鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

瓜図二所 後藤乗真 Goto Joshin Kozuka.Menuki

2010-07-14 | 小柄
瓜図二所 後藤乗真


瓜図二所 無銘後藤乗真

 瓜図の古作。古い時代の装剣小道具に間々見られるように、他の植物と同様、古くは瓜も薬種と見られていた。巻きつく蔓の様子が古典的な彫り風であり、文様風であり、古金工風である。
 極められている後藤乗真(じょうしん)とは、室町時代中頃合い足利家に仕えた後藤祐乗に始まり、二代宗乗の子に当たる後藤宗家の三代目で、活躍期は室町時代末期。将軍家に仕え、混乱の時代も為政者に仕えた武家の名流でもある。それ故、武家としての自らの存在意義を示すため、領地を侵されたことに発する争いには自ら戦に赴いており、戦場に没している。金工としては異色の人物である。
 作風は後藤家中では豪放なところがあり、時に画面をはみ出さんばかりに大きく図採りし、肉高く立体的な彫刻表現を得意とした。後藤家の上三代の銘はなく、ただ一点のみ乗真の銘とされる例があるだけ。
 さてこの瓜図は、表面を金の薄い板で覆うようなうっとりと呼ばれる色絵手法で色金処理するのだが、実は、平常であれば見えない色金の下地にも精巧な彫刻が施されているのである。その下地の彫刻によってうっとり色絵の表面の繊細な筋彫や凹凸が活きてくるもので、技法は高彫色絵とほぼ同じながら、色金が厚いために金の色が冴えるという結果となる。

瓜図鐔 秋田正阿弥 Akitashoami Tsuba

2010-07-13 | 
瓜図鐔 秋田正阿弥


瓜図鐔 無銘秋田正阿弥

 鉄地に高彫金象嵌の作。文様化されているとは言え、葉や実の様子は実体的で、高彫も量感があり、金工作品としての魅力を高めている。金は微妙に色を違えており、
 象嵌の手法は、高彫の表面を金の薄い板で包み込むうっとりと呼ばれる古法に倣ったもの。それ故に金の色が鮮やかである。
 蔓草の伸びる様子は唐草模様を手本としているが、瓜に題を得ている点では近世的と言えようか。そもそも装剣金工の画題の多くは、古くは薬種などが多く、その点では瓜も薬の一種。厚い夏には生命感豊かに蔓を延ばして茂り、時に喉を潤す実をつける。まさに生命の源として眺めたに違いない。

蔓草図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2010-07-12 | 
蔓草図鐔 古金工


蔓草図鐔 無銘古金工

 何とも妙なる鐔。少なくとも桃山時代はあると考えられる。山銅地を肉厚く仕立て、表面に放射状の鑢目を施し、さらに虫食いを想わせる彫り込みを加えて蔓草の背景としている。さらに、裏面の左下に卍文を配しているのだが、所持者の信仰であろうか。
 虫食いの穴から蔓草が伸びていることから、放射状の鑢目が施されている背後は木塀であろう、葉の形は心象化されて文様風ながら蔓に勢いがあり、象嵌の色金も多彩。風景の文様化が行われていることを示している。
 放射状の鑢目はわずかに揺れており、間々見られる日足状でもなく、炭の割れ目状でもなく、何を意図しているのであろうか。卍文は鉤が左右逆に折れており、これも意図が分からない。文様であると断ずるとは、隠された意味が深くて言いきれない。だから面白いのか。

蔦に蟷螂図鐔 庄内金工

2010-07-10 | 
蔦に蟷螂図鐔 庄内金工


蔦に蟷螂図鐔 無銘庄内金工

 自らの何倍もの巨大な存在にさえ鎌を振り上げて立ち向かうという蟷螂を主題とした鐔で、安親が出た庄内金工の作と極められている作。
 打ち捨てられて朽ち果ててゆく車。これに絡み着くように蔓を伸ばす蔦。夏の野の自然の一場面に取材し、美しいという部分もあるが、武士の世の中の終焉を暗示しているようで図柄も興味深い。素銅地に巧みに抑揚をつけ、車を大胆に配し、ここにも鎚の痕を付けている。蔦は色を違えた金、朧銀、赤銅で、花は銀。
 野生のままの蔦は朽ちた車のさらに土に還そうとしている。寂しさと同時に、満ち溢れるような生命を感じさせる作品である。

