tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

愛は奇跡(5)

2007-01-30 22:26:00 | 日記
1997年にピピンがオードリーをフリー・ダイビングに誘うと、彼女はたちまち夢中になった。彼は大気よりも800倍も密度の高い水圧下でいかに耐えるか、肺の中の二酸化炭素を減らして酸素をいかに満たすのか、エネルギー消費の最も少ないトランス状態に身と心をいかに持っていくか、潜るにつれて鼓膜にかかる水圧をいかに等圧にするかなどを彼女に教えた。彼女は、生まれながらのダイバーだった。ほとんど努力しなくてもそれらのことをマスターできた。そして、彼の潜水世界記録を抜くのは時間の問題に思われた。
一般に、素潜りに必要な息こらえには性別による優位はない。優秀なダイバーは、いかに肺の中の酸素を効率よく消費するかにかかっている。だから、筋骨隆々で肺活量の大きなタフガイが有利であるとは限らず、華奢な体つきの肺活量の小さい女性の方が息が長く続くことがある。日本の海女さんなどはその典型だ。
肺の中の酸素の燃費は、車の燃料の燃費と似ている。高速でエンジンを回せば、ガソリンが無駄に消費されるように、心臓の鼓動が早いと肺に送られる血液量が増大する。肺に蓄えられた呼気中の酸素は、肺胞に達する。肺胞表面の細胞とそれを取り巻く毛細血管は、ともにそれぞれ細胞1個分の厚みしかなく、互いに密接している。壁の厚みは平均約1マイクロメートル(1万分の1センチメートル)であり、酸素はこの空気と血液の間の壁をすばやく通り抜け、毛細血管の血液中へ入る。酸素が壁を通り抜けるのを物理学では拡散現象と呼ぶ。同様に、血液中の二酸化炭素は拡散により肺胞へ入り、その後呼気として肺呼吸により体外へ排出される。酸素の拡散速度は、物理的な性質なので個人差はない。したがって、鼓動が少なく血流があまりなければ、肺の中に蓄えられた酸素はそれほど消費しないことになる。すなわち、最小のエネルギーで効率よく潜りを行えば、息が長続きすることになる。男女の差はない訳だ。

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