鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

文透図鍔 古甲冑師 Ko-Katchushi Tsuba

2016-02-02 | 鍔の歴史
文透図鍔 古甲冑師


文透図鍔 古甲冑師

 時代の上がる甲冑師や刀匠鍔に採られる図柄として間々みられるのが、小透や陰透と呼ばれる簡素な花の文様である。家紋として捉えれば、確かにそのようにも見えるのだが、どうだろうか。写真の甲冑師の鍔は大きく巴を描き、茸のような小透と、五弁の唐花を構成したもの。ここでの唐花の文様が問題点。この文は、甲冑工による面頬や籠手などの金具に間々配されている、梅花文、桜文、唐花文などと同じ種の意匠と考えられる。家紋ではなさそうなのだが、かと言って、全く家紋ではありませんとは言い切れない。即ち、このような文様から次第に鐔における家紋図が明確に意識されるようになったのではないだろうか、とも考えている。
 以前に聞かれたことがある。甲冑師鍔や刀匠鍔について、甲冑師や刀匠が造ったものと断定している説明があるも、それは解明されていない。刀匠鍔と分類される作に、刀匠が自らの刀に合わせて製作したという作例があることによって、これらの一部が刀匠鍔と呼ばれているも、同類の総てが刀匠によるものとは考えにくい。分業が行われていて当然だろう。甲冑師鍔についても、構造的に甲冑工の技術が備わっているような、形態的な分類であり、甲冑師が造ったと、どうして断定できるのだろうか。この点は、未だ解明されておらず、近代の分類呼称を、現代も踏襲しているに過ぎない。どのような職人が製作したかという断定は控え、甲冑師の技術を備えているとか、その技術を駆使したとか説明するべきであろう。