鉄線図鐔 重親 Shigechika Tsuba

2010-07-09 | 
鉄線図鐔 重親


鉄線図鐔 銘 重親(花押)

 江戸の奈良派の重親(しげちか)であろう、下地を朧銀地の石目地に仕上げ、鐔面、殊に耳を這うように鉄線の蔓を描いている。耳のみに図を施す手法は、吉岡因幡介に間々みられる。美濃の作風を伝承下工による秋草図でも紹介したことがある。これらは拵に装着して図柄が活かされる構成である。蔓と葉は赤銅、花は銀色絵で渋く落ち着いた風情がある。下地が朧銀で、表面に粗い石目が施されており、これによって沈んだ色合いながら花が活きている。派手な色金を用いなくても美しい空間が表現できることを証している。

鉄線図鐔 美濃

2010-07-08 | 
鉄線図鐔 美濃


鉄線図鐔 無銘 美濃

 かつて、古美濃として紹介したことのある鉄線図鐔である。浅学で恥かしいことだが、ここで、訂正させていただく。古美濃ではなく、古美濃の手法を採り入れた、江戸時代初期の作である。極端に深く彫り込み、図の際端を削ぐように切り立つ描線の特徴などから古美濃としたが、鉄線花を調べ直したことにより、この花が寛永頃に伝来したことが分かった。即ち、古美濃と分類できる時代より後の伝来と言うことになる。ただし、桃山文化の影響が残る時代を古美濃の製作時期と同じと見るのであれば、辛うじて寛永頃はその最後の時期に重なる。筆者は、この鐔について、寛永よりはるか時代が上がるという印象で解説していた。訂正してお詫びする。
 江戸時代初期の作といえど、葉を茂らせる蔓草が唐草状に表現された美しい鐔である。漆黒の赤銅地のみを極端な深彫にし、鉄線の蔓が鐔面を這っているかのように高彫表現している。鉄線花は金の色絵。花の端部が磨り減った様子も味わい格別である。□

朝顔図鐔 宣政 Nobumasa Tsuba

2010-07-07 | 
朝顔図鐔 宣政


① 朝顔図鐔 銘 長州萩住埋忠善左衛門尉宣政作


② 朝顔図鐔 銘 長門萩住河治友富作

 長州鐔工は、江戸の伊藤派に学び、鉄地を専らとして正確で精巧な彫刻表現になる植物図を得意とした。①の鐔もその手であり、大きく開いた花と葉を蔓で繋いだ、唐草を想わせる構成。彫刻は薄く彫り込んだ鋤彫だが、彫り口精巧で立体感に溢れている。
 朝顔は江戸時代中頃に栽培としての大流行をみる。それまでは装剣金工には図として採られた例は少ない。このような栽培の流行は別として、蔓草が日に日に成長してゆく様子は生命の象徴でもあり、蔓草そのものは古くから図としても好まれたものである。
 ②も同じ長州鐔工河治友富の作。竹垣を這う朝顔の蔓が、ここでは洒落た景色の一部として採られており、古典的な蔓草の生命感といった視点は抑えられているようだ。これも鋤下彫で肉彫地透として、金象嵌を散している。左下の斜に切った部分も画面の変化を与え、しかも安定感と強さを生じさせている。

朝顔図小柄 七宝螺鈿象嵌 Shipo・Raden Kozuka

2010-07-06 | 小柄
朝顔図小柄 七宝螺鈿象嵌


朝顔図小柄 無銘

 蔓を延ばす朝顔と、これに誘われてきた蝶を、愛らしく表現した小柄。江戸時代後期の作であろう、作者は不詳ながら、これも平田派の作か。
 蔓は赤銅魚子地の高彫に金の色絵、葉を赤銅と金の色絵で斑に描き、花に青貝を象嵌(螺鈿・らでん)している。青貝とは言え、青味は弱く、貝殻の持つ柔らか味が感じられる。強い青や虹色を呈する鮮烈なまでの青貝より質素で優しく好感がもてる。対して蝶は色使いが鮮烈。これでもかという感じがある。斜に切る竹の線が画面を引締めていて、構成の巧みさも窺いとれる。

