自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

5.口蹄疫の防疫指針作成の経緯

2015-04-08 21:20:26 | 牛豚と鬼

三谷 2004年の「口蹄疫防疫指針」作成の際には、これを検討した牛豚等疾病小委員会の議事録が公開されています。事務局は「ワクチンについては、考え方は変わっていないか。摘発・淘汰が基本というのは世界の趨勢であることに変わりないか」と質問しています。この段階でEUの防疫指針は「生かすためのワクチン」の考え方を採用していましたので、事務局(農水省)の質問は健全に見えます。
 しかし、この防疫指針作成に際して、食品安全委員会で英国を含めて欧州の調査をしていながら、「生かすためのワクチン」に関する欧州の防疫指針の変化を報告していません。

 また、委員側から「コード(OIEコード)上、清浄化が遅れるという問題やキャリアとなる問題、発生後の調査における影響などがあり、スタンピングアウト(殺処分)が基本という考え方は変わっていない」(解説:国際ルールのOIEコードに従えば、ワクチンを接種すると清浄国回復が3ヵ月遅れるという問題や、発病しなくてもウイルスを保有し続けるキャリアが存在する可能性があり、ワクチンを接種すると感染している家畜を識別調査するのが大変になるので、これまで通りワクチンを使用しないで殺処分で感染拡大を阻止する方針に変わりはない。)との意見がありました。

 これが「最新の科学的知見と国際的動向」を無視した日本の防疫指針につながりました。また、この防疫指針は少なくとも5年以内に見直すことになっていましたが、2007年の英国の口蹄疫発生後の2009年にも見直す検討がなされず、今回の宮崎の口蹄疫惨禍の遠因になっています。しかもこの考え方はその後の農水省の口蹄疫防疫対策の柱となり、今回の口蹄疫の大惨事後の防疫指針においても変わっていません。

 今回の防疫指針改定案を作成した牛豚等疾病小委員会の議事録は公開されていません。宮崎市民の情報公開請求に対しても、委員の発言は黒塗りで公開を拒否したも同然です。
 そこで、これを諮問した第15回家畜衛生部会の議事録を調べてみました。この中で「生かすためのワクチン」の利用の推進を求めた委員(p.25末尾~)に対して、事務局(動物衛生課長)が「基本的には技術的ないろいろな課題がある」としてこれを否定し、防疫指針を作成した牛豚等疾病小委員会の委員長は何も説明していません。このような「審議会の形式」さえ踏み外した論議が審議会の意見として公に承認されるものでしょうか。

 そういえば先生が種雄牛の殺処分に関して口蹄疫対策に批判的なコメントをされたとき、日本獣医学会微生物学分科会事務局から分科会長名で分科会員あてに次のメールが送られてきたそうですね。「現在実施されている防疫措置は、法律や防疫指針など予め専門家の意見を聞いて取りまとめられたものに従って実施されています。外国の事例や科学的な根拠に基づく批判、意見があったとしても、今はそれを個別に主張すべきタイミングではありません」。この分科会長は牛豚等疾病小委員会口蹄疫疫学調査チームの専門委員でもありますが、学会の責任ある立場で会員の個人的な発言を制止するのは異常な行為です。
 口蹄疫発生中(戦争中)の非常時だから国の政策を非難するなと先生のコメントを制するなら、終息後は社会的に科学的事実について真摯に向き合い、シンポジウム等で先生の意見を聞く場を持つ責任があると思いますが、そのような要請はあったのでしょうか?

山内 私はいろいろな省庁の審議会で多くの場合、小委員会や部会での議論に専門家として参加してきました。しかし、ほとんどの場合、あらかじめ行政が作ったシナリオがあって、そこからはずれた意見を採り上げてもらうことは困難でした。ほかの省庁と比べて、とくに農水省は秘密主義の傾向が強く、議事録が作られることなく、議事概要に要点だけが列記され、しかも公開はしないことが普通でした。結局、審議会といっても名ばかりで、単なるセレモニーに過ぎません。

 口蹄疫対策について、シンポジウムなどを通じて意見を求められたことはまったくありません。この分科会長からのメールでは「科学者として、責任ある批判、意見を述べたい場合は、しかるべきルートから、その主張を受け止める能力を有する組織(農林水産省・動物衛生課など)に対して行ってください」となっていました。私はこのメールを読んだ時に非常に驚くとともに憤りを覚えました。学術団体としての学会のあり方にかかわる重大な問題と受け止めたからです。獣医学会は農水省を主務官庁とする社団法人で、これまで農水省の意向を考慮した対応がしばしばありました。分科会長は農水省傘下の動物衛生研究所の出身であることから、メールの趣旨は農水省の意向を反映したものと受け止めたのです。なお、獣医学会は今年から内閣府の下の公益社団法人になったので、行政の意向に左右されない意見が議論される真の学術団体になることを期待したいと思います。

初稿 2012.7.22 更新  2015.4.5


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