ル・コルドン・ブルー日本校 エグゼクティブ・シェフ ギヨム・シエグレ
来日して印象的だった、昆布と出汁の関係
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「昆布は日本で非常にベーシックな食材。日本料理という文化の根本に、昆布があると感じていました」
昆布をテーマに選んだ理由をそう語るギヨムシェフ。日本では海藻類をよく食べるが、なかでも昆布は特別。醤油などで調味して佃煮や塩昆布としてそのまま食べる一方で日本料理の味の要ともいえる出汁を作るのに使われる。
「私が来日して最も印象深く感じたのが、その出汁でした。日本の蕎麦職人に昆布を使った出汁のとり方を学んだことがありますが、沸騰させない温度の湯に昆布を入れてゆっくり煎じ、味と香りを移していく。完成度の高い手法だと思った」
日本料理の美味しさを土台で支える昆布だからこそ、その味を感じると日本料理を思い出す人も多いだろう。昆布を使ってフランス料理を作ることにシェフが意欲的に取り組んだのも、その解消だった。 「大切にしたのは昆布の味だけが突出しないよう、バランスを図ること。実は、それが最も難しい部分でした」
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香りと旨みをちりばめてフランス料理を創造
シェフの頭に一番に浮かんだのは昆布〆。
淡白な味の白身魚を酒で湿らせた昆布で包み、ひと晩ほど寝かせることで昆布の味と香りを魚に移す、
日本独自の調理法だ。その手法を仔牛のモモ肉で応用した。
「昆布で塊肉を包んで、真空パックで2時間、50℃ほどで加熱しました」。
ロゼ色の肉は、ほのかに昆布の香りと味を感じる仕上がり。
これをサイの目にカットして、同じようにカットした新タマネギ、小さなキュウリのピクルスと合わせ、
刻んだシソも加えてタルタルにした。
味付けはグレープシードオイルやマスタード、卵黄など。
「春をイメージした」とシェフが語る仔牛肉のタルタルの完成だ。
塩昆布を入れたイカスミのチュイルに加え、黄金色のジュレも添えられている。
「ジュレはビーフコンソメがベース。70℃に温めてほんの少しの間、昆布を煎じて軽く香りを移しました。」
食材に対する理解があって初めて新しい料理は誕生
「噛んで美味しいタルタル、トロッととろけるジュレ、
パリッと弾けるチュイル、そうした食感の違いを意識し、
昆布の魅力の引き出し方には、様々な手法を組み合わせることで、重層的な美味しさを作り出した」
どれを食べても見事に昆布を感じるが、フランス料理として成立している点が何とも不思議。
この美味しさの背景には、シェフの卓越した技術がある。
「フランス料理はいろいろな食材を重ね合わせることを大切にしています。
合わせるといっても、ただ混ぜればいいというものでは決してなく、
ひとつひとつの食材を理解して組み合わせることが大事。
日本で教えている私が、日本の食材をしっかりと理解し、
フランス料理に仕立てる。そういう意味でも、
今回は私にとって有意義な機会となりました」