



10月24日(月)から28日(金)までの1週間は、日本に一時帰国した同僚の授業分(8時間)を代行したり、10月中旬の息子の結婚式に一時帰国した際の振替授業(2時間)をしたり、卒業論文のゼミ指導(2時間)が入ったりしたので、合計24時間の授業を行った。大学での週に20時間越えはなかなか疲れる。そのための授業準備も膨大な時間を要することとなった。
その週の土曜日の朝、アパート近くの福建師範大学内で、「福州市外国人教員セミナー」への前々日の急な動員参加依頼があったため、師範大学正門で福州市教育庁手配の送迎車を待つ。待つこと1時間、車が現れない。師範大学の正門付近では、子供達の太極拳教室が開かれていた。中国独特の「瓢箪笛」をおじいさんが演奏していた。女子学生が演奏を撮影しながら熱心に聞き入っていた。電話で「迎えの車が来ない」ことを関係機関に連絡したら、別の大学の日本人教員を氏名確認しないまま、私と勘違いして発車していたようだった。授業準備の仕事がたまっていたので、これ幸いにとアパートに戻り仕事を始めることとした。






中国では、交通機関の時間を守って運行するという観念がものすごく希薄である。ソビエト(ロシア)、アメリカに次いで、宇宙ステーションを作り、第三の「宇宙大国」になろうとしている中国。ロケットを正確に打ち上げる宇宙開発の数秒の誤差もない技術は優れたものがあるのだろうが、国民の生活に密着した交通機関の運行時間システムの管理技術や順守観念は、かなりお粗末なものだと感じている。
新幹線の海外売り込みで、日本と中国は競争関係にある。この数年では、インドネシアでは、中国が売り込みに成功し、インドでは日本が受注に成功している。中国の売りは「低価格」、日本の売りは「技術力」という側面が強いようだが、「運行時間管理技術能力のhow to」比較では、中国と日本では話にならない。
10月31日(月)、立命館大学大学院に留学している林さんからの依頼で、中国の伝統楽器「二胡(にこ)」を受け取りに彼女の故郷「尤渓」に新幹線で行くことになった。二胡を受け取り、林さんの父と食事をとり、 また新幹線を利用して福州に戻る予定だった。
福州発10:49の新幹線に乗車予定。発車20分前には、すでに大勢の人が改札口に並んで改札を待つ。中国の新幹線は、発車10分前にならないと「改札口」を開けないので、大勢の人が並んで今か今かと待つことになる。「発車10分遅れの表示」が出た。しばらくすると「15分遅れの表示」、次に「20分遅れの表示」、そして「30分遅れの表示」。またまた「50分遅れの表示」。この間、なぜ発車が遅れるのかの説明は一切無し。「遅れが生じてすみません」のアナウンスももちろん無いのが中国式。こんなことに慣れていて文句を言わない人々というのも中国式。
60分遅れで発車することになったようで、ようやく改札口での新幹線チケットの改札が発車10分前に始まった。たった10分で何百人という人々がチケット検査機を通過し、プラットホームに行き、乗り込まなければならないのも中国新幹線の日常的な風景だ。多くの人がなだれ込むように階段を下りてプラットホームに向かい、新幹線に滑り込むようにして乗り込む。危険極まりない、いつもの新幹線の乗車風景。こんな遅れはしょっちゅうである。
1時間遅れの12時50分に尤渓駅に到着。駅の外で林さんのお父さんから二胡や二胡の本、薬草などを受け取り、予約してあった13時20分発の新幹線に乗車し、トンボ帰りで福州に戻った。
市内公共バスは、どこの都市に行っても時刻表は一切ない。ひたすらバスが来るのを待つ。数多くのバスがひっきりなしにバス停にくるが、目的のバスの番号が遠方から来るのを めざとく見つけて、そのバスが停まったところに 走って乗る。少しでも遅れたら 置き去りにされる。また、バスの始発時間というのも、10〜15分程度は遅れるのも日常的。バスに乗るのは、多大なストレスを伴う中国社会。(※バスや新幹線の乗車運賃は、中国政府の国策で 非常に低く抑えられている。市内バスは1元~2元[17円~34円]、新幹線は京都-名古屋間の距離ならば50元[750円]ほどである。)