鉄線に虫尽図鐔 七宝象嵌 Shipo Tsuba

2010-07-05 | 
鉄線に虫尽図鐔 七宝象嵌


鉄線に虫尽図鐔 無銘七宝象嵌

 籐を編み込んだ網代塀に鉄線花が蔓を延ばしている様子と、この花に誘われた虫を、鉄地高彫金色絵と七宝象嵌の手法で表現した、色合い美しい作。
 蔓草は唐草文と同様に生命の永遠性を暗示している。装剣金工では、様々な植物が唐草文と複合した文様として表わされており、また、葡萄や瓜などの蔓性の植物も数多く遺されている。これら蔓性植物は藪をつくるほどに成長が著しい例が多く、時に実をつけてひとびとの喉を潤す。花が咲けば目を楽しませてくれるであろうし、生命感とは別にしても絵画に採りたくなる。
 唐草の先端が蕨手状に次々に先端を延ばしてゆく様子は、まさに永遠の生命の視覚化。唐草文の洒落た造形が好まれただけではない。蔓草は夏の象徴。太陽の恵みを実体化しているのである。
 この鐔の鉄線花は、江戸時代中頃から装剣金工にみられるようになることから、江戸時代に入ってからの伝来と思われる。西洋風で特異な花を咲かせることから、唐草文に代わる文様として、江戸時代後期には様々な分野での装飾へと広がったようである。
 鉄線花の立体感と奥行き感のある表現に比して虫の描写は平面的で、滑稽味もある。背景の網代塀が妙なる美しさを生み出している。

茄子に蜂図小柄 七宝

2010-07-04 | 小柄
茄子に蜂図小柄 七宝


茄子に蜂図小柄 無銘


 茄子の色調は茄子紺とも言われるように独特である。その色合いを見事に表わした作。深く沈むような色調は、かすかに透明感があり、金線によって実在感が際立つ。葉は七宝の木曽でもある透明な緑色だが、わずかに色調にグラデーションをつけている。花は金の縁にごく淡い紫を交えた白。これに誘われてきた蜂は金と素銅の高彫象嵌。
 何て素敵な自然の小景を捉えたものであろうか。装剣小道具の文化の広がりを強く感じさせる作である。

勝虫図鐔 七宝象嵌 Shipo Tsuba

2010-07-03 | 
勝虫図鐔 七宝象嵌


勝虫図鐔 無銘七宝象嵌

 おそらく武州鐔工が下地を製作し、平田家あるいは平田家に学んだ工が七宝を象嵌した作例。
 色合いの鮮やかな七宝象嵌と言えば平田家を思い浮かべるが、平田以外にも七宝が行われていたことは、このシリーズでも何点か紹介しているので理解できると思うが、さて、どれ程広く行われていたものであろうか、正確なところは把握できない。一般には平田として扱われている作品の中にもそれ以外の作になるものがあると、広く考えておくべきであろう。
 鉄味は鍛え強く鍛え肌が現われており、この素材も魅力。勝虫と呼ばれる蜻蛉との調和も図られている。色鮮やかな七宝と素銅、赤銅、銀の平象嵌の組み合わせも美しい。

杜若に蝶図小柄 平田 Hirata Kozuka

2010-07-02 | 小柄
杜若に蝶図小柄 平田


杜若に蝶図小柄 無銘平田

 現代美術として紹介しても何らおかしくはない、優れた構成美になる小柄。金線七宝は線描と平面の組み合わせであり、この小柄は殊に軽やかな表現。緑の七宝は透明感が強く、その明るさを高めるために七宝に背後を明るい金属で補っており、その効果も頗る高い。杜若の紫色も美しく上品。多彩な色を組み合わせた蝶の翅がことに軽やか。いずれも七宝の中に小さな円を構成し、その部分の色を違えているのも見どころ。七宝の完成からさらに時を経て美の展開が図られている江戸時代後期の作。

蓮花図小柄 平田 Hirata Kozuka

2010-07-01 | 小柄
蓮花図小柄 平田


蓮花図小柄 無銘平田

 上品な構成になる、蓮の花と葉を題に得た小柄。茎を結んだ演出が優れている。もちろん色調の美しさは格別。上質の翡翠のように透明で深い緑色が基調となっており、これに斑に黄褐色が配されている。この色調の組み合わせと色斑が何とも美しい。花は鮮やかなピンクを含んだ橙色で、宝石のような味わい。