自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

経済学の父「アダム・スミス」、そして経済史入門と現代の経済

2019-04-05 23:37:30 | 自然と人為

 ブログ「経済における「欲望」について考える」で指摘したが、日本語の「経済」は「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」という中国の「経世済民」に由来しているが、この言葉は経済より政治の意味に近い。
 一方、著書『国富論(1776年刊)』により「経済学の父」(動画)と言われるアダム・スミス(1723年~1790年)(2)は、何故、「経済学の父」と呼ばれるのだろう。アダム・スミスの没後100年にアルフレッド・マーシャル(1842年~1924年)が、『Principles of Economics(1890年刊):経済学原理』を発表し、「経済学(Economics)」という新しい学問分野が確立するまでは、イギリスではアダム・スミスが体系化し、リカード、マルサス、マルクスが関係したこの分野の仕事は「経世済民」と同様に「Political economy(政治・経済)」と呼ばれている(古典派経済学)。

 哲学者としてのアダム・スミスは、まず人間の社会的存在について考察し、著書『道徳感情論(1759年刊)』において、人間は利己的だが、人間本性の中には、他人に関心を持つ「共感(同感)」という感情があり、その共感の感情によって社会の秩序と繁栄が導かれるとした。そして『国富論』においては、冨の源泉を人間の労働に求め、人間の労働が価値を生み、労働が商品の価値を決めるとしているが、この人間中心の「労働価値説」は、デカルト(1596年-1650年)によりもたらされた「知識(真理)」や物質的な価値観とは違うスピノザ(1632〜1677)「欲望」という人間の本質(動画)を呼び起こしてくれる。我々は真理を知識として得るデカルトの考えに浸っているが、真理は「体得」するもの(動画)とし、人間を「自己と他者を大切にする群れ(動画)」としたスピノザの「理性」を、アダム・スミスの「見えざる手」、即ち、人間集団の労働生産性を高めるためには市場における自由な競争が必要とする「見えざる手」からも教えられたような気がする。
 参考:21世紀の人工知能(AI)は17世紀のスピノザを越えられるか?
     デカルトとスピノザ(動画)


 アダム・スミスは農業から商業、さらに産業革命により始まった工業化社会による分業化(現代社会の原型)という将来に夢を抱いたことであろう。このアダム・スミスの「見えざる手」は、新古典派経済学に継承され、アルフレッド・マーシャルにより需要・供給曲線で示され、「Principles of Economics(1890年)」の発刊により政治・経済から経済が分離され、経済学の道が拓かれた。現在使用されている「経済」は英語由来の政治を切り離した言葉(Economics)に由来している。

 「自然的自由の体系が確立された社会では、労働と資本の使い方は、所有者個人にゆだねられる。個人は、自分の労働や資本をどこに向けるべきかについて、政府よりも多くの注意を払い、労働と資本を自分にとって最も有利な方法で用いるであろう。個人が正義の諸法を守って行動するかぎり、このような個人の行動は、「見えざる手」に導かれて社会に最大の利益をもたらすであろう。こうして、政府による優遇・抑制政策がなくても、というよりも、むしろ政府による優遇・抑制政策がなければ、労働と資本は、社会にとって最も有利になるように、諸産業に配分されるであろう。優遇・抑制 政策の廃止によって、これ まで優遇されてきた貿易部門や輸出向け製造業部門の利潤率は低下し、他の部門の有利さが相対的に高まる。その結果、資本と労働は、自然に前者から後者へと移動するであろう。」
 参考:アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界 (堂目卓生著 中公新書:Kindle 版)

 『アダムスミスもマーシャルも人間の信頼が原点にあったが、マルクスは資本が労働者を搾取することを警告し、マーシャルの弟子・ジョン・メイナード・ケインズ (1883-1946)は1929年の世界恐慌を経験し、完全雇用を生み出す有効需要の開発を、国家が公共事業を興すことによって生み出すことを提唱した。シュンペーターは技術革新により工業が発達するとしたが、工業が発達するにつれて、人間の社会における関係も変わる。組織が大きくなる時、他者を尊重する自由な社会はどうすれば維持できるのであろうか?』
 参考:欲望の資本主義2019 偽りの個人主義を超えて 
     最終章 経済学の父が見ていた人間(動画)
     アダム・スミスの共感論と公平な観察者論
     アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界 (中公新書)
     「アダムスミス」の思想とは?『道徳感情論』『国富論』や名言も
     マーシャルにおける心理学研究と経済学との連関(2)
     ケインズが『一般理論』で説いていたこと(2)(3)
     ケインズ経済学
     5分でわかる!経済学三大思想「新古典派、ケインズ、マルクス」の流れ

 アダム・スミスはイギリスの産業革命(2)の頃(18世紀半ばから19世紀)に活躍し、アメリカ独立戦争(1775-1783)も経験した。アメリカ独立宣言(1776年)(2)(3)はアダム・スミスの『国富論』発刊の年であり、『独立宣言』と『国富論』では、『独立宣言』は政治的にアメリカの独立の正当性を主張したが、『国富論』は経済的にアメリカの独立の正当性を保証したとしている。

