議会議事堂に乱入して暴れました。

この日は、米大統領選挙で各州に割り当てられた選挙人の投票結果が上下院の合同会議で確認され、次期
大統領を確定することになっていました。暴徒と化した群衆は、この確認、確定作業を妨害しようとした
のです。

この作業は通常、形式的な儀式で、今回は大差でバイデン候補の勝利が決まっていました。

この合同会議に先立って、ジョージア州の上院2議席を争っていた選挙で、トランプ支持の候補者二人が
民主党候補に敗れ、共和党はまさかの2議席を失うことが決まっていました。それは同時に、バイデン率
いる民主党が、上院・下院ともに多数を制したことを意味しました。

ジョージア州はこれまで共和党の地盤でしたから、この選挙はトランプ氏にとって、自分への支持が今で
も健在であることをアピールする最後の機会でした。

さらに、民主的な手続きによる選挙と、トランプ氏が起こしていた選挙の無効を訴えた60ほどの裁判で、
ほとんど敗北しました。共和党派が多数を占める最高裁においてもトランプ氏は敗れ、選挙結果を覆す合
法的な手段は全て封じられてしまいました。

トランプ氏が、最後に自分の力を誇示する方法が、議事堂での直接行動を支持者に促す(事実上、煽動す
る)ことでした。

この“議事堂乱入”という暴動が起こる前、トランプ氏は、首都ワシントンに集まって抵抗の意志を示すよ
う呼びかけていました。

トランプ氏はこの時まで、選挙ではトランプが圧倒的に勝っているのに、選挙に不正があり、「選挙は盗
まれた」、と語り敗北を認めませんでした。そして、6日にはホワイトハウス南側の広場で、「もっと強
硬に戦わなければならない」「弱腰ではこの国を取り戻すことはできない」、さらに合同会議の長を務め
るペンス副大統領の名を挙げて「彼は正しいことをしてくれる」と語り、彼に結果を覆すよう公然と要求
しました。

最後にトランプ氏は群衆に向かって、「ここにいる全員が連邦議会議事堂に行き、あなたたちの声を聞か
せるために行進することを知っている」と語った後、「皆で連邦議会まで行こう」と呼びかけました(
『朝日新聞』2021年1月8日)。

この呼びかけがきっかけとなって、集会に集まったトランプ支持者の群衆の一部は暴徒と化し、ガラスを
割って議事堂内と本会議場に乱入したのです。

その時の映像は、何度もテレビで映し出されましたが、私も、とても現実のこととは信じられませんでし
た。そして5人の死者と、議事堂内部の議会内の破壊を行った後、州兵により排除されました。

私は、なぜ、このような事態が発生したのか、乱入した群衆はどんな人たちなのか、そもそもこうした熱
狂的なトランプ支持者とはどんな人たちなのか、といった疑問を抱きました。

今回の議事度乱入に関しては、トランプ大統領が煽ったとして共和党内部からも批判が出ています。トラ
ンプ氏の側近中の側近であるペンス副大統領も再開された合同会議の冒頭で、
    アメリカ議会の歴史において暗黒の日になった。ここで起きた暴力を可能な限 り強い言葉で非
    難する。ここで大きな混乱を引き起こした人たち、あなたたちは勝利しなかった。暴力が勝利す
    ることはない。自由こそが勝つ。世界の国々は、我々の民主主義の回復力と強靭さを目の当たり
    にするだろう。
と話しました(注1)。ペンス氏は、トランプ氏の断末魔の絶叫の中で、かろうじて共和党の良心を示し
たといえるでしょう。

議事堂への乱入に対して、海外からも非難が寄せられました。欧州連合(EU)のミシェル大統領も早速
これを批判し、ドイツのメルケル首相は7日、議会乱入は「私を怒らせ、また悲しませた」とコメントし
たうえで「責任はトランプ氏にある」彼は「暴力的な出来事が起こりうる雰囲気を作り出した」と非難し
ました。つまり、この暴動はトランプ氏の煽動によるもので、その責任はトランプ氏にあるとしました。