11月5日(土)の飛行機で日本に一時帰国することになった。14日(月)に中国に再び戻る予定。11月上旬は、各大学では3日間程度の体育祭(運動会)シーズン。大学の授業も休講期間となり、まとまった休みがとれた。帰国時の授業の振替授業は、すでに帰国前の週に実施。日本に帰国して、妻の兄の娘の結婚式に参加する予定もあった。
帰国の飛行機乗車に関して、非常な心配事があった。林さんからの「二胡を日本に運んでほしい」との依頼の件である。10月下旬、福建師範大学の日本人教員の亀山さんがアパートに泊まった際に、「私の知り合いの人が 上海の空港で 二胡を日本に運ぼうとしたが 『ワシントン条約』の動植物保護国際法にひっかかって飛行機への預入荷物や機内持ち込み荷物として許可されませんでした。」という話を聞いたからだ。
インターネットで調べたら、やはり飛行機での二胡の持ち込みは難しいようだった。二胡には、「ニシキヘビの皮」が一部張り付けられてある楽器であるからだ。また、バイオリンのような小型の楽器の大きさならば機内持ち込みができるようだが、二胡のように長い楽器は長さ制限で持ち込みが難しいこともわかった。
林さんは二胡の演奏がけっこうできるので、日本留学中に日本人との交流でいろいろ役にたつのではないかと思うのでなんとか持って帰ってあげたかったが、彼女に「二胡は持ち帰れないかもしれない」と連絡をした。どうしたらいいか いろいろ考えた末に、福建師範大学の学生(趙 君)に、一緒に空港まで来てもらうことを 事情を話して依頼した。もし、許可されなかったたら 彼に 二胡を預かってもらうことにした。ダメ元で二胡と共に空港に向かった。
空港に着き、第一番目の関門・「チケットカウンター」に向かう。入り口で趙君は「ここからは入れません。」と告げられた。一人でチケットカウンターに向かい、「二胡を機内に持ち込んでもいいですか。」と聞く。30秒間ほどの空港職員が相談した結果、「許可します。」との回答に安堵する。次に出国検査を受け、第二番目の関門・「機内荷物検査場」に行く。ここでも許可された。空港ロビーで待っていてくれた趙君に「二胡は無事に通過」の連絡をし、帰ってもらってもいいことを告げお礼を言った。
日本帰国に際して、立命館大学大学院にこの9月末から留学している李君からも荷物を頼まれた。「先生、私の故郷から先生に荷物を送ります。荷物は靴2足、干しシイタケ、干し薬草、本2冊、ノート2冊です。これを 日本への帰国の際に持って帰ってくれませんか。」ということだった。林さんからの依頼荷物は二胡の他に「二胡の楽譜本や中国の漢方薬」もあった。
今回、日本帰国で利用する航空会社は「中国春秋航空」の福州-関空の直行便。「春秋航空」は価格が安いことで有名だが、機内預入荷物と機内持ち込み荷物の合計が15kgまでと荷物制限が他の航空会社に比べて超厳しい航空会社でもある。(※他社は、機内預入荷物が23kg以内が2個までの合計46kg/機内持ち込み荷物は大きかったり 二胡のように長いものでない限り、特に制限はあまりない)
第三番目の関門「搭乗口」に着く。12:20分の出発予定なので、1時間あまり時間待ちをする。出発30分前に、「20分間の出発遅れ」と表示される。まだ、飛行機は到着している様子がないが、20分後に出発できるのかなあと思いながら待っていると、「1時間の出発遅れ」と表示される。そして 「3時間30分遅れ」の表示に突然切り替わる。中国では、新幹線だけでなく飛行機の遅れも日常的だ。遅れの原因説明も「遅れていて申し訳ありません」の言葉も一切ないのも中国式。
ようやく、4時間の出発遅れで 第三番目の「搭乗口」荷物チェックを通過し、飛行機に二胡と共に乗り込むことができた。後は、第四番目の関西国際空港での入国荷物検査を通過すれば 無事に「二胡の日本への運び込み」が成功することととなる。春秋航空の飛行機に初めて乗った。料金が安いだけあって、席がものすごく狭かった。席のシートを少し倒すことができない座席なので、眠ることが難しい。機内食は出なかった。食べたい客は、お金を出して注文するというシステムだった。機内の座席数は、他の航空会社の飛行機の1.5倍くらいもあった。さすが、台風の影響で 他の会社は運行を見合わせても 春秋航空は飛ぶという航空会社だけあるなあと感心もした。
関西国際空港に到着し、二胡も無事に通過。林さんに「二胡を持ち帰れた」ことを連絡。午後6時の帰宅予定が1午後10時すぎになった。かなり気を使って、体も心も疲れ 日本帰国となった11月5日だった。
私の荷物で持ち帰ったのは、パソコンと少しの衣類だけになった。