彦四郎の中国生活

中国滞在記

コロナ19を巡る現状、中国政府は最大限の努力―解雇と社会不安も―言論の統制も強め始める

2020-02-22 07:51:34 | 滞在記

 新型コロナウイルス感染による肺炎(COVID19・コビッド19)が拡大する中国。2月21日(金)に中国政府が公式発表した感染者数などは7万5997人、死亡者数2239人。①特に感染者数が多いのは武漢市などのある湖北省、②次に感染者数が多いレベルの省は、河南省・湖南省・浙江省・広東省、③そして、その次に感染者数が多いレベルの省は、山東省・江蘇省・安徽省・江西省・四川省、重慶市(政令指定特別都市)。中国に30ほどある省や4つの特別指定都市(北京・上海・重慶・天津)のうちの1/4ほどにあたる。

 すでに100近くの都市が「都市封鎖(管理型が多い)」が行われており、このためこれらの都市に住む中国の人口の約半数にあたる7億人以上が移動を制限される生活となっている。福建省は上記の1/4の省ではないが、私が暮らす福建省福州市も都市封鎖がされている。2月20日での福建省の感染者数は293人・治癒者数は134人・死亡1人で合計428人。福州市は感染者数71人・治癒者数36人で合計105人と発表されていた。

 日本でも感染者数が全国的に増え始めている。昨日の感染者数は国内102人・クルーズ船638人の合計740人と発表された。韓国ではここ数日で感染者数が激増し156人(国内)と発表された。国内感染者数としては中国に次いで多い。日本や韓国もそうだが、シンガポール(85人)やタイ(35人)も春節時期の中国人観光客が多い国だった。

 今、中国で暮らすということは ものすごく大変なことだろうと思う。中国では、住宅団地であれアパートであれ 住民が暮らすところには必ず その地区やエリアの門があり守衛が常駐している。私が暮らす団地アパートもそうだ。普段はいちいち出入りのチェックを受けることはないが、このような社会状況ではチェックは厳重になるだろう。門を出て近所に食料の買い物など行くのも制限されている。また、食堂やレストランなども多くが閉店している店が多いようだ。

 食料など、日常生活に欠かせない物を手に入れるために、居住する「社区」(※アパートや団地や住居地区などの自治会)の共産党委員会に注文した物を申請し、委員会が商店やスーパーからの配達物を一括管理。委員会からの連絡を受けて、注文した物を受け取る。支払いは自分が注文した店に携帯アプリで支払うということが、まだ比較的管理がゆるやかともいわれる管理型封鎖都市(福州市もこの型)でも始まってきている。まず、毎日の食事を確保するだけでも大変だ。ましてや、私のような中国語会話があまりできず、携帯アプリ使用の苦手な老人の外国人は はたして暮らしていけるだろうか。その困難さは想像するだけでも目まいがしそうだ。

 中国の現金紙幣は湖北省では回収されて消毒が行われているとも聞く。濃厚接触や飛沫感染より広範囲な空気(空間)に感染するとされるエアロゾル感染の可能性を中国政府は公式にその可能性を認めて発表した。通勤のためにバスに乗ることもとても危険な状況だが、一度乗り換えて1時間半近くかかる大学まで通勤するためにはしかたがない。ちなみに、中国ではマスクをしていない人は乗車拒否をされているようだが、なかなかマスクの入手は困難をきわめているようだ。中国では、マスクの購入は超難関だが、最近では日本のマスクの値段の10倍の値がつくとも聞く。

 新型コロナウイルス感染拡大が爆発的に起こるまでの1月20日までは、中国の小中高校では2月10日(月)から、2学期の授業を開始する予定だったところがほとんどだったが、大学も含めて2学期の開始を大幅に遅らせている。開学のめどもまだたっていないところがほとんどだ。そんな中、受験があと3カ月半後あまりにせまってきた中学や高校では 2月17日(月)からインターネットを使ったON-LINE授業を始めてきている学校も多くなってきている。