そのほかフランスンのマクロン大統領、スペインのサンチェス首相、北大西洋条約機構(NATO)の事務
総長も「衝撃的な光景。民主的な選挙の結果は尊重されるべきだ」と投稿しました。

トランプ氏の盟友、イギリスのジョンソン首相も「米議会の恥ずべき光景だ。米国は世界の中の民主主義
を表象しており、平和的で秩序ある政権移行が重要だ」とコメントしました。

コロナ対策で成功したニュージーランドのアーダーン首相は「人々が投票し、その意見が公になり、決断
が平和的に支持されるという民主主義は、暴徒によって滅ぼされるべきでは決してない」と強調したうえ
で、「民主主義が打ち勝つことを信じて疑わない」と述べました。

アジアの国ではインドのモディ首相は長年トランプ政権と親密な関係を築いてきましたが、「民主主義の
手続きが不法な抗議で覆されることは許されない」と非難しました(『日本経済新聞』2021年1月8日:
『東京新聞』2021年1月8日)

さて、トランプ政権との蜜月関係を世界にアピールしてきた安倍元首相、及びそこで官房長官として仕え
てきた菅現首相は、今回の暴動対して世界に向けて何のメッセージも発していません。日米同盟が日本外
交の基軸というなら、何らかのメッセージを出すべきでしょう。

ところで、トランプ大統領の岩盤支持層とはどのような人たちなのだろうか?伝統的に、トランプ氏が属
する共和党の岩盤支持層は白人の富裕層と保守的キリスト教プロテスタント(福音派)の人びとでした。

もう一つ大きな支持層の塊は、グローバル化と自由貿易の進展で痛手をこうむってきた白人のブルーカラ
ー労働者です。つまり、輸入の増加により国内での製造業の労働者は仕事を失ってきました。さらに、企
業が海外に出てゆくことでも国内の失業と賃金の低下をもたらしてきました。加えて、1100万人とも
いわれる移民(特にヒスパニック系移民)によってこうした労働者は職を奪われていると感じてきました。

アメリカ第一主義、「アメリカ・ファースト」「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンはとりわ
けこうしたブルーカラー層に強くアピールしたものと思われます。

共和党の執行部は新自由主義政策を推進し税制面で富裕層と大企業を優遇している反面、ブルーカラー層
は、熱烈な共和党支持者でありながら切り捨てられるという皮肉な立場に置かれています。

アメリカで高卒以下の白人労働者のトランプ支持は57%、大卒以上では40%です。トランプ支持層の
中には一部の富裕層と、膨大な数の白人貧困層という構成です。これらのうち、トランプ氏の集会に出た
熱狂的な支持者、今回議事堂に乱入した人たちは白人の貧困層のようです(注2)。

熱狂的なトランプ支持者にはさまざまなグループがあります。たとえば、プライド・ボーイーズ(極右の
過激派集団)、オースキーパーズ(極右武装集団)、ミリシア(市民武装集団)、白人至上主義のクーク
ラックス・クラウン(KKK)、ネオナチ集団、Qアノン(陰謀説を信じる人びと)などです。

これらの団体は、方法性に多少の差はありますが、白人至上主義(人種差別主義を含む)、反左翼(社会
主義・共産主義)、事実に基づかない陰謀論、熱烈な愛国主義(同時に、移民を排除しようとする排外主
義)などの傾向があり、しばしば武装し戦闘的な行動に出ます。

陰謀論でいえば、たとえば、ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ前大統領、ジョン・ポデスタ氏、
(そしてなぜか)トム・ハンクスなど、民主党を代表する面々が実は児童売春組織の一味で、トランプ大
統領を狙った「ディープステート」なる大規模な陰謀計画を企てている、というような数々の陰謀論を信
じている、というような類のものです(注3)。

客観的には到底信じられない「作り話」を信じる人たちは、いまだにトランプ氏の勝利を信じ、敗北を認
めていません。

リーダーの言葉やメッセージをそのまま信じ、行動に出るという状況を、かつて日本のオウム真理教問題
に関わった江川紹子氏は、トランプ支持者が、危険なカルト集団化している、と指摘しています。(注4)

