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ジャニエンファロン



ジャニエンファロンは、白亜紀前期(義県層Yixian Formation)に中国遼寧省に生息したトロオドン類で、2017年に記載された。
 ジュラ紀中期から後期と白亜紀前期の遼寧省西部および近隣地域からは、多数の小型羽毛恐竜の化石が産出している。そのうちトロオドン類としては、これまでにアプチアンのYixian Formationからシノヴェナトル、メイ、シヌソナスス、オーテリヴィアンのDabeigou/Dadianzi Formationからジンフェンゴプテリクス、オックスフォーディアンのTiaojishan Formationからアンキオルニス、シャオティンギア、エオシノプテリクスが報告されている。特に後の4種類は羽毛の痕跡が残っているので、トロオドン類に羽毛があった証拠となっているが、最近のいくつかの系統研究では、これらはトロオドン類には含まれないという結果も出ている。
 ジャニエンファロンのホロタイプ標本は、羽毛の跡を含むほとんど完全な全身骨格で、系統解析の結果、シノヴェナトルなどの基盤的な種類とザナバザルのような派生的な種類の中間の、移行的なtransitionalトロオドン類となった。つまり確実にトロオドン類であるもので羽毛の存在が確認されたわけである。ジャニエンファロンは始祖鳥やアンキオルニスなどと同様に、前肢と後肢に長い羽毛、尾に放射状に分かれた羽毛をもっていた。このことから、このような羽毛のパターンは基盤的なパラヴェス類に広く存在していたことがわかった。
 また非対称な羽毛は飛行能力と関連付けられ、これまでアヴィアラエ以外ではドロマエオサウルス科のミクロラプトル類にしか知られていなかったが、ジャニエンファロンの尾には非対称な羽毛がみられた。このことから羽毛の非対称性の起源はパラヴェス類にまでさかのぼると考えられた。
 
ジャニエンファロンのホロタイプ標本は成体と考えられ、保存された骨格の全長が約100 cm、尾の先端まで復元すると全長112 cm、体重は2.4 kgと推定された。 これは遼寧省の他のトロオドン類とあまり変わらない大きさである。メイなどと同様に比較的吻の短いトロオドン類で、特徴のいくつかは顔の短さからきているようだ。頭骨はつぶれていて前上顎骨は失われ、前頭骨は背腹が裏返っているが、ほとんどの骨が比較的よく保存されている。
 他のトロオドン類と識別されるジャニエンファロンの特徴は、上顎骨の前方突起が三角形で丈が高い、上顎骨の上行突起(後背方突起)が高い角度(腹側縁に対して45°)で後背方にのびている、涙骨の下行突起(腹側突起)が長く、前方突起と同じくらいの長さである、涙骨の下行突起の前縁に顕著な稜がある、上角骨の後端近くで背側にはっきりした窪みがある、軸椎の神経棘の後背方部が後方に強く膨らんでいる、手の指骨II-1 が長く、顕著な基部腹側のヒールをもつ、手の指骨II-1の内側面の半分以上に大きな溝がある、などである。(Xu は獣脚類の手の3本指をII, III, IVと表記する。)

確かにすばらしい頭骨であるが、どの辺がトロオドン類なのだろうか。ドロマエオサウルス類でもアヴィアラエでもコンプソグナトゥス類でもなく、トロオドン類といえる決め手は何なのか、に興味がある。
 ジャニエンファロンはトロオドン類の共有派生形質と考えられる多くの特徴をもつ。それらは、涙骨の前方突起が長く、前眼窩窓の前端を超えて前方にのびる(ジャニエンファロンでは骨が外れているが)、涙骨の下行突起の上に側方フランジlateral flangeがある、鼻骨の側方縁にそって一列の孔がある、前頭骨の後眼窩骨突起が眼窩の縁からなめらかに移行している、歯骨が側面から見て三角形である、歯骨の外側面に前方で狭く後方で広い溝がある、角骨の前方突起が強くカーブし外側下顎窓から歯骨を排除している、比較的多数の歯(歯骨歯で25以上)、歯列の不均一な分布、異歯性の歯列、などであるという。この中では歯骨や歯列がわかりやすい気がする。


遼寧省の熱河層群のトロオドン類の中では、ジャニエンファロンとシヌソナススが、メイやシノヴェナトルよりも派生的であり、進化したトロオドン類にみられる多くの形質をもつ。つまり熱河層群のトロオドン類の中にも多様性がみられる。
 ジャニエンファロンの骨格には原始的な特徴と派生的な特徴がモザイク状に入り混じっているが、これらの特徴はランダムではなく、体の部分ごとにまとまっている傾向があることがわかった。他のトロオドン類と形態学的特徴を比較してみると、ジャニエンファロンでは前肢と腰帯の特徴は基盤的なトロオドン類と似ているが、頭骨と後肢の特徴は派生的なトロオドン類と似ているという。例えば、手が長い、手の指骨III-2 が長い、恥骨が後腹方を向く、などは基盤的な特徴である。
 一方、シヌソナススも中間的なトロオドン類であり原始的な特徴と派生的な特徴が混じっているが、シヌソナススでは頭骨の特徴は基盤的なトロオドン類と似ており、腰帯と後肢は派生的なトロオドン類と似ているという。例えば、恥骨が前腹方を向く、中足骨がアルクトメタターサルなどである。