 中国では、農村などの地方から都会へ働きにきている「農民工」とよばれる人口は約2億8千万人あまりと多い。春節に故郷に帰ったまま、交通機関の封鎖や欠航が相次いだり、都市に帰っても2週間の自宅隔離が義務付けられるため都市に戻れないままの人も約2億人以上にのぼるといわれている。農民工の人達にとって出稼ぎ先に自宅などない人がほとんどだからだ。そんななか、中国の企業や会社や商店などなど、さまざまな業種での解雇も多くなってきているようだ。厦門や福州の弁護士事務所に勤務している中国人の知り合いの弁護士が毎月出している通信によれば、「中国政府は新型コロナウイルス感染拡大にともなう、会社・工場・商店などの閉鎖期間の労働者への賃金は支払わなければならない旨の通達を出した」ということだった。賃金を支払わなくてもよいようにするために解雇という手段に踏み切る会社や店も多くなってきているのだろうか。

 大きな内部留保資金をもっている企業や会社や店などは別として、そうとうの企業・会社・商店などが経営的に行詰まってきていて倒産や閉店の危機に陥っていることは十分に考えられる。ウイルス感染の恐怖感や社会生活の極度の制限だけでなく、生活するための仕事もなくなれば、大きな社会不安がより増大することはまちがいない。「中国社会の正常化急ぐ 店舗やバス再開 政府指示受け」という記事が朝日新聞にも。中国政府は社会不安の増大や政府批判を抑えるためにも、感染レベルを3つのレベルに分け、感染の少ない省から企業・会社・店、交通機関の再開を促していると朝日新聞でも伝えられていた。

 さしずめ福建省は、南と北は感染者数が多い広東省や浙江省、そして西は江西省に囲まれた省だが(東は台湾海峡)、まだ感染者数は少ない方に入る省だ。だから、大学も他の省よりも早く、3月上旬には開学が決まる可能性が大きい。だから2月下旬頃には私も中国に渡航する必要に迫られそうだ。都市封鎖はされているのだが。まず2週間はアパートの部屋での隔離生活状況を迫られることとなる。食べる食料は手に入るのだろうか。どういう生活になるのだろう。不安はますます大きくもなる。

 日本でも中国人観光客の激減は経済的に大きな打撃となっている。「大阪から中国人観光客消えた ホテルは経営破綻の危機迫る」(夕刊フジ)、「賑わい減速 古都直撃 2/1-2/13 昨年比 収益:京都アバンティ半減 高島屋6割減  伊勢丹4割減 錦市場も賑わい消える」(京都新聞)などの報道も。ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大のニュースは中国のインターネット記事でも船内634人感染が伝えられていた。日本各地でも感染の広がりが懸念されてきている。日本政府も感染が新たな段階に入ったとしているが、こんな中で政府の感染対策会議に私用で欠席した内閣閣僚が3人いる。荻生田文科相と森法務相と小泉環境相だ。

 他の二人はまだ準公務的なものとの考えもできるので許せる範囲だが、小泉氏の場合は かなり私的な地元の新年会への参加のためだった。安倍首相の支持率が下がり始め次期首相候補のことも話題に上り始めている。総理にふさわしい人として石破氏の名がまず上がるが、次にくるのが小泉氏と報じられていた。昨年の国の世界環境問題会議などで、日本の環境相としてはとても恥ずべき「環境問題はセクシーに取り組むべきだ」との世界から失笑をかった発言や今回の欠席理由など、彼に「総理をやってほしい」などと考える人の無知さもまた恥ずべきことかと思うが。

