鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鉄線に虫尽図鐔 七宝象嵌 Shipo Tsuba

2010-07-05 | 
鉄線に虫尽図鐔 七宝象嵌


鉄線に虫尽図鐔 無銘七宝象嵌

 籐を編み込んだ網代塀に鉄線花が蔓を延ばしている様子と、この花に誘われた虫を、鉄地高彫金色絵と七宝象嵌の手法で表現した、色合い美しい作。
 蔓草は唐草文と同様に生命の永遠性を暗示している。装剣金工では、様々な植物が唐草文と複合した文様として表わされており、また、葡萄や瓜などの蔓性の植物も数多く遺されている。これら蔓性植物は藪をつくるほどに成長が著しい例が多く、時に実をつけてひとびとの喉を潤す。花が咲けば目を楽しませてくれるであろうし、生命感とは別にしても絵画に採りたくなる。
 唐草の先端が蕨手状に次々に先端を延ばしてゆく様子は、まさに永遠の生命の視覚化。唐草文の洒落た造形が好まれただけではない。蔓草は夏の象徴。太陽の恵みを実体化しているのである。
 この鐔の鉄線花は、江戸時代中頃から装剣金工にみられるようになることから、江戸時代に入ってからの伝来と思われる。西洋風で特異な花を咲かせることから、唐草文に代わる文様として、江戸時代後期には様々な分野での装飾へと広がったようである。
 鉄線花の立体感と奥行き感のある表現に比して虫の描写は平面的で、滑稽味もある。背景の網代塀が妙なる美しさを生み出している。