参考文献
Xu, X. et al. Mosaic evolution in an asymmetrically feathered troodontid dinosaur with transitional features. Nat. Commun. 8, 14972 doi: 10.1038/ ncomms14972 (2017).
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アンキオルニスの体の輪郭


すでに多くの研究がなされているアンキオルニスですが、今度は骨格や羽毛ではなく、体の軟組織の外形(輪郭)を解析した仕事が報告されています。
 レーザー励起蛍光法という技術がポイントです。鉱物の結晶中に含まれる有機物や無機物の不純物の組成によって、特定波長のレーザーを照射したときに異なる蛍光を発するようです。この方法を保存の良いアンキオルニスの標本に用いて、体の外形を明らかにしています。

結論として得られた体の輪郭は意外なものではないですが、これまでの骨格や羽毛の形態と、現生種との系統的な比較 extant phylogenetic bracketing からの推定を裏付けた、といっています。この復元図にはScott Hartmann が活躍していて、論文の共著者に入っています。

前肢では、肘の前方あたりにpropatagium (前飛膜、前膜)があることが四翼恐竜で初めて示されました。ここには雨覆羽の突起の痕が等間隔に並んでいるが、現生鳥類のように分化して特徴的な配列パターンをしてはいない。propatagiumは、鳥類では翼の前縁で揚力の発生に関わる機能をもっているが、アンキオルニスでも同様に滑空などの飛行機能に役立っていたかもしれない。ただし、propatagiumは明らかに飛べない平胸類やオヴィラプトロサウリア(カウディプテリクス)にもみられるそうです。

後肢では、ふくらはぎの部分が鳥類と同様にドラムスティック状をしているのが確認された。また恥骨のpubic bootの先端に軟骨らしい痕があり、さらに外側にpubic callosity (恥骨だこ)らしい組織があった。これは座った時に体を支えるのに役立つということです。

足の指の腹側には鳥類と似たfoot pad (toe pad) があり、細かい小石状の鱗で覆われていた。

尾の輪郭はスレンダーで、尾椎の形と対応している。尾の付け根の部分もわりと細めで、アンキオルニスには大きな尾大腿筋はなかったことがわかる。このことから、後肢と尾を独立して動かすことができ、飛行機能に役立ったかもしれないということです。

オープンアクセスなので全文が読めます。

参考文献
Wang, X. et al. Basal paravian functional anatomy illuminated by high-detail body outline. Nat. Commun. 8, 14576 doi: 10.1038/ncomms14576 (2017).

http://www.nature.com/articles/ncomms14576
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タロス




タロスは、白亜紀後期カンパニア期に米国ユタ州に生息したトロオドン類で、2011年に記載された。
 ここ10年ほどの間に、アジアでは多数のトロオドン類が発見され、14種が記載されている。一方、北アメリカのトロオドン類は十分な化石資料にもとづくものが少なく、白亜紀後期で確実なのはトロオドンTroodon formosus一種のみとされている。
 今回著者らは、ユタ州のKaiparowits Formationから発掘された新属新種のトロオドン類としてタロス・サンプソニTalos sampsoniを記載した。骨の比較観察から、タロスはトロオドンよりも小型の、華奢な体型のトロオドン類と推定された。系統解析の結果、タロスはトロオドン科の中でも、白亜紀最後期の派生的なグループ(トロオドン、サウロルニトイデス、ザナバザルを含む)に属すると考えられた。またマイクロCTスキャンによる検査で、後肢の第2趾の指骨に、物理的損傷と感染症による病理学的改築の痕跡がみられた。
 特異的なトロオドン類タロスの発見により、Kaiparowits Formationの恐竜相の独自性が補強された。この層からは、新種の角竜ユタケラトプスとコスモケラトプス、ハドロサウルス類グリポサウルス、ティラノサウルス類テラトフォネウス、オヴィラプトロサウルス類ハグリプスなどが発見されている。

 完模式標本は胴体の部分骨格で、断片的な胴椎、仙椎、尾椎、尺骨と前肢の断片、腰帯、後肢などからなる。頭骨は見つかっていない。
 タロスに固有の特徴は、距骨や中足骨の細かい形質で表現されている。距骨のlateral condyle と ascending processの間の切れ込みnotchがあまり発達していない、距骨のintercondylar bridgeが強くくびれている、距骨のproximal grooveが広くV字形である、第3中足骨の背側面に顕著な丸い隆起tabがある、などの形質をもつトロオドン類とされている。

