哀歌
百までも生きて欲しいと思えども母の肉体それを許さじ
とうとうとこの日が来たと言うべきか骸(むくろ)となりても母は尊し
母の死を受けとめかねつ白きものそっと払えば大好きな母
安らけき母の寝顔に近づきて「お疲れさん」とそっと告げたり
母上よあなたの命は受け継がれ永久にし生きむ人在る限り
通夜の夜の時の長さは格別で小一時間が無限に長き
火葬場の硬きドア閉む瞬間にふっと抜けたり張りつめたもの
待合いに火葬の終り待つ人のざわめき聞ゆ念仏のごとく
意外にも終はりてみればわが中にどこかほっとす気もなくはなし
骸なき御霊となってわが母は自由に山河を飛行したるや
後悔のなき人生を送れよと遺影の母がしゃべる気のする
母居なき薄日射したる故郷の野辺の彼方に相崎の鼻見ゆ
笑いにも悲しき笑いというものもあるものなりや母の晩年