遺伝子組換え企業・モンサント(3)―生物特許と生物多様性侵害という問題―
遺伝子組換え(GM)技術が、モンサントが主張するように、無害で荒れ地をたちまち豊かな耕地に換え、しかも殺虫剤も要らない「夢の技術」
であり、それによって世界の食糧不足と飢餓の問題を救うことができるのだとしたら、それは歓迎すべきことです。
しかし、前回みたように、モンサントのGM作物は除草剤ラウンドアップという、それ自身がすでに有害な化学物質とセットになっています。
このため、ラウンドアップとGM作物の毒性が二重に人体に健康被害をもたらします。
それにもかかわらず、GM作物の栽培面積は、その商業栽培が始まった1996から現在まで激増しています。
すなわち、1996年のGM作物の栽培面積には170万ヘクタールであったものが、2013年現在、27カ国におよび、面積は1.75億ヘクタ
ール、103倍に拡大したのです。
ちなみに、日本の全耕地面積は約460万ヘクタールですから、その38倍にも達しています。
栽培面積の大部分はアメリカで、7010万ヘクタール(全体の40%)、次いでブラジル、アルゼンチン、カナダ、アジアではインドと中国が
GM作物の商業栽培を行っています。
この記事の第一回目でも書いたように、日本も、大豆、ジャガイモ、トウモロコシ、ナタネのGM作物の商業栽培は認められていますが、
現在のところ、おそらく消費者から不人気を想定して、実際に栽培している生産者はいません。(注1)
ところで、モンサントのGM作物栽培が、これほど急激に広まった背景には生命に対する特許制度と裁判、政治的介入、御用学者によ
る科学をねじまげるさまざまな手法があります。
今回は、生命特許という問題を中心に書いておきます。
モンサントは一方で、GM作物は、在来種と厳密に同じ性質をもつものだから、試験は必要ない、と主張しています。
これには少し説明が必要です。モンサントは、遺伝子組換えが人体に悪影響を及ぼすのではないか、という世間の懸念を取り除くため
に、たとえ遺伝子組換えをしても、それは生物としては普通の作物と全く同じなのだから、その影響を試験する必要はない、と主張して
いるのです。
これは、アメリカにおいて、農産物に「遺伝子組換え」であることの表示を(一つの州を除いて)法律で禁止しているときに使う論法です。
ところが、他方で、これとは全く逆に、GM作物は独自の創造物であり、特許に値するとの主張をし、特許を申請しました。
これは、非常に奇妙な論理です。つまり、遺伝子組換え大豆は、通常の大豆と全く同じであると同時に、独自の創造物である、という
完全に矛盾する主張をしていることになります。
しかも、その誰が見てもあり得ない矛盾が、アメリカでは認知され合法とされているのです。TPPが妥結すると日本にも同様の要請を
してくると思われます。
アメリカの特許法(1951年)では、特許は産業にかかわる機械と手続きのみを対象とするもので、いかなる場合にも生物(したがって
植物も)対象とするものではない、とされていました。
この原則は、1970年代にはしっかり守られていました。しかし、1980年、事態は一変します。この年アメリカの最高裁判所が、遺伝子
組換えが施された微生物への特許を認めたのです。
その論旨は、「人間が手を加えたものは、それがどのようなものであっても特許の対象となる」というものです。
この時は、遺伝子組換えにより石油を分解するバクテリアが特許の対象でしたが、その後、植物(1988年)、人間の胎芽!(2000年)
も特許が認められました。
現在、アメリカの特許局は年間七万件の特許を承認していますが、その20%は植物関連です。
1980年の判決以来、モンサントも猛然と植物関連の特許(必ずしも遺伝子組換えだけではない)を目指して研究開発を始めます。そし
てモンサントは、2005年までに647件の植物関連の特許を獲得しています。
アメリカは、生命体を、機械と同じような生産物と見なし、新たな「商品」として売り出すことを法律的に認めているのです。
これは、植物に昆虫などの動物の遺伝子を組み込む、という人間がしてはいけない手法を用いていることは生命倫理にたいする重大
な侵害です。
モンサントは、「1ドルたりとも利益を逃すな」をモットーとしていますが、利益になることなら何でもする、という企業体質をもっています。
ところで、モンサントが推進している遺伝子組換え作物には、まだまだ多くの問題があります。
ランドアップという除草剤それ自身が毒性のつよいものであることは既に述べましたが、この除草剤が撒かれることによって、ランドア
ップ耐性の遺伝子組換え植物以外の植物は「雑草」として死滅させられていまいます。
