自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

6.口蹄疫対策検証委員会の問題点

2015-04-08 21:20:53 | 牛豚と鬼

三谷 学会はその専門とする領域の知見について、学会員が真摯に向き合う場だと思いますし、行政も国民の立場に立ち、社会的正義を追求していく責任があると思います。しかし、獣医師会長や各分野の専門家で構成される口蹄疫対策検証委員会は科学的事実に真摯に向き合わないで、都合の悪いところは隠蔽した報告書を公表(2010.11.24)し、この報告書に拠って防疫指針も見直しています。この口蹄疫対策検証委員会報告書の問題点について先生も指摘されていますね。

山内 「口蹄疫対策検証委員会報告書を科学的に検証する」で、この報告書では科学的リスク評価がほとんどなされていないことを指摘しておきました。リスク管理とリスク評価を分離せず、国際的に活躍している口蹄疫対策専門家グループからの緊急提言も無視してまで、なぜ「生かすためのワクチン」を拒み、防疫指針に「最新の科学的知見」を取り入れようとしないのか理解できません。

三谷 ウイルスを「ワクチン」ではなく「殺処分」で撲滅するというのは、科学技術の進歩を無視して「竹槍で戦え」と言っているようなものですね。非科学的で非論理的であり、しかも展望も戦略もない予防的殺処分に軍を駆り出し、国民に甚大な被害を与えるのは人の戦争も同じことで、絶対に止めてほしいと思います。

 この口蹄疫対策検証委員会は第3者委員9名で構成されたとされています。また、検証委員会報告書の「中身は9名の検証委員会の方々に分担して執筆をしていただいた」と山根座長は衆議院の農林水産委員会(2010年12月8日)で参考人として説明しています(農林水産委員会議事録抜粋 )。

 しかし、参考人の法律の専門家の郷原委員が、「口蹄疫対策で徹底した殺処分をするのは、家畜の健康そのものを守るためなのか、清浄国という一つの評価を維持することの経済的なメリットが重要なのか、何を重視して、どういう目的なのかという基本が明確にされる必要がある」と指摘しているように、第3者が科学的あるいは論理的に検証したものでも分担執筆したものでもなく、リスク管理の当事者である農水省が「最新の科学的知見と国際的動向」を無視した「防疫指針の問題点」の検証を避けて、殺処分を前提にした防疫指針を確実に実行しても29万頭の殺処分が出たとして殺処分の方法に問題点をすり替えた作文になっています。

 防疫対策の目的(口蹄疫の終息)と手段の一つ(殺処分)が逆転しているから、誰もが納得できる科学的な防疫指針からほど遠いものになっています。「最新の科学的知見と国際的動向」を無視しているので、科学的な検討がなされるべき牛豚等疾病小委員会の議事録を公開せず、市民(みやざき・市民オンブズマン)から情報公開請求されても、黒塗りの議事録しか公開できず、口蹄疫対策検証委員からも「殺処分が何を重視して、どういう目的なのかという基本が明確でない」と指摘される状況が生まれているのではないでしょうか。農水省も御用学者も「口蹄疫防疫指針は正しい」という前提で責任を回避しようとしているのでしょう。責任回避のために防疫指針の見直しができないというジレンマに陥っていると思います。

 農水省の責任回避のために防疫指針の見直しをしないので、口蹄疫のワクチンや遺伝子検査に関する最新の科学的知見を無視し、これを利用していかに迅速に初動対応するかも検討されていません。早期発見は個人の責任ではなく、国の防疫体制の責任であるという視点からの検証がなされていないのです
 繰り返し強調したいのですが、口蹄疫ウイルスの遺伝子検査を都府県の家畜保健衛生所の臨床検査に導入し、その検査結果により国の確認検査を実施し、陽性であれば殺処分や移動禁止区域の範囲を決定し、ワクチン接種できる待機態勢に入るなどの具体的措置を決めておく必要があります。最新の科学的知見や国際的動向を無視することは、初動対応の責任を国が放棄し、その責任を生産者に押し付けることと同じです。

 このように29万頭の殺処分という失敗の原因が防疫指針にあることを認めない限り、失敗は繰り返されます。そして、この防疫指針の問題点を指摘しなかった検証委員会報告書に基づいて家畜伝染病予防法と口蹄疫の防疫指針を改定するという悪循環が生まれ、無謬性にこだわる農水省は世界(先進国)で最も遅れた口蹄疫防疫指針を作成してしまいました。この悪循環を断ち切る必要があります。日本の口蹄疫対策は原発対策と同様に、世界が注目していることを忘れてはいけません。

初稿 2012.7.25 更新 2015.1.22 2015.4.5


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