高血圧
高血圧患者は一般に塩分を控えるべきとされる。しかし、米エモリー大学ロリンス公衆衛生大学院のAbu Mohammed Naser氏らが行った研究で、少量の塩分を含む飲料水を飲む人は、真水を飲む人よりも血圧が低い可能性があることが分かった。同氏らは「飲料水に含まれるナトリウムではなく、カルシウムとマグネシウムが血圧の低下に関連した可能性がある」と指摘している。詳細は「Journal of the American Heart Association」5月7日オンライン版に発表された。
この研究は、飲料水の水源とする地下水や池水に海水が侵入するバングラデシュの沿岸地域の住人を対象に、飲料水の水質が健康にもたらす影響について調べたもの。飲料水に含まれる塩分量が変動する雨季と乾季に、複数の沿岸地域の住民を追跡した2件の研究データを統合し、少量または適度な塩分を含む飲料水を飲んでいる人たちと真水を飲んでいる人たちの血圧値を比較検討した。
その結果、少量の塩分を含む飲料水を飲む人たちでは、真水を飲む人たちに比べて収縮期血圧の平均値は1.55mmHg低く、拡張期血圧の平均値は1.26mmHg低いことが分かった。また、尿検査の結果、血圧値が低かった人たちではカルシウムとマグネシウムの尿中排泄量が多いことも明らかになった。
Naser氏らは、カルシウムとマグネシウムには血圧を下げる働きがあることから、「今回の結果は、飲料水に含まれるカルシウムとマグネシウムによる降圧効果が、ナトリウムによる有害な影響を上回ったことによるのではないか」との見方を示している。
この研究には関与していない米バージニア大学内科教授で、米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)による高血圧ガイドラインの作成に携わったRobert M. Carey氏は「今回のようなわずかな降圧でも、心血管疾患や脳卒中の低減に大きな効果をもたらす可能性がある」と話す。ただ、飲料水にカルシウムやマグネシウムが含まれていたことが血圧の低下をもたらしたかどうかについては、臨床試験で検証する必要があるとしている。
一方、Naser氏は「この結果が裏付けられれば、人口集団全体の血圧を調整することができる」とし、「高血圧になったら生活習慣を是正し、降圧治療を開始するというこれまでの手法とは別のアプローチが可能になる」と説明している。
これまで多くの研究から、カルシウムとマグネシウムはいずれも、血圧を保つのに重要な栄養素であることが明らかになっている。ただ、米国栄養士会(Academy of Nutrition and Dietetics)は、慢性疾患の予防を目的としたビタミンやミネラルのサプリメントの摂取は推奨しておらず、AHAは栄養価の高い食事からこれらの栄養素を取ることを勧めている。
しかし、米国人の多くは1日に必要なミネラルを食事から取れていないのが実情だ。Naser氏は「飲料水にミネラルを加えることは、ミネラル不足の解消につながるかもしれない」と述べている。また、食品中の化学物質はミネラルの吸収を妨げる可能性があるため、「食品よりも水から摂取した方がミネラルの吸収率は高いとも考えられる」と同氏は指摘している。