インド農業では、女性たちは150種類の植物を、野菜、飼料、健康管理のために使っています。西ベンガルでは、米作地から採取され
た124の「雑草」種が農民にとって経済的な重要性をもっています。
メキシコのある地方では、農民は435種類の野生の植物や動物を利用しており、このうち229種類は食用です。
人間が「雑草」と見なしている植物は、それを餌や繁殖場としている昆虫や小動物に「いのち」の場をも提供しています。
しかしランドアップは、それらの虫の生命活動の場を奪ってしまいます。
除草剤は、目に見える植物だけでなく、土壌中の小さな昆虫、虫、細菌や菌類などの微生物をも殺してしまいます。
土地というのは、地上と地中における生命と、材料となる無機質体(鉱物やミネラルなど)が何億年という歳月をかけて作り出してきた
生態系をなしています。
ラウンドアップは、特定の植物だけのために土地を利用するために、人間の手ではできない貴重な生態系を壊してしまいます。
モンサントの遺伝子組換え作物の戦略は、たんに特定に奇形植物を作るだけでなく、除草剤とセットとなることによって、必要な生産物
だけを作る工場と見なす考え方で、生物多様性を否定することになります。
もうひとつ、これと関連して、将来深刻な問題が発生する可能性があります。それは、ラウンドアップを毎年使っていると、「雑草」の中に、
いずれ必ずラウンドアップに耐性をもち、除草剤を撒いても死なない植物が出てくることです。
そのような植物が広まれば、もはや遺伝子組かえ作物を栽培することのメリットそのものが大きく損なわれてしまいます。
モンサントのラウンドアップ耐性作物の栽培には、まだまだ多くの問題がありますが、それらについては、順次説明してゆきます。
(1) 日本と世界における遺伝子組換え作物の栽培については以下を参照。
www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/pdf/0686.pdf
松永和紀『食の安全と環境―「気分のエコ」にはだまされない―』(日本評論社、2010
年)、第7章。
(2) 『エコロジスト』誌編集部(編)、『遺伝子組換え企業の脅威(増補版)』(緑風出版、2012
年)、59ページ。
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遺伝子組換え(GM)技術が、モンサントが主張するように、無害で荒れ地をたちまち豊かな耕地に換え、しかも殺虫剤も要らない「夢の技術」
であり、それによって世界の食糧不足と飢餓の問題を救うことができるのだとしたら、それは歓迎すべきことです。
しかし、前回みたように、モンサントのGM作物は除草剤ラウンドアップという、それ自身がすでに有害な化学物質とセットになっています。
このため、ラウンドアップとGM作物の毒性が二重に人体に健康被害をもたらします。
それにもかかわらず、GM作物の栽培面積は、その商業栽培が始まった1996から現在まで激増しています。
すなわち、1996年のGM作物の栽培面積には170万ヘクタールであったものが、2013年現在、27カ国におよび、面積は1.75億ヘクタ
ール、103倍に拡大したのです。
ちなみに、日本の全耕地面積は約460万ヘクタールですから、その38倍にも達しています。
栽培面積の大部分はアメリカで、7010万ヘクタール(全体の40%)、次いでブラジル、アルゼンチン、カナダ、アジアではインドと中国が
GM作物の商業栽培を行っています。
この記事の第一回目でも書いたように、日本も、大豆、ジャガイモ、トウモロコシ、ナタネのGM作物の商業栽培は認められていますが、
現在のところ、おそらく消費者から不人気を想定して、実際に栽培している生産者はいません。(注1)
ところで、モンサントのGM作物栽培が、これほど急激に広まった背景には生命に対する特許制度と裁判、政治的介入、御用学者によ
る科学をねじまげるさまざまな手法があります。
今回は、生命特許という問題を中心に書いておきます。
モンサントは一方で、GM作物は、在来種と厳密に同じ性質をもつものだから、試験は必要ない、と主張しています。
これには少し説明が必要です。モンサントは、遺伝子組換えが人体に悪影響を及ぼすのではないか、という世間の懸念を取り除くため
に、たとえ遺伝子組換えをしても、それは生物としては普通の作物と全く同じなのだから、その影響を試験する必要はない、と主張して
いるのです。
これは、アメリカにおいて、農産物に「遺伝子組換え」であることの表示を(一つの州を除いて)法律で禁止しているときに使う論法です。
