鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

恵比寿図小柄 後藤光壽 Mitsunobu-Goto Kozuka

2012-08-03 | 鍔の歴史
恵比寿図小柄 (鍔の歴史)



恵比寿図小柄 銘 狩野常信以下絵後藤光壽彫之(花押)

 後藤宗家十一代通乗光壽の、ちょっと珍しい作。先にも紹介したが、鯛を釣る恵比寿の図は後藤家に間々見られる。ところがこの小柄は、下絵を御家絵師の木挽町狩野と呼ばれた常信が描いた。常信は狩野永徳の孫で、探幽、尚信没後の江戸狩野派の中心。後藤家にとって江戸時代中期とは、町彫金工が台頭して押され気味の状況でもあり、伝統の技術を守りながらも新たな彫金世界の開拓が要求されていたのである。その状況下、多くの町彫金工が絵師の下絵を作品化していることに対抗したのであろうか、御家彫と御家絵師のコラボを演出したものと思われる。
 大胆な波、写実味を追及した構成と彫口、色絵の巧みな処方など、後藤らしからぬ画面となっている。ところが仔細に観察すると、顔、衣服の表情、平象嵌の手法などに後藤の伝統が窺いとれよう。とにかくこの小柄の存在意義そのものが面白いのである。□