 毎年3月5日ころから北京の天安門広場にある「人民大会堂」で2週間あまりにわたって開催される「全国人民代表者会議(全人代)」はほぼ延期されることが決まりそうだ。北京も「管理型封鎖都市」となっている。このため、習近平氏の4月上旬にも予定されていた「訪日」も延期される可能性も高くなってきている。「厳しくなってきた習氏の訪日 4月時点での終息宣言は困難に 東京五輪はギリギリセーフか」(夕刊フジ)とも先日報じられていた。そんな中、イギリスのロンドン市の幹部が「東京がダメならロンドンで」と発言していた。ダイヤモンド・プリンセス号はイギリスの船にも関わらず、よくもそんな発言ができたものだと呆れてしまう。日本はこの船の寄港を受け入れた国なのにも関わらずである。

 上記写真:左より①陳秋実氏 ②③許志永氏 ⑤許章潤氏 ⑥張千帆氏

 さて、中国政府はこの感染拡大にともなう社会不安の増大の中、言論統制を一段と厳しくしているようだ。21日付の朝日新聞の社説では、「中国とウイルス 情報の自由奪う危うさ」との見出し記事が掲載されていた。20日付では「感染拡大 非難 学者ら拘束・失跡―中国  強まる言論統制」(朝日新聞)の見出し記事も掲載されていた。

 12月下旬、原因不明の肺炎の流行にいち早く警笛を鳴らしたため拘束され始末書を書かされた8人の医師たちの一人、武漢中央病院の医師・李文亮氏がウイルスに感染し肺炎のため亡くなった。その後、中国のSNS上では李氏の追悼文などが多く飛び交った。その中には、今回の新型コロナウイルスの感染拡大の中国では、政府の言論統制が感染拡大を招いたとして「言論の自由」を求める声も起きてきている。正確な報道や情報発信を認める言論の自由がなければ、生命や生活が脅かされるとの認識が広まったためだ。

 このような世論の動きに対して中国政府は、「正確な情報と有効な対処のためにも情報は政府公認のものに一本化しなければならない」と強調している。このため、政府は言論統制をさらに強める動きとなってきているのが現状だ。さまざまなデマ報道も懸念されるので中国政府の強調も理解できないことはないが、これが政府批判を含むものとなると言論統制はとても厳しい処置をし始めている。

 李文亮氏は生前、中国メディア「財新」に、「健全な社会は一つだけの声になるべきではない。」と語り、中国共産党が流す一つの情報と価値観しか許されない現状への怒りも語られたことに、中国国民の多くが共感したともいわれている。李氏の死を受け、2月8日には北京大学法学部の張千帆教授や清華大学の許章潤教授らが、言論の自由を求める書簡を公表した。書簡は、「感染拡大は言論の自由の圧殺が生んだ人災だ」と中国の政治状況を批判したものだ。また、2月12日には人権派弁護士らが声明を出し、「言論の自由と知る権利の剥奪は、生命と健康に生きる権利が無視されていることだ」との訴えを行った。これらは当局からの拘束の危険性も極めて高く、まさに命を賭(と)しての訴えとも言える。

 許章潤教授は、2018年7月、習近平主席の三選改憲(主席在期制度の撤廃)を批判し、2019年3月に教授停職処分を受けたまま現在に至っている。そして、今年の2月2日には「激怒する人民は恐れていない」と題して政府を痛烈に批判する7000字の長文を発表した。私はこれを読んだが、警世の言(社会への警告)とも言える文章だった。中国古代の憂国の士・屈原(くつげん)を彷彿させる文章だった。

 許氏は2月2日の文書の中で、「すべての原因は習近平主席と彼をとりまく閉ざされた制度にある。官僚はシステムの後ろに隠れて責任を取ろうとしない。このため感染の発生に対応する機会の窓が閉ざされてしまった。—(中略)   習近平政権に入って官僚のモラルがひどく低下し、職業倫理と献身が全体的に崩壊した」と主張。続いて「権力は数年間、市民社会を発展させるすべての信号を抑圧させる試みを加速している」と指摘した。そしてまた、新型コロナ事態に例えて現状を「中国が封鎖・隔離された時代」と表現した。許氏は文章の最後に、「これを書き終えてみると、処罰を受けるだろうという予感がする。私の人生で最後の文になりそうだ」と書いた。そして、その言葉通り、2月10日からは許氏との連絡は途絶えた。当局に拘束された可能性が危惧されている。