ところが、他方で、これとは全く逆に、GM作物は独自の創造物であり、特許に値するとの主張をし、特許を申請しました。
これは、非常に奇妙な論理です。つまり、遺伝子組換え大豆は、通常の大豆と全く同じであると同時に、独自の創造物である、という
完全に矛盾する主張をしていることになります。
しかも、その誰が見てもあり得ない矛盾が、アメリカでは認知され合法とされているのです。TPPが妥結すると日本にも同様の要請を
してくると思われます。
アメリカの特許法(1951年)では、特許は産業にかかわる機械と手続きのみを対象とするもので、いかなる場合にも生物(したがって
植物も)対象とするものではない、とされていました。
この原則は、1970年代にはしっかり守られていました。しかし、1980年、事態は一変します。この年アメリカの最高裁判所が、遺伝子
組換えが施された微生物への特許を認めたのです。
その論旨は、「人間が手を加えたものは、それがどのようなものであっても特許の対象となる」というものです。
この時は、遺伝子組換えにより石油を分解するバクテリアが特許の対象でしたが、その後、植物(1988年)、人間の胎芽!(2000年)
も特許が認められました。
現在、アメリカの特許局は年間七万件の特許を承認していますが、その20%は植物関連です。
1980年の判決以来、モンサントも猛然と植物関連の特許(必ずしも遺伝子組換えだけではない)を目指して研究開発を始めます。そし
てモンサントは、2005年までに647件の植物関連の特許を獲得しています。
アメリカは、生命体を、機械と同じような生産物と見なし、新たな「商品」として売り出すことを法律的に認めているのです。
これは、植物に昆虫などの動物の遺伝子を組み込む、という人間がしてはいけない手法を用いていることは生命倫理にたいする重大
な侵害です。
モンサントは、「1ドルたりとも利益を逃すな」をモットーとしていますが、利益になることなら何でもする、という企業体質をもっています。
ところで、モンサントが推進している遺伝子組換え作物には、まだまだ多くの問題があります。
ランドアップという除草剤それ自身が毒性のつよいものであることは既に述べましたが、この除草剤が撒かれることによって、ランドア
ップ耐性の遺伝子組換え植物以外の植物は「雑草」として死滅させられていまいます。
インド農業では、女性たちは150種類の植物を、野菜、飼料、健康管理のために使っています。西ベンガルでは、米作地から採取され
た124の「雑草」種が農民にとって経済的な重要性をもっています。
メキシコのある地方では、農民は435種類の野生の植物や動物を利用しており、このうち229種類は食用です。
人間が「雑草」と見なしている植物は、それを餌や繁殖場としている昆虫や小動物に「いのち」の場をも提供しています。
しかしランドアップは、それらの虫の生命活動の場を奪ってしまいます。
除草剤は、目に見える植物だけでなく、土壌中の小さな昆虫、虫、細菌や菌類などの微生物をも殺してしまいます。
土地というのは、地上と地中における生命と、材料となる無機質体(鉱物やミネラルなど)が何億年という歳月をかけて作り出してきた
生態系をなしています。
ラウンドアップは、特定の植物だけのために土地を利用するために、人間の手ではできない貴重な生態系を壊してしまいます。
モンサントの遺伝子組換え作物の戦略は、たんに特定に奇形植物を作るだけでなく、除草剤とセットとなることによって、必要な生産物
だけを作る工場と見なす考え方で、生物多様性を否定することになります。
もうひとつ、これと関連して、将来深刻な問題が発生する可能性があります。それは、ラウンドアップを毎年使っていると、「雑草」の中に、
いずれ必ずラウンドアップに耐性をもち、除草剤を撒いても死なない植物が出てくることです。
そのような植物が広まれば、もはや遺伝子組かえ作物を栽培することのメリットそのものが大きく損なわれてしまいます。
モンサントのラウンドアップ耐性作物の栽培には、まだまだ多くの問題がありますが、それらについては、順次説明してゆきます。
(1) 日本と世界における遺伝子組換え作物の栽培については以下を参照。
www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/pdf/0686.pdf
松永和紀『食の安全と環境―「気分のエコ」にはだまされない―』(日本評論社、2010
年)、第7章。
(2) 『エコロジスト』誌編集部(編)、『遺伝子組換え企業の脅威(増補版)』(緑風出版、2012
年)、59ページ。
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