コロナ感染者急減の謎―残るリバウンドと後遺症の脅威―
日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延は、2021年8月20日の新規感染者
は全国で2万5851人をピークに達しました。この背景には、感染力が極めて強いウイルスの変異株、
デルタ株の流行がありました。
しかし、このピークを境に新規感染者は急速に減少しました。緊急事態宣言とまん延防止等重点措
置が廃止された9月30日には、1574人と、ピーク時の6%、15分の1以下に激減し、もはや収
束したかのような数字になっています。
ちなみに10月3日には968人と、ピーク時の3.7%、27分の1です。とりわけ、東京都をはじ
とする首都圏と大阪圏の減少が顕著でした。
感染者の、この急激な減少の原因については専門家からさまざまな要因が指摘されています。
たとえば、新型コロナ対策分科会の尾身会長は、9月28日の記者会見で、決定的な原因は分から
ないことを認めた上で、仮説と断ったうえで、5つの要因を挙げています。
①危機感。8月のピーク時に医療が逼迫し、治療が受けられずに自宅で亡くなる例が次々と報道さ
れた。このため人びとが危機感を高め、感染対策に協力してくれた。
②夜の街。政府は夜の繁華街の人出の五割削減を要望したが、二。三割にとどまった。それでも大
きな効果があった。
③ワクチン。 ワクチン接種率の向上が、実行再生産数(1人が何人に移すかを示す数値)
④クラスター。高齢者が守られた。これまで、若者に感染が広がり高齢世代に移り、その割合は4
割であった。しかし、第五波は10%から前後に減少した。ワクチンに加えて、感染が若い世代に
とどまって、院内の感染防止策が徹底されて高齢者が守られた。
⑤気候。 これは証明が難しいとしつ、尾身氏は、気温が下がり、空調を 使わず窓を開放して換
気喚起が良くなったことが関係していたかも知れない。
ワクチンの効果について補足しておくと、全国のワクチン接種者(2回完了)の割合が50%に達
した9月9日には、ピーク時の2万5851人から1万377人に半減しています。
とりわけ医療従事者のワクチン接種が進んで、病院でのクラスターの発生防止に大きな貢献をした
ことも感染防止に効果があったと言えます。
緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が長期間にわたって発令してきたことは、あまり効果はなかっ
たような印象をもっています。
これらの措置は、人流を減らすことを目的としていて、過去1年の大半が適用期間となっていました
が、それでも第五波はやってきました。
ちなみに、飲食店での営業時間の短縮や酒類の提供が厳しく制限していた時期でも、店をずっと開け、
酒類の提供を続けていた店もかなり多くあったようです。
これには、一方で“緊急事態宣言”を出し、不要不急の外出を止めるよう要請しつつ、オリンピック・パ
ラリンピックを9月初めまで強行した政府に対する不信感も心理的には大きかったと思います。
また、尾身氏は挙げていませんが、日本人のマスク使用や手洗いを忠実に守っていたことは、予想以上
の効果があったと思います。
欧米やイスラエルなどのワクチン先発国では、12才以上の接種率が七割とか八割になると、行動制限
が外れ、人びとはマスクをしなくなり、そのため多くの国で再感染の波が発生しています。
これに対して日本では、マスクの使用に抵抗がないので、かなり多くの人がマスクを付けています。今
日では、新型コロナの感染は主としてエアロゾル、ほとんど空気感染に近い、と考えられているので、
マスクの使用は特に感染防止効果があります。
これ以外にも多くの要因が複合的に作用して、第五波は収まりつつある、としか言いようがありません。
今回のコロナウイルスの正体、科学的な性質や生態などについては、この間にかなり解明されてきまし
たが、まだまだ未知の部分もあります。
たとえば、同じくコロナウイルスの一種である、サーズ(SARS=重症急性呼吸器症候群)が2002年に突
然勃発し、WHOは11月16日に世界的大流行(パンデミック)宣言を発しました。
ところが、翌2003年7月初頭には然と消えてしまったのです。この原因は、今もって分かっていません。
サーズは致死率が14~15%と極めて高く、特にアジア地域で感染が広がりました。当時はワクチンな
どありませんでしたので、忽然と消えた原因は今もって分からないままです。
今回の新型コロナウイルスの激減についても同様のことが言えます。それだからこそ、危惧を感じる問題
があります。
一つは、リバウンドの可能性です。新規感染者の数は、非常に少なくなったものの、その原因がわからな
いので、多くの専門家は、この冬に第六波の再拡大(リバウンド)が起こるのではないか、と警戒を緩め
ていません。
もう一つは、最近、徐々に社会問題化しつつある後遺症の問題です。当初、若者がワクチン接種にあまり
積極的ではなかった背景に、感染しても重症化しないし死ぬことはない、という事情があったからです。
確かに、10代や20代で亡くなった人はほとんどいません。しかし、たとえ軽症でも感染すると、さま
ざまな症状に苦しんだうえ、症状が治まっても、長期に後遺症が残るケースが増えてきました。
図1 後遺症の種類と頻度 後遺症の発症割合とその持続期間