 武漢市内で市内の状況などをインターネットを通じて発信していた北京の弁護士で市民ジャーナリストの陳秋実氏も2月6日から音信不通となっている。拘束や強制隔離の可能性が大きいようだ。また、武漢市民で衣類販売業の男性は、病院の外に駐車されていた車から8人の遺体が運ばれる場面に遭遇し、それを撮影してツイッターに載せたため その後 警察に拘束された。警察の取り調べでは、警察から「『否定的な映像を発信してはいけない。政府や行政などの一つの声だけでなければいけない』と言われたとし、「『一般市民はウイルスの状況を知らせる権利はなく、今後もし こんなことをしたら また強制連行されるだろう』と言われた」と釈放後にツイッターで伝え、「市民全員で抵抗しよう」と呼びかけた。この映像を最後に彼の連絡・消息が途絶えている。

 2月17日付の香港紙には、中国の人権活動家・法学者の許志永氏が広東省の省都・広州市で2月15日に拘束されたことを伝えていた。許氏は1月に「新型ウイルスの対応の問題など、習近平主席は辞任すべきだ」との発言をインターネットでしていた。

 習近平氏は1年ほど前に、西欧諸国のような政治制度や民主主義制度には、迅速に対応するスピードがない。それと比較して、中国の政治制度やシステム(中国共産党1党支配、司法・行政・立法・軍事のすべてを党が指導するという)は迅速に決断し対応することに優れていると国内外に自国の政治制度について誇った。確かに、迅速な決断と対応という点では優れている場合も多々多いかと思う。しかし、今回の新型肺炎問題に関しては 初期の対応(1カ月間)は迅速・スピードとはいかなかった。事実上、隠蔽されていたり、報告をあげなかったり、湖北省や武漢市の「人民代表者会議」のことを優先させていた面が明らかになってきている。許教授の指摘することが的を得ているということだろうか。

 中国のインターネット記事を閲覧していると、中国外交部の副報道局長が米国の新聞「ウオール・ストリート・ジャーナル」に対する批判と謝罪要求の記事がこ10日間あまり毎日掲載されている。そして、この米国の新聞社の北京駐在員の記者証を取り消したとも発表していた。3人は事実上の国外退去処分となる。この問題の発端となったのは、同紙が2月3日に発表した「中国はアジアの病人」と題した大学教授によるコラム。中国人はこの言葉を外国人から言われると"非常に敏感な嫌悪感と怒りを歴史的(1940年代より)にもつ"背景がある。中国外交部は、「人種差別を含む見出しだ。中国は公式の謝罪と責任者の処分を求める」と要求している。この問題については、確かに中国外交部の抗議は私には理解できる。

 ◆最近、市内の図書館から数冊の本を借りて読んだ。『始皇帝の永遠』(小前亮著)[講談社]。小前氏は、『唐玄宗紀』や『李世文』『覇王 フビライ 世界支配の野望』など、中国の歴史を描いた著書も多い。『太平天国戦記』(柘植久慶著)[PHP研究所]は、中国の1850年代〜60年代の太平天国の乱を歴史的な背景で描いた著書。2冊ともとても興味をもって読んだ。6年間以上の中国生活の中で少しずつだが中国の歴史について勉強もしてきた。このような歴史小説を読むと、かなり具体的にその時代のことが理解できてもくる。

 『本能寺』(著者 複数)[講談社]もとても面白かった。本能寺の変を巡っての短編がいくつか掲載されている。それぞれの作家によって、それぞれの人物からの視点で本能寺の変が描かれる。大河ドラマ「麒麟がくる」、本能寺の変の真相は、明智光秀の思いとは‥。

 

 

 

 

 


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