鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

剣巻龍図小柄笄 後藤光壽 Mitsunobu-Goto Hutatokoro

2012-08-09 | 鍔の歴史
剣巻龍図小柄笄 (鐔の歴史)



剣巻龍図小柄笄 銘 後藤光壽(花押)

 赤銅地一色の高彫表現になる龍神図は迫力がある。くわっと開いた口で剣を呑み込まんとしている様子を捉えているのだが、口の内部の様子まで描き表わしている。巻きつく胴体のしなやかさと、身体を包む瓦のような鱗は、ザザッというような蛇の鱗の擦れる音とは異なりカラカラと音がしそうな迫力。剣を掴む鋭い爪、宙を刺す鰭、角、触覚まで、何をとっても鋭さが感じられる。

装束図小柄 後藤光壽 Mitsunobu-Goto Kozuka

2012-08-08 | 鍔の歴史
装束図小柄 (鐔の歴史)



装束図小柄 銘 後藤光壽(花押)

 雅楽の楽器、衣文掛けに残された着物など、このような添景とも言いうる素材のみを描き、主人公たる人物を描かずに何らかの暗示的な風景を題に得るという意識と手法は後藤家にまま見られる。留守模様とはちょっと趣が異なり、雅な雰囲気の創出手法であり、感覚的な世界感が鑑賞の要点となろう。
ところが、ここに描かれているのは袖であろうか烏帽子であろうか悩んでいる。袖の図とは言われているが、ちょっと袖とは異なるのではなかろうか。
 赤銅魚子地高彫金色絵に裏板金哺の、頗る伝統的な手法で、用いられている色金の種類も少ない。それでいてこの雅な風情。

鬼やらい(節分)図小柄 光壽 Mitsunobu‐Goto Kozuka

2012-08-06 | 鍔の歴史
鬼やらい(節分)図小柄 (鍔の歴史)



鬼やらい(節分)図小柄 銘 光壽(花押)

 真夏に節分では季節感がずれて、しっくりこないのだが、なんとも面白い図である。投げつけられた豆と逃げる鬼の頗る簡単な図だが、面白味に溢れている。豆の様子、表情がいい。
これら三点だけだが、素銅地を効果的に取り入れていることが分かる。この時代の特徴というわけではなかろう。光壽は後藤仙乗の三男であったが、宗家廉乗の子が若くして没したため、養子として迎えられた技量の高い工である。この時代に台頭した町彫金工には、横谷宗、奈良派の利壽、安親などがあり、芸術性について深く彫り下げられたものであろう。

猿猴捕月図小柄 後藤光壽 Mitutomo-Goto Kozuka

2012-08-04 | 鍔の歴史
猿猴捕月図小柄 (鍔の歴史)



猿猴捕月図小柄 銘 後藤光壽(花押)

 この図も絵師が下絵を描いたものであろうか、あるいは室町時代の古画を手本としたものであろうか。猿の顔などは室町時代の墨絵にあるように丸みを帯びており、体毛は繊細な毛彫。枝先で水に映った月を取ろうとしている猿が愛らしい。水に溺れる烏図と同様に、過ぎたる望みを持たぬことを暗示する、戒めとしての画題である。背景を大胆な波文でうめつくし、月を銀平象嵌で表わしている。


恵比寿図小柄 後藤光壽 Mitsunobu-Goto Kozuka

2012-08-03 | 鍔の歴史
恵比寿図小柄 (鍔の歴史)



恵比寿図小柄 銘 狩野常信以下絵後藤光壽彫之(花押)

 後藤宗家十一代通乗光壽の、ちょっと珍しい作。先にも紹介したが、鯛を釣る恵比寿の図は後藤家に間々見られる。ところがこの小柄は、下絵を御家絵師の木挽町狩野と呼ばれた常信が描いた。常信は狩野永徳の孫で、探幽、尚信没後の江戸狩野派の中心。後藤家にとって江戸時代中期とは、町彫金工が台頭して押され気味の状況でもあり、伝統の技術を守りながらも新たな彫金世界の開拓が要求されていたのである。その状況下、多くの町彫金工が絵師の下絵を作品化していることに対抗したのであろうか、御家彫と御家絵師のコラボを演出したものと思われる。
 大胆な波、写実味を追及した構成と彫口、色絵の巧みな処方など、後藤らしからぬ画面となっている。ところが仔細に観察すると、顔、衣服の表情、平象嵌の手法などに後藤の伝統が窺いとれよう。とにかくこの小柄の存在意義そのものが面白いのである。□

競馬図鐔 廉乗 Renjo-Goto Tsuba

2012-08-02 | 鍔の歴史
競馬図鐔 (鍔の歴史)


競馬図鐔 銘 廉乗作 光孝(花押)

 競馬といえば端午の節句に関わる行事。馬を走らせる二人の姿はもちろん興味深いのだが、その背後で眺める老武士の姿も面白い。馬場に張られた埒の様子。魚子地は砂利の敷かれた馬場にも見える。幔幕の風に揺れる様子。長い塀の続く馬場。桐樹なども添景としている。この桐樹のように、桐紋を意匠している例が、後藤家にまま見られる。

二疋獅子図三所物 後藤光侶 Mitsutomo-Goto Mitokoromono

2012-08-01 | 鍔の歴史
二疋獅子図三所物 (鍔の歴史)


二疋獅子図三所物 銘 後藤光侶(花押)

 後藤の伝統を明確に示した作。這龍図を含めたこのような三所物は、江戸時代の中後期を関係なくして求められたようだ。廉乗の時代はまだまだ桃山文化の影響が残されていたものと思われ、この作でも量感のある高彫の描法などに豪壮さが窺える。様々な図が描かれた時代であるが、なぜにこの獅子図が面白いのだろうか。伝統の図とは言え形骸化しているとも言い換えられる。それでも強く張った胴体や四肢、独特の巻き毛、視線を合わせた阿吽の相など、見ていて飽きない。廉乗の活躍したのは寛文から元禄だから安定した時代であり、殊に町人文化の発達は後藤家にも影響を与えたであろう。他の図には同時代観が窺えるも、獅子図にはやはり伝統があり、それを強く意識していると感じられる。