『東京新聞』(2021年10月3日) 『COVID-19 有識者会議』(2021.5.28 6:28pm) https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6466
図1に見られるように後遺症はさまざまです。中でも、疲労感・倦怠感は5人に1人が経験し、以下、
息苦しさ、睡眠障害、思考力・集中力の低下、脱毛、と続きます。図1を作成した慶応大学の福永興
壱教授が代表を務める厚労省の研究班の結果です。
図2は、発症からの日数と、急性期を有する患者の割合の関係を表しています。図2からも分かるよ
うに、多くの後遺症が発症後2か月で48%、4か月たっても27%の患者に何らかの後遺症が認め
られました。
全体で76%の患者にコロナ後遺症が認められており、年齢別にみると、20歳代で75%、30歳代で83%
であることを考えると、若年者であっても後遺症を有する割合が少ないわけではないことが分ります。
また、症例数は少ないけれど、20歳代では嗅覚障害(50%)、味覚障害(47%)の頻度が高かったの
に対し、30歳以降では咳嗽(33~80%)、呼吸困難(25~60%)、倦怠感(27%~60%)の頻度が高
い傾向がありました。
また、遅発性の合併症として、全体の24%の患者に脱毛を認められました。COVID-19発症から脱毛出
現までの平均期間は58.6日(SD 37.2日)、脱毛の平均持続期間は76.4日(SD 40.5日)であった。脱毛
の性状(円形脱毛症か男性型脱毛症化など)やその程度に関しては明らかになっていません(注1)。
現在、後遺症を専門に扱う病院や窓口はありません。ごく一部の病院に「後遺症外来」が設けられて
いるものの、残念ながら確定した治療法はありません。
たとえ、2か月でも後遺症に苦しめられると、仕事を続けることができなくて、退職を余儀なくされた
人も少なくありません。
今回の新型コロナウイルスの厄介な問題は、たとえ軽症で、症状から回復しても後遺症が発症するこ
とがある、という点です。
最近、治療薬が開発されて、それは多いに期待がもてます。しかし、治療薬によってその時の症状が
は消えても、後遺症がどうなるかは、まだ未知数です。
コロナの感染者が減っても、これからは後遺症との闘いが社会的に深刻な問題となる可能性があります。
個人としてできることは、とにかく感染しないように気を付ける事しかありません。
(注1)『COVID-19 有識者会議』(2021.5.28 6:28pm)
https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6466
日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延は、2021年8月20日の新規感染者
は全国で2万5851人をピークに達しました。この背景には、感染力が極めて強いウイルスの変異株、
デルタ株の流行がありました。
しかし、このピークを境に新規感染者は急速に減少しました。緊急事態宣言とまん延防止等重点措
置が廃止された9月30日には、1574人と、ピーク時の6%、15分の1以下に激減し、もはや収
束したかのような数字になっています。
ちなみに10月3日には968人と、ピーク時の3.7%、27分の1です。とりわけ、東京都をはじ
とする首都圏と大阪圏の減少が顕著でした。
感染者の、この急激な減少の原因については専門家からさまざまな要因が指摘されています。
たとえば、新型コロナ対策分科会の尾身会長は、9月28日の記者会見で、決定的な原因は分から
ないことを認めた上で、仮説と断ったうえで、5つの要因を挙げています。
①危機感。8月のピーク時に医療が逼迫し、治療が受けられずに自宅で亡くなる例が次々と報道さ
れた。このため人びとが危機感を高め、感染対策に協力してくれた。
②夜の街。政府は夜の繁華街の人出の五割削減を要望したが、二。三割にとどまった。それでも大
きな効果があった。
③ワクチン。 ワクチン接種率の向上が、実行再生産数(1人が何人に移すかを示す数値)
④クラスター。高齢者が守られた。これまで、若者に感染が広がり高齢世代に移り、その割合は4
割であった。しかし、第五波は10%から前後に減少した。ワクチンに加えて、感染が若い世代に
とどまって、院内の感染防止策が徹底されて高齢者が守られた。
⑤気候。 これは証明が難しいとしつ、尾身氏は、気温が下がり、空調を 使わず窓を開放して換
気喚起が良くなったことが関係していたかも知れない。
ワクチンの効果について補足しておくと、全国のワクチン接種者(2回完了)の割合が50%に達
した9月9日には、ピーク時の2万5851人から1万377人に半減しています。
とりわけ医療従事者のワクチン接種が進んで、病院でのクラスターの発生防止に大きな貢献をした
ことも感染防止に効果があったと言えます。
緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が長期間にわたって発令してきたことは、あまり効果はなかっ
たような印象をもっています。
これらの措置は、人流を減らすことを目的としていて、過去1年の大半が適用期間となっていました
が、それでも第五波はやってきました。