 「スミスは、イギリスにとって「今なすべき こと」は、アメリカ植民地を自発的に分離することであると 示唆した。 しかし、スミスの示唆にもかかわらず、イギリス政府は、その後七年間、アメリカ植民地を 武力で制圧しようとし続け た。しかしながら、スミスが予想したとおり、アメリカの指導者たちは命がけで抵抗し、さらに、フランス、スペイン、オランダが アメリカ側について参戦したため、イギリスは1783年パリ条約を批准して、ついにアメリカの独立を承認した。」
 参考:アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界 (堂目卓生著 中公新書:Kindle 版)

 なお、アダムスミスが生れた頃はイギリスでの議院内閣制が始まっているが、これはピューリタン革命(1642年-1949年)を経て、絶対王政から一時的ではあるがクロムウェルの独裁政権コモンウェルス:共和国)、そして名誉革命(1688年)を経てウィリアム3世とメアリ2世による立憲王政が開始されている。

 「イギリスの名誉革命は日本では江戸時代の元禄(1688年~1704年)に始まった。イギリス議会での言論の自由は保障され、国王は「君臨すれども統治せず」という立場に置かれたが、上位の聖職者および大貴族からなる上院と、 地主貴族および富裕な商工業者からなる下院とに分けられ、十八世紀を通じて下院の発言力は徐々に強まっていった。」
 参考:アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界 (堂目卓生著 中公新書:Kindle 版)

 また、これよりさらに100年前の1588年前には、スペイン全盛期の強力な艦隊がイギリス艦隊に敗れている。また、ルターによって1517年に始まった宗教改革から、ほぼ百年後に起こった三十年戦争(1618-1648)は、最後にして最大の宗教戦争であった。この100年単位の史実は、歴史の記憶の参考にしたい。
 参考:映画『無敵艦隊』無敵艦隊 [DVD]
     エリザベス対フィリップ「無敵艦隊」無敵艦隊/アルマダ

産業革命と社会問題
経済学 名著と現代
 私が大西つねき氏から学んだ「現代の政治・経済のあり方」は、自分自身が自立した個人であるかを問う哲学の問題から、“権力や強者を求める”現在の政治・経済から“生きる価値を大切にする”政治・経済を実践的に追及する未来への夢を与えてくれた。ことに物々交換から貨幣を媒体にした現在の市場において、お金の発行が「生活の価値」を高めることに使われているのか?お金が「生活の価値」を向上するためではなく、「生活の格差」を拡大させる媒体となっているのではないでしょうか?本来は「生活の価値」を向上させるために発行されるお金が暴走してしまうのを止めるには、「お金の発行量」=「生活の価値の量」とし、我々一人ひとりの価値観を見つめ直すことから始めなければいけないのではないでしょうか?      --- 三谷克之輔 ---
  
  参考:大西つねきの週刊動画コラムvol.9:お金の発行の仕組みの本質(3:43-13:03)

 マネーストック(2)とは、従来マネーサプライと呼べれていたもので、金融部門から経済全体に供給されている「通貨」の総量のことで、通貨残高ともいう。小泉内閣のもと2005年に郵政民営化法が成立し、2007年から郵便公社は郵便、保険、郵貯、孫口の4つの株式会社に分割された。これに伴い、「マネーサプライ統計」については、2008年6月9日公表分(2008年5月速報計数)から、内容の見直しを行うとともに統計名称を「マネーストック統計」に変更された。マネーストック統計には、通貨の範囲に応じてM1、M2、M3、広義流動性の4つの指標があるが、最大の変更点は、M1の対象金融機関が「ゆうちょ銀行」などのすべての預金取り扱い金融機関に拡張されたことだが、統計データの連続性を重視してゆうちょ銀行等(※2)を除外した日本銀行や国内銀行等の(除くゆうちょ銀行※1)M2が利用されることが多い。
 ※1 日本銀行、国内銀行(除くゆうちょ銀)、外国銀行在日支店、信用金庫・信金中金、農林中央金庫、商工組合中央金庫
 ※2 ゆうちょ銀行、農協・信農連、漁協・信魚連、労金・労金連、信用組合・全信組連


 30年間変わらない大卒初任給

---マネーストック(M2) ---国債残高(政府借金) ---GDP(国内総生産) ---銀行貸出残高
          大西つねきの週刊動画コラムvol.63:我々自身が変わらなければいけない


 1990年代末に金融システム不安が強まった時期には、将来の不意の支出に対応する通貨の予備的需要が高まったことから、景気が悪化する中でマネーの伸びが高まるという現象が起きた。

 年年歳歳花相似 歳歳年年人不同 我々は過去を懐かしむだけでなく、今なお未来に責任を持たねばならない。その未来への希望を皆さんにも一緒に考えていていただきたく、福山市西部市民センターホールで『大西つねき』講演会を開催します。
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 「経済は欲望と競争により進化?」するとする「経済史入門」を疑問符とともに学んでみたい。また、神戸大学で公開されている「現代の経済」を解説抜きで教材として紹介しておきたい。
やりなおす経済史
1)経済史は欲望のドラマだ!
2)資本主義はどのように生まれたのか?
3)なぜあの時、世界大戦へと突入したのか?
4)今知っておきたい、90年代のバブル崩壊物語
5)2000年以降の世界経済史
6)中国はなぜ日本を超える経済大国になったのか?

現代の経済 神戸大学
第1回 経済学とはどんな学問なのか?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマンとTPP
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本経済の諸問題:円高と年金問題
第9回 世界経済の重要性
第10回 貧しい国と豊かな国


初稿 2019.4.5 更新 2019.4.8

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