自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

支配者を怒らない曖昧な日本人~精神的自由と経済的自由

2016-03-22 15:37:58 | 憲法を考える

 政府が講師として招いたノーベル賞受賞者スティグリッツ教授が、「消費税率10%への増税は控えるべきだと述べた」(動画)と、NHKがトップニュースで報じたことへの疑問をこのブログで指摘したが、教授の訪日の目的は『シカゴ大学時代(1965年頃)の恩師、故宇沢弘文東大教授の一周忌の記念講演であり、ついで故宇沢教授が共同代表を務めていた「TPP阻止国民会議」での勉強会の講師であった。
 しかし、安倍政権が途中から入り込み、16日に首相官邸で開いた国際金融経済分析会議で、消費税率10%の引き上げに反対意見を述べて大きく報道された』ことが実態のようだ。
 参考:アメリカの碩学の反TPP - スティグリッツ教授の日本へのアドバイス

 教授の訪日の目的は、恩師であった故宇沢先生に敬意を表し、ある意味では「アベノミクス」や「TPP」を批判することにあったようが、「アベノミクスをどしどし批判してください」と報道を意識した首相の見せかけの挨拶も不誠実だが、これに対する教授の反応を取り上げないで、「消費税率10%への引き上げの延期?」の露払い役を引き受けたNHKを含めた多くのメディアもはなはだ不誠実である。
 宇沢弘文先生の志・「心の豊かな社会」を目指して
 人間の心を大切にする経済学~宇沢弘文先生の死を悼む

 故宇沢先生は「現実は経済学者にとって『ある特殊なケース』にすぎない」とし、「市場外の環境や制度あっての市場経済である」とし、人間的な暮らしと社会を保つために『社会的共通資本』という考え方を打ち出し、その実践に協力した。「アベノミクス」を現実の問題ではなく経済学の問題だと指導した学者と『民を思う心』が決定的に違うのだ。

 我々は「自由と民主主義」を知ったつもりでいる。しかし、なんでもかんでも自由であり、なんでもかんでも多数決を尊重するのが民主主義ではない。『精神的自由』が『経済的自由』より優先される、という意味での本当の自由の重さを知らない。個人の自由を尊重することは他者の自由を尊重することだという本当の民主主義も知らない。国民主権とは個人の『精神的自由』が第一に尊重されることであり、集団で意見が分かれたときにはやむを得ず多数決で決めているだけだ。

 集団で自分たちの考え方を押し通すために国会の議員数を確保したり、衆議院で内閣不信任案が可決された時に「解散して民意を問う」という筋を通すのではなく、自分たちの議員数が多くなるために都合の良い時期に、国民が喜びそうな条件を示して解散するのも真の民主主義ではない。

 自由民主党の綱領(新綱領 平成17年11月22日)には、「自由と民主主義」のことが明記されていない。「自由と民主主義」についてのしっかりした考えを持たないで、憲法改正を党是とするとは危ないものだ。一方、日本共産党には「自由と民主主義の宣言」がある。資本主義であろうが、社会主義であろうが個人の人権を大切にする「自由と民主主義」が国の統治の基本であるべきだが、自民党にはそれがない。私は「自由と民主主義」を社会主義では組織で支配し、資本主義ではお金で支配すると考えているが、組織の支配よりお金の支配の方が直接その支配が見えないので安心しているだけで、どちらも国民の主権を認めるために「自由と民主主義」をいかに大切にしているかが日常問われていると思う。

 日本人は戦前、悲惨な戦争へと走った財界等の支配者の責任を問うこともなく、アメリカが反共の砦にCIA等で利用するために保釈したA級戦犯岸信介を首相にまでした。その一方で、戦争に反対した共産党を白い目で見るおかしなところがある。どうも、日本人は『精神的自由』と『経済的自由』の意味が曖昧で、支配者を怒らず、支配者の甘い言葉をすぐに信用してしまう従順すぎるところがあるようだ。

 安倍首相は戦争責任者祖父岸信介の名誉回復にご執心で、「次の世代に戦争責任の謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」とうそぶいている。
 安倍首相は任期中に憲法改正をしたいと宣言したが、2016年2月15日の衆院予算委員会で、民主党の山尾志桜里衆院議員との質疑応答(動画)で、「精神的自由」が「経済的自由」より優先されるという憲法の基本の意味を知らなかった。

 また、第一次安倍内閣(平成18年9月26日~平成19年9月26日)の内閣総理大臣所信表明演説において、
 「美しい国、日本」の実現に向けて、時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であると述べ、憲法を頂点とした戦後レジームを大胆に見直していくことを表明した。その上で、「美しい国」を実現するには、その基盤として、活力に満ちた経済が不可欠であるとの認識を示し、成長の実感を国民が肌で感じることができる新成長戦略を推進していくと述べた。さらに、「内閣の最重要課題」と位置付ける教育再生では、子どもたちに公共の精神や道徳、地域や国への愛着・愛情などの価値観を教えることが、「日本の将来にとって極めて重要」と述べ、教育の基本にさかのぼった改革を推進し、「教育新時代」を築いていくことを明らかにした。また、教育改革を実効あるものとするため、学力向上に向けた「ゆとり教育」の見直しなど、公教育の再生を行っていくことを強調した。」

 まさに、「精神的自由」より「経済的自由」を優先し、その経済も『民を大切にする』ことを第一に考えず、富が上から下へと流れる財界主導型の「トリクルダウン」という「アベノミクス」を推進し、教育においても「精神的自由」より「公教育の再生」を強調しているのである。
 「戦後レジームの脱却」と「美しい国、日本」とは祖父岸信介が財界と共に支配した戦前の日本に憧れ、戻りたい夢を首相任期中に実現したいと宣言しているのだ。ここまで言われてもメディアや国民は従順に従うのであろうか。

参考:
憲法「精神的自由権」
第2部 第9章 精神的自由権2-表現の自由-
衆議院憲法調査会  参議院憲法審査会

世界史の中の日本国憲法
「民主主義」と「民主主義の敵」
文明の衝突&文明と文化の衝突 文明は文化を駆逐して良いのか?

スティグリッツ氏のTPP批判も訪日目的も伝えぬマスコミ
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初稿 2016年3月22日

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