ちなみに、飲食店での営業時間の短縮や酒類の提供が厳しく制限していた時期でも、店をずっと開け、
酒類の提供を続けていた店もかなり多くあったようです。
これには、一方で“緊急事態宣言”を出し、不要不急の外出を止めるよう要請しつつ、オリンピック・パ
ラリンピックを9月初めまで強行した政府に対する不信感も心理的には大きかったと思います。
また、尾身氏は挙げていませんが、日本人のマスク使用や手洗いを忠実に守っていたことは、予想以上
の効果があったと思います。
欧米やイスラエルなどのワクチン先発国では、12才以上の接種率が七割とか八割になると、行動制限
が外れ、人びとはマスクをしなくなり、そのため多くの国で再感染の波が発生しています。
これに対して日本では、マスクの使用に抵抗がないので、かなり多くの人がマスクを付けています。今
日では、新型コロナの感染は主としてエアロゾル、ほとんど空気感染に近い、と考えられているので、
マスクの使用は特に感染防止効果があります。
これ以外にも多くの要因が複合的に作用して、第五波は収まりつつある、としか言いようがありません。
今回のコロナウイルスの正体、科学的な性質や生態などについては、この間にかなり解明されてきまし
たが、まだまだ未知の部分もあります。
たとえば、同じくコロナウイルスの一種である、サーズ(SARS=重症急性呼吸器症候群)が2002年に突
然勃発し、WHOは11月16日に世界的大流行(パンデミック)宣言を発しました。
ところが、翌2003年7月初頭には然と消えてしまったのです。この原因は、今もって分かっていません。
サーズは致死率が14~15%と極めて高く、特にアジア地域で感染が広がりました。当時はワクチンな
どありませんでしたので、忽然と消えた原因は今もって分からないままです。
今回の新型コロナウイルスの激減についても同様のことが言えます。それだからこそ、危惧を感じる問題
があります。
一つは、リバウンドの可能性です。新規感染者の数は、非常に少なくなったものの、その原因がわからな
いので、多くの専門家は、この冬に第六波の再拡大(リバウンド)が起こるのではないか、と警戒を緩め
ていません。
もう一つは、最近、徐々に社会問題化しつつある後遺症の問題です。当初、若者がワクチン接種にあまり
積極的ではなかった背景に、感染しても重症化しないし死ぬことはない、という事情があったからです。
確かに、10代や20代で亡くなった人はほとんどいません。しかし、たとえ軽症でも感染すると、さま
ざまな症状に苦しんだうえ、症状が治まっても、長期に後遺症が残るケースが増えてきました。
図1 後遺症の種類と頻度 後遺症の発症割合とその持続期間


『東京新聞』(2021年10月3日) 『COVID-19 有識者会議』(2021.5.28 6:28pm) https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6466
図1に見られるように後遺症はさまざまです。中でも、疲労感・倦怠感は5人に1人が経験し、以下、
息苦しさ、睡眠障害、思考力・集中力の低下、脱毛、と続きます。図1を作成した慶応大学の福永興
壱教授が代表を務める厚労省の研究班の結果です。
図2は、発症からの日数と、急性期を有する患者の割合の関係を表しています。図2からも分かるよ
うに、多くの後遺症が発症後2か月で48%、4か月たっても27%の患者に何らかの後遺症が認め
られました。
全体で76%の患者にコロナ後遺症が認められており、年齢別にみると、20歳代で75%、30歳代で83%
であることを考えると、若年者であっても後遺症を有する割合が少ないわけではないことが分ります。
また、症例数は少ないけれど、20歳代では嗅覚障害(50%)、味覚障害(47%)の頻度が高かったの
に対し、30歳以降では咳嗽(33~80%)、呼吸困難(25~60%)、倦怠感(27%~60%)の頻度が高
い傾向がありました。
また、遅発性の合併症として、全体の24%の患者に脱毛を認められました。COVID-19発症から脱毛出
現までの平均期間は58.6日(SD 37.2日)、脱毛の平均持続期間は76.4日(SD 40.5日)であった。脱毛
の性状(円形脱毛症か男性型脱毛症化など)やその程度に関しては明らかになっていません(注1)。
現在、後遺症を専門に扱う病院や窓口はありません。ごく一部の病院に「後遺症外来」が設けられて
いるものの、残念ながら確定した治療法はありません。
たとえ、2か月でも後遺症に苦しめられると、仕事を続けることができなくて、退職を余儀なくされた
人も少なくありません。
今回の新型コロナウイルスの厄介な問題は、たとえ軽症で、症状から回復しても後遺症が発症するこ
とがある、という点です。
最近、治療薬が開発されて、それは多いに期待がもてます。しかし、治療薬によってその時の症状が
は消えても、後遺症がどうなるかは、まだ未知数です。
コロナの感染者が減っても、これからは後遺症との闘いが社会的に深刻な問題となる可能性があります。
個人としてできることは、とにかく感染しないように気を付ける事しかありません。
(注1)『COVID-19 有識者会議』(2021.5.28 6:28pm)
https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6466