カルトにとらわれた人々は、リーダーの言うことを全面的に信じてしまうという意味で、とても危険です。
昨年の大統領選の際の集会で、トランプ氏の言葉に支持者が熱狂する光景をテレビで見て私は、まるでナ
チス台頭期にヒットラーやゲッペルスの演説に熱狂したかつてのドイツ国民の姿を思い出しました。この
時は共産主義とユダヤ人が標的になりました。

ところで、見逃せなのは、トランプ氏に忠誠を示して、選挙結果に異議を唱えた共和党議員が多かったこ
とです。彼らの言動もトランプ氏の暴走を許してきた重要な要因です。

今回の大統領選および議事堂への乱入を見てトランプ大統領の断末魔とアメリカ社会の病理を見た感じがし
します。後者の病理として、要約すれば社会内に生まれた埋めようの分断ということになりますが、二つだ
け挙げておきます。

一つは、よく言われる貧富の格差の拡大です。かつてのアメリカでは中産階級が社会中核を成し、アメリカ
的な自由と民主主義を体現していたと考えられます。しかし、グローバリズムは国内産業の衰退をもたらし、
ブルーカラー労働者が大量の失業と低賃金を生み出しました。現に平均的は労働者の30%が十分な貯蓄も持
っていません(注5)。彼らの将来に対する不安は限界まで高まりつつあります。そうした中で、共和党執
行部から疎外され、リベラルな民主党を受け入れることができない保守的なブルーカラー層がトランプ支持
者となっているのです。

この過程で、多くの中産階級の人々が貧困層へ転落していったことも見逃せません。これらの人びとは自尊
心と誇りを失い、何かに救いを見出そうとしています。

他方で、GAFAに象徴されるIT企業やその社員たち、あるいは金融取引によって途方もない富を手に入れて
いる人たちがいます。この埋めがたい貧富の格差に耐えられない人々にとって、トランプ氏の「アメリカを
再び偉大な国に」というメッセージは、希望を与えてくれる“魔法の言葉”として響いたと思われます。

二つは、ヒパニック系、アフリカ系アメリカ人、その他の有色人種の人口が将来的に白人を追い越してしま
うかもしれないことに対する恐怖です。これは一方で、人種差別や排外主義を生み、他方で白人の優越を擁
護するトランプ氏への共感を生みだいしていると考えられます。

こうした状況を、『東京新聞』(2021年1月9日)の社説は、次のように総括しています。
    分断が深まる米社会で幅を利かせるのは「トライバリズム(部族主義)」だ。人種、
    民族、政治信条などの違いに応じてできた集団に閉じこもり、異なる集団を許容しない。

議事堂に乱入した群衆や、熱狂的なトランプ支持者の多くは、この「トライバリズム」に閉じこもった人た
ちのようです。得票数をみると、バイデン氏8100万票に対してトランプ氏7400万票あったというこ
とは、アメリカ社会がほぼ二分されていることを示しています。これはアメリカ社会が抱えた深刻な分断で、
いつ暴発するかも知れない危険をはらんでいます。


                注
(注1) Yahoo ニュース/ HUFFPOST 1/7(木) 13:32 https://news.yahoo.co.jp/articles/e2389ff10668f942c67d441328ebd7d074ca5018
(注2)中岡望「トランプを支持しているのは誰か?アメリカ『極右化』の真実」https://ironna.jp/article/3874?; 
WEDGE Infinity 2020年11月5日 https://wedge.ismedia.jp/articles/- /21270
(注3)Yahoo News 2021年1月7日、19:07 ewshttps://news.yahoo.co.jp/articles/f566df033b95ea0ac0d6c6ee389d9fe42f48cbce
(注4)Yahoo ニュース 2021年1月8日、15:47
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20210108-00216678/
(注5)(注2)の中岡望の論考参照。

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議事堂に突入するトランプ支持者                            議事堂内に乱入したトランプ支持者。牛の角の被り物を付けた、典型的なQアノンのメンバー
 
                         2021年1月7日  BBC NEWS Japan
                         https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/08/post-94270.php より転載

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