 タロスの中足骨は、アルクトメタターサルで非対称という典型的なトロオドン類の特徴を示すが、トロオドンに比べてほっそりしている。定量的に比較するため、第2中足骨と第4中足骨について、長さと前後幅または左右幅の比率を、トロオドンの若い個体を含む小型から大型の標本とタロスで比較した。その結果、第2中足骨の前後幅/長さ、左右幅/長さ、第4中足骨の前後幅/長さにおいて、タロスの数値はトロオドンの回帰直線よりも下に位置した。つまりタロスの中足骨は、同じ大きさのトロオドンと比べても細長いということである。


 命名は気が利いていて、タロスとは神話上のクレタ島の守護神で、俊足で知られたが、足首の負傷で死亡した(死ぬのか?)というエピソードに基づく。またtalonという英語にはカギ爪という意味があるので、これもかけているという。
 タロスの模式標本では、後肢の第2趾の第1指骨(-1)に骨折が治癒した跡がある。マイクロCTで見ると、本来の骨の輪郭の外側に、緻密骨が増殖して衣をつけたように外側を覆い、骨が太くなっていることがわかった。鎌状のカギ爪は捕食行動や種内の闘争に用いられたと考えられるので、この部分が物理的に損傷するのは不思議ではない。またこのように骨の再構築が進行するには数週間から数ヶ月かかると思われることから、第2趾は歩行には使われなかったという足跡の証拠とも一致するとしている。

参考文献
Zanno LE, Varricchio DJ, O’Connor PM, Titus AL, Knell MJ (2011) A New Troodontid Theropod, Talos sampsoni gen. et sp. nov., from the Upper Cretaceous Western Interior Basin of North America. PLoS ONE 6(9): e24487. doi: 10.1371/journal.pone.0024487




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サウロルニトイデス1


 多くのトロオドン類は、歯冠と歯根の間がくびれた形の歯に、先端側を向いた大きな鋸歯をもつ。これはトロオドン科の特徴の一つとされてきた。しかし最近では、トロオドン科の中には鋸歯をもつものと鋸歯をもたないものがあることがわかってきたようである。トロオドン科の中でもビロノサウルス、メイ、さらに最近報告されたウズベキスタンのウルバコドンの歯には鋸歯がない。また最も原始的なシノヴェナトルは、ドロマエオサウルス類にみられるような小さな鋸歯をもつ。これらのことから、大きな鋸歯をもつことは、トロオドン科の共有派生形質ではなく、トロオドン科の中の一部のグループの共有派生形質と考えられるようになった。
 また典型的なトロオドン類の中足骨はアルクトメタターサルであり、第2中足骨が第3、第4中足骨より明らかに短く,また細く,第4中足骨が最も太いという非対称性をもつこともわかりやすい特徴であるが、ある程度の非対称性は基盤的なドロマエオサウルス類であるミクロラプトルやシノルニトサウルスにもみられるという。また最も基盤的なトロオドン類であるシノヴェナトルの中足骨はアルクトメタターサルではない。
 そこで最近ではトロオドン科の共有派生形質として、下顎の歯骨の側面に一本の水平な溝があり、その中に神経血管孔が並んでいること、底蝶形骨の陥凹がないこと、左右の鼻孔の間の部分internarial barが背腹に扁平であること、下顎(歯骨)の前端部の歯が密集して生えていて、歯槽が互いに融合してひとつながりの溝になっていること、歯の数が多いこと、などが挙げられる。

 サウロルニトイデスはトロオドンと共に、進化した大型のトロオドン類で、白亜紀後期カンパニア期からマーストリヒト期にアジア(モンゴル、中国)に生息した。サウロルニトイデスとトロオドンでは、歯骨の前端が内側に屈曲してU字型の下顎結合をなす。ただし両者は歯の形態が異なっている。トロオドンの上顎骨歯や前方の歯骨歯では、一本の歯の前縁にも後縁にも鋸歯がある。それに対してサウロルニトイデスの上顎骨歯や歯骨歯では、歯の前縁には鋸歯がなく、後縁のみにある。(前上顎骨歯については、鋸歯のある全てのトロオドン類で歯の前縁にも後縁にも鋸歯がある。)

参考文献
Xu, X., M. A. Norell, X.-L. Wang, P. J. Makovicky, and X.-C. Wu. 2002. A basal troodontid from the Early Cretaceous of China. Nature 415:780-784.

Makovicky, P. J., M. A. Norell, J. M. Clark, and T. Rowe. 2003. Osteology and relationships of Byronosaurus jaffei (Theropoda: Troodontidae). American Museum Novitates 3402:1-32.

Makovicky, P. J., and M. A. Norell. 2004. Troodontidae; pp. 184-195 in D. B. Weishampel, P. Dodson, and H. Osmolska (eds.), The Dinosauria. Second Edition. University of California Press, Berkeley.

Averianov, A. O., and H-D. Sues. 2007. A new troodontid (Dinosauria: Theropoda) from the Cenomanian of Uzbekistan, with a review of troodontid records from the territories of the former Soviet Union. Journal of Vertebrate Paleontology 